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女神(アイドル)たち舞い歌いて、邪を祓う  作者: 暇崎ルア
第2章 火の粉に魂(ライム)を混ぜ合わせ

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24/35

穂村茜 過去

第2章、第3話。

茜が「ばんかみ」に入ったきっかけとは……?

 茜は最初からアイドルを目指していたわけではない。アイドル志望者がこれを聞けば怒るだろう。

 すべての始まりは「大学を卒業して就職なんてまっぴらだ」という若気の至りが先だつ不純なものだった。それでもエミネム、ニッキー・ミナージュ、Run-D.M.Cなどの先人たちに憧れ、日々の不満を連ねるミックステープを動画サイトに載せていた。「ワンチャン、バズるかもしれない」という欠片のような願いを込めて。

「好き」というだけで続けた甲斐はあったな、と後になって思う。早期化する就活への不満をぶちまけたラップ動画に莫大な再生数と「いいね」、好意的なコメントがついた。気づけばインディーズレーベルからオファーが来て、あれよあれよというままに「期待の新人フィメール・ラッパー 穂村茜 a.k.a 姉御」としてアルバムを出していた。a.k.a名は中学時代のあだ名である。

 高天原との出会いは、もうすぐ大学を卒業できるという時期に出演した深夜帯の音楽番組だ。就職などは、当然決まっていなかった。


「さっき歌ってた曲、めっちゃ良かったよ~」


 収録が終わったあとの楽屋、高天原は初対面の茜に飄々とした態度で話しかけてきた。

 彼の話は、ベテラン歌手によくある偉そうな態度で茜の曲を散々絶賛するだけで終わるかと思っていたのだが、そうではなかった。


「今度俺、アイドルグループ作るんだけどさ。茜もオーディション受けてみない? 結構向いてると思うんだよね」


 茜の親の世代なら誰でも知っている国民的大物ロックアーティストがアイドルグループを作ろうとしているという話も衝撃だったが、そのあとの誘いに思わず「何言ってんすか」と口走ってしまった。失礼な物言いにも高天原は「そうかなあ」と言うだけだった。


「人選ミスっすよ。あたしは口調も男だし、かわいくないし」


 自分で言うのもなんだが可愛げはゼロのことは承知している。普段は気を付けているが、気を抜けば男のような口調になる。昔からの癖なのだ。


「なんだ、そんなこと気にしてたの? それだからいいんだよ」


 白い歯を見せてくっくっと笑った高天原の顔が今でも忘れられない。


「俺の理想のアイドルはね、ただ『かわいい』だけじゃダメだと思ってるの。クールさとワイルドさも求めてるわけ。今日の茜のパフォーマンスを見て、求めてる才能だと思ったよ。物は試しにやってみなよ」

「……マジで言ってます?」

「マジ、マジ。本気と書いて『マジ』と読みます、ギタリストは嘘つかない」


 根拠のない自信とともに頷く高天原。


「……そんなにあたしにアイドルグループに入ってほしいんすか」

「うん、入ってほしい。オーディション受けてくれる?」

「仮になれたとして、あたしにソロ曲としてラップさせてくれます? それができるっていうなら受けますよ」


 ——さすがに無理だろ。

 意外にも、高天原の答えは「もちろん」だった。


「それがしたいから誘ってるんじゃないのさ~」

「へー、そうですか。だけど売れるんすか? 男っぽいアイドルがいるグループなんて」

「そんなこと心配しないで大丈夫、全部の女性アイドルが可愛い系だけじゃつまらないだろ? 個性で売ってくんだよ」

「なるほど、随分と自信あるんすね」

「大ありだよ、俺が作るんだもん。そういう茜の方こそ、本当は自信ないんじゃないの?」

「は?」


 脳内の血管がぶちりと切れたのではないか、というぐらい頭が熱くなった。


「さっきから『無理なんじゃないか』『大丈夫なのか』とか言い訳みたいなことばっかり言ってるじゃない。もしかして自信ないんじゃないの~? 活躍増えるって話聞いて怖気づいちゃった?」

「ちがっ、それは」

「——違うっていうなら、オーディションまで来てくれよ! じゃあね~」


 高天原はジャケットの胸元から折りたたんだ紙を茜に去っていった。

 開いたそれは「高天原光明プロデュース! 新アイドルグループオーディション参加受付中!」という募集チラシだった。

 ——あれは完全にしてやられたな。

 今にしてはそう思う。高天原は、挑発に乗りやすい茜の性格を見抜いたうえであんなことをいけしゃあしゃあと言ったはずだ。

 結果、茜は「畜生、舐めたこと言いやがって」と燃え上がってしまい、そのままオーディションを申し込んでいた。

 てっきり一次の書類審査で落ちるのではないかと思っていたがあっさり通過した。二次選考では、部屋全体は明るいのに一か所だけやけに暗いところがある面接会場で得意のラップを披露した。

 茜は言われた通り、いわゆる「かわいい」系でデビューはしなかった。衣装のほとんどがパンツルック、マニッシュなパーカーやジャケットが多いストリート系の衣装で男性アイドルを思わせるポジションについた。口調も普段通りの荒っぽい口調が多少は許されている。

 ダンスの練習は大変だったが、ミーガン・ジ・スタリオンとか近年のラッパーがMVでキレッキレの振り付けで踊っているのを見ると、今後の自分のキャリアに役に立つだろうと思って気合いが入る。始めた動機は不純だったが、こうして続けられて活躍できるということは、それなりの幸運だか才能高があったんだろうと思う。

 真のラッパーは「アンダーグラウンドで金を稼ぎ続ける者」という認識が強いからか、かつてのファンからは「落ちたな」と言われることもあるが、自分の言葉を多くのファンに届けられるという点では、アイドルもラッパーも同じなのではないかと思う。

 だからこそ「ばんかみ」の一員になり、自分の曲を出させてもらえるのはありがたいと思っているのだが。


「……わっかんねえ」


 数分にらめっこしたノートとペンを放りなげるように手を伸ばし、テントのど真ん中に倒れ込んだ。

 言葉が何も思い浮かばない。「茜らしさ」ではないものが何かを考えようとすると、脳が思考を放棄しようとする。俗にいうスランプなのかもしれない。

 ——なんかとっかかりだけでも。

 そう唸ったときに、ばっとテントの入口が捲られた。


「ただいま」

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