水上流奈 お説教
第1章、15話。
一件落着、と思いきや……?
安アパートの階段を降りた先には、黒の国産自動車が止まっていた。
水上流奈がその場を立ち去るより早く、運転席から一人の男が降りてくる。
「非公認アイドル活動お疲れ様です、流奈」
「ええ……夢でしょ」
「いえ、現実です」
流奈を見下す、180を超える長身を黒いスーツに包んだ男——因幡兎史博はにこりとも笑うことなく淡々と告げた。
「マネージャー、ずっとここにいたんですか……」
「そうで~す、俺と一緒にね」
助手席からもう一人男が下りてくる。因幡とは正反対の笑顔とともに、サングラスを額にかけた男が降りてくる。
「ごめんね、因幡くんと見張らせてもらってたよ。スキャンダルとかあったら困るし」
助手席から降りてきた男——高天原光明はかっこつけるように前髪をかき上げてから、流奈に向かって一度ウインクした。
「言っときますけど、熱愛とかそういうのじゃないですからね。そういう相手がいたら、アイドルとかとっくに辞めてます」
「別にそれは心配してないです」
「うんうん、大丈夫。流奈はただライブを兼ねた除霊に行ってただけだろ?」
——あーあ。
文字通り、流奈は頭を抱えた。
「……どこから知ってたんですか」
「まあまあ、あとの話は乗りながらしようぜ。夜遅いし、寮まで送るからさ」
このときの高天原の言い方はどちらかというと「提案」より、「強制」の方が近かったかもしれない。
「プロデューサーとマネージャーはいつから知ってたんですか、このこと」
流奈がそう尋ねたのは、因幡の運転する車が最初の信号を待ち始めたときのことだ。
「夕方の六時ごろ、流奈と茜が寮にいたときからです」
運転する因幡が淡々と返す。車は寮がある渋谷区に向かっている。
「はっ? そのときからずっと?」
その時間は、流奈が寮で除霊の準備をしていたときだ。
「そうです」
「どうやってそんなことしてたんですか! 超能力?」
「それに関しては俺から説明するね~」
助手席の高天原が、挙手しながら言った。
「流奈さんの立ててた作戦の詳細は茜さんに聞きました。それを聞いてまず俺たちはお守りを用意したんですな」
「お守り?」
『……お守り?』
愕然とした流奈の呟きが、雑音と共に高天原の方から再生された。
「こいつが、その正体です」
高天原が旧式の携帯電話のようなものをジャケットのポケットから取り出す。
「何ですか、それ?」
『……何ですか、それ?』
再び流奈のつぶやきが、高天原の手元から繰り返された。
「青い星のペンダントにつながっているトランシーバーです」
横から口を入れた因幡の補足を理解するのに時間がかかった。
「嘘でしょ……」
「可哀そうだから、もうスイッチ切っちゃうね」
もう流奈の声が繰り返されることはなかった。
首から下げていたネックレスを外し、よく改めると青い星の脇には「オン/オフ」のスイッチがついていた。
「……やられた」
星についていた余計なスイッチをオフにするが、もう遅い。全てはプロデューサーとマネージャーの手中だったのだ。
「ごめんね~。流奈が三河島さんとこで何をやっていたかは筒抜けでした」
「何から何までとんでもないことやってくれましたね、流奈さん」
因幡の一言が追い打ちをかける。
「この度は大変申し訳ありませんでした——これって活動自粛ものですか?」
「別にそこまではしなくていいんじゃな~い? 三河島さん以外のファンにはバレてないし」
「彼女にバラされたら終わると思いますが」
「まあそれも大丈夫でしょ。彼女、流奈にぞっこんタイプのファンだし、推しに迷惑かけるようなことはしないと思うな」
「大丈夫、大丈夫」と根拠もなく頷く高天原。隣で因幡が大きくため息を吐いた。
「だけど今度からこういうことするときは、ちゃんと俺とか因幡くんに言ってほしいけどね。ひとつ間違えたら、流奈の身に危険が及んでたんだから。呪いを舐めてかかるとこっちがやられるよ」
軽かった高天原の声はうってかわって真剣になっていた。
「はい、すみませんでした——ですけど、プロデューサー」
「ん?」
「なんかその言い方だと、あたしがさっきしてたこと容認しちゃってません? 怒らないんですか、何余計なことしてるんだって」




