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醜い騎士はエルフ美少女となる。〜醜い騎士はいらないと馬鹿にしたのはあなたでしょう?〜

作者: 足将軍

短編、というよりか少しだけ書いたので反応を見て続き書くか考える…みたいな感じの作品です。


「第一王子のケツ穴に爆弾が埋め込まれているようです」


「???????????????????????????」



 黒い甲冑を身にまとい、王城に帰還した日……そんなことを言われてる騎士は、いったい誰だろう?

 任務でへとへとになり、可能であればすぐにでもベッドで眠りたいというのに……この仕打ちはあんまりじゃないだろうか。




 けれどまあ、いつものことかと……ため息を内心でついてから……これから来るであろう新たな任務にうんざりしながら頭を悩ませることになる。


◆◆◆


 アルガレア・コードアウト。

 この国ではその名前を知らぬものはいない。


 先代の国王ゴーティス・フォン・イグニシアの代より仕えている齢五十は超えているであろう老騎士の名だ。


 王家の身辺警護を行い、時には王の命令により戦場に赴くことすらある第一騎士団。その副団長の地位に立っている。


 老騎士とは体力が衰え、指導役に回るであろうことが通例である。

 しかし通例は通例、どこにでも異例というものは存在しており彼はその〝異例〟に分類されるものであった。



「…爆弾、ですか」



 全身を黒い甲冑に包み、血を浴び続け、いつの間にかドス黒いオーラを放ち始めた長剣を腰に携えた姿に…衰えはカケラも感じられない。




「嗚呼、今朝方手紙があってな。

 この城のどこかに爆弾が仕掛けられている、らしい。

 しかもあと九時間で爆発するんだと」



 対するは彼の主君、イグニシア王国の現国王シルヴァ・フォン・イグニシア。

 今年で三十五歳

 彼が幼少の頃よりアルガレアは護衛としてついていた。


 ゆえにその口調は些か砕けたものであり、臣下への言葉というより旧友に語り掛けるようなものだった。




「悪戯でしょうか」

「俺も初めはそう思ったんだがな、無視出来ない理由があったんだよ」



 おそらく件の脅迫状と思われる紙切れをひらひらと揺らしてからシルヴァは、その事情を口にする。



「――――この手紙、俺の部屋、しかも枕元に置いてやがった」



 いうまでもなくシルヴァは国王である。その就寝中は必ず二名以上の騎士が扉の前で警護を行い、夜通し兵士で巡回をさせている。

 騎士以上の力を持つ人間など、戦場を探せばちらほらいるが、それでも誰も下手人を感知すらできないというのは異常である。




「…警備のものは何をしていたのですか」

「ははは、アイツらがまともに働くわけねえだろww第一騎士団の名前がほしいだけの貴族の集まりだぞww」



 第一騎士団、その戦果は連戦連勝。苦境に立たされた第二騎士団を救い出し、強大な魔物が現れれば派遣されて一刀のもと討伐を行う……というのが民からの評価だ。



 しかしその内実は、副団長のアルガレアを除けばすべてが貴族の血を引いている人間だ。

 加えて言えば、その騎士としての席は金を積んだというボンボンしかいない。




「…お前が一人で、討伐したってのに…〝第一騎士団が討伐しました〟って吹聴して気持ちよくなるんだろうな」



 最早いつものことだった、今回の任務…魔獣の討伐であった。

 無論、アルガレア単独で撃破したが、その栄光はアルガレア個人ではなくあくまでも第一騎士団のものとして発表される。



「悪いな……いつも迷惑をかけて」

「……陛下に仕えることができる、これに勝る名誉などございません」

「お前はいつもそういうよな………………ま、あの馬鹿どもも十分肥えたし、そろそろ狩るか♤」



 シルヴァが色々と企てているのは常のことであった。

 現在も、おそらく裏で横領の証拠などを集め終わっているのだろう。




「ですが陛下は我が名誉のため、この卑賎の身に伯爵位を与えてくださりました」

「お前は親父の代から武勲を立て続けた英雄だ…本来は子爵位を与えて然るべきだろ」



 アルガレアの立てた武勲は、そう呼ぶに相応しいものであった。

 内乱が起きた際、ただ一人で当時の王を守護。


 騎士団では討伐できないほどの強大な魔物の単独撃破、戦争をただ一刀の元に沈めた。

 大英雄、と呼ぶに相応しい偉業の主。


 それを手元に置いておきたいのは当然のことだろう。



「伯爵位でも、十分破格ですよ」



 だが、当の本人がこれで良いと、締め括ってしまう。

 今回の任務も本来は行かずとも良いものだった。周囲からの圧力、政治的理由、そういったものにより致し方なく遠方へ赴いたのだ。



「遠方における魔獣討伐の任務を終えて早々、悪いが…協力してくれるか?」


「拝命いたしました」



 陛下の命令であれば、断るなどと言う選択があろうはずもない。

 それどころかアルガレアは歓喜に震えていた。


「爆弾の捜索にあたる上で、疑問点があります」


 そして動く前に、一つ疑問点があった。

 本来であれば陛下にお伺い立てるのではなく、その下のもの…宰相あたりに伺うのが筋ではあるもののそこは長年の友としての特権であった。



「何故、使用人は平時と同様に働いているのでしょうか…」


 そう、爆弾が仕掛けられているというのに、平時と変わらず商人が働いているのだ。


 事情を知らない可能性もなくはないが、それはあまりにもリスクが高すぎる。



「王城で働くものは奉公に出されたものがほとんどです。元来貴族の血(ブルーブラッド)である彼女らが、まるで爆弾の存在を気にしておられないようなのですが…」



 男爵家のものや伯爵家といった下級であるものが大半ではあるがそれでも国を支えた臣下であり、避難させない理由がわからない。


「ああ、それか」



 陛下は髭を弄りながらなんだそんなことか、と言い捨ててから。


「おおい、誰かおらぬか」


「はッ!」


 騎士を呼び出した。

 王の命令を聞く騎士は、そのまま敬礼を取る。



「殺害予告があった、この城のどこかに爆弾が仕掛けられているらしい。

 すぐに逃げよ」

「は!?!?」



 ————そして打ち込まれる爆弾発言。

 酔狂でも起こしたのではないかと疑われるレベルの言葉に騎士は驚愕の声をあげる。


 そして大慌てになる————が、瞬間、身体が、何がまちばりで縫い付けられたかのように固まった。



「…これは」

「弱いとこうなる、第一騎士団は全滅だな」


「————??? 特に用事がなければ職務に戻らせていただきます」



 そしてきょとん、とした顔でそう告げると、フラフラとした足取りで部屋を出ていった。


「対魔力が一定以上ないとあーなる。

 爆弾に魔術が仕掛けられてるな、恐らく」



 事情は分かった、自分があてがわれた理由も得心がいった。

 犯行予告といい、この大規模な魔術といい……他のものでは対応しきれないだろう。



 ならば、と


「承知致しました、であれば陛下はすぐに避難を」

「嫌だ」



 ……



「……御身に何かあれば私は先代様になんと」

「断る」



 ……



 

「……御身はこの国にただ一つ、替えなど効かない」

「俺は王だ」


 …………


「…」

「…」(にこっ、王様スマイル)



 ……満面の笑み。そして私はたまらず大声を上げた。



「またですか!? またいつもの発作ですか!?」

「おうよ! 配下が頑張ってて俺が安全な場所にいて王道を示せるかよ!」

「その決断でいっつもどれだけの人を困らせると…!」

「いつと困らせるのはお前だけだ!! 国民の命を左右する局面でこんな無鉄砲な決断するわけないだろ!! 良い加減にしろ!!」

「ええ!? なんか怒られた!?」



 しかも目の前に困る相手がいる状況でである。

 幼い頃よりそばに仕え、武術の稽古などもしたためなのだろう。

 他の臣下にはない信頼…と呼んでいいのか判断に困るものがそこにはあった。


「あ、それとアリスも事情は知ってるから確定で〝一緒に捜査しようぜ!〟とか言ってくるぞ」

「アリス姫殿下もご存じなのですか!?」



 アリスロード・フォン・イグニシア殿下。

 この国の第二王女であり、私が今現在護衛として仕えている御方でもあった。


 そしてどうやって避難してもらおう…と困惑し、思考を巡らす刹那に。




 バーーーーン!! と、扉が開け放たれた。


「一緒に捜査しようぜ!!」

「お、全部当たった」

「アリス、様…」



 元気一杯の、金髪ツインテールが玉座の間に入ってきた。



「アリスを頼むぞ、放置しても暴走するし放置しなくても暴走するがアルガレアが心労を負えば負うほどその暴走も少なくなる」

「…っ、は…! なんとしてでも、暴走を食い止めます」

「娘を前にする会話じゃないのだ」


 私としては元より意思などあってないようなものだったし、別に構わなかったのだが…



「と、いうわけなので行きますわよ!

 アルガレア!! 俺たちで世界を救うんだ!」

「アリス様…今度はどこの小説に影響を受けたんですか」



 そして主君であるアリス様はよく変な物に影響される。

 恋愛小説に影響されたかと思えば


〝お父様、アリスは真実の愛を見つけました! アルガレアを性奴隷にします!〟

 と叫び出し……読んでた恋愛小説が成人向けのものが発覚した。検閲しろよ。



「……迷惑をかけるな、アルガレア」

「……もう、慣れましたので」



 冒険小説に影響されたかと思えば


〝見よ! 聖剣エクスカリバー! これで男のケツを掘るのよ!〟

 と叫び出し読んでた冒険小説がハードゲイものだと発覚した。いや検閲しろよ。



「しかし爆弾の調査…ですか。

 何も手段がない状態で動けば難しいですね…ここは魔術塔のものを誰か…」

「専門家を呼んでますの!」

「流石でございます、アリス様」


 爆弾の調査と聞いて、アリスは既に動いていたのだろう。

 普段からの暴走に次ぐ暴走はこの伏線だったのですね…とアルガレアは感動に震えた。



 ————そしてそれが、さらなる暴走列車の到着だと、すぐ知ることになる。

◆◆◆


 王城の廊下を歩きながら、ふと疑問…否、嫌な予感がしてアリス様へと語りかける。


「しかしアリス様…魔術塔の何方を招いて」

「おーし! エクレアよ! アルガレアが帰ってきたから作戦会議始めるぞーー!」

「……え、エクレア…?」



 ここじゃ! と、用意していた一室の扉を豪快に開く。

 せめてノックとかしてあげてほしい…次の礼儀作法の授業で、それ系の話をしよう。


「エクレア……君でしたか」



 魔術塔、統括責任者エクレア・ハーミット。

 魔術塔…魔術の研究、魔道具の開発、研鑽…魔術に関わる事柄を研究し、ある時は互いに協力し合い、国家に貢献する働きを是とする…という大義名分のもとに設立された組織…その長である。



 黒い髪は天然の癖っ毛で、白衣を着ているもののその内側にはスク水というマニアック極まりない格好の女。


 それがアリス様と私を見て、くけけ、と特徴的な声を漏らした。



「くけけ、偉大なる第三王女様が動かせるコマの中で即日来るものなど、この僕、エクレア・ハーミットくらいしかおりますまいて」

「皮肉か! 皮肉だな、おし! 不敬、死ね!!」



 アリス様は不気味な笑みを浮かべたエクレアを速攻で捕まえて、唐突にサブミッションをかけ始める。



「ああああああ゛!! フルネルソンぎづいぎづづづづづぎも゛ぢぃ゛い゛いいい゛っ゛!!!」

「よーしよし、いつもサブミッションされたくて不敬罪連発しやがって、そんなに受けたいならくれてやるわあ!!」



 しょわあぁぁぁ♡ 王城の一室にも関わらず当たり前のように失禁するエクレアにドン引きしながら、何故何回注意しても学ばないのだろう…と疑問に思いながらメイドに紅茶を入れるよう指示を出す。




「はぁ……はぁ……さ、い、こう……」

「エクレアよ、其方の体液で床を汚すのはもういつものことだから目を瞑ろう(本来ならぶっ殺したい)……だが、アリス様への不敬は」

「よい、私にこんな馬鹿なことするのはこやつくらいじゃ。

 馬鹿が一人くらいいても構うまいて。

 それに、私はエクレアが好きだぞ!」



 ぽっ、頬を赤らめるエクレアを横目に…アリス様を見据える。


 一人優遇するというのはよろしくはない。

 王家を舐めるカスが増えるかもしれない…正直、この馬鹿を今すぐ近くの川に叩き込みたい。だが。



「アリス様が、そういうのであれば致し方ありません…ただしエクレア、アリス様の器の広さへの感謝を忘れないように」

「はい、かしこまりました」



 そう言い締めるが、もう半分諦めかけている。


 エクレアはアリス様の機嫌や、性格を熟知した上でこの対応をしている。

 つまりこの女の振る舞いは全て計算された上でのものである。


 馬鹿に見えて狡猾…マゾに見えて…いやこれは普通にマゾだ。



「アルガレアはそれを言うのが仕事じゃからなぁ〜。がはは!」

「アリス様…その笑い声は……いえ、今日はもういいでしょう」



 仕事だと理解してくださっているなら、まあいい…と流す。



「な? 理解したらその分、引いてくる、かわいいじゃろ?」

「はい、このエクレア…姫様の性癖のねじ曲がり具合に頭も上がりません」

「不敬!!」



 パチィン!! とアリス様がエクレアのケツをぶっ叩く。



「あひぃん!? ありがとうございます!」



 そして、このエクレアなる者。悲しいことに魔術塔のトップであり、国の運営にも欠かせない…と言わずとも替えが効かない人物ではある。



「エクレアよ、汝を呼んだのは他でもない、あ、縄をよこせ、アルガレア」

「……は」



 王家の威信に泥を塗りたくられる事態をどうにかして避けなければならない…と、考えながら素直にアリス様の指示に従うのは、私も疲れていたのかもしれない。



「はい、事情は伺っております。

 王宮内で爆弾があり、それを捜索できるようにせよ、とのことでしたね」

「……」



 ぷらーん、と亀甲縛りで宙吊りにされているまま話し続けるエクレア。

 もう絵面が酷すぎてどっと疲れたが、最早いつものことなので、と思考放棄する。




「白衣のポケットに作ってきた魔道具をいれております」

「……? 入っておらぬぞ、エクレア」



 白衣のポケットを弄るアリス様、だがそこにはダンゴムシしか入っておらず、アリス様は残念そうにダンゴムシを自分のポケットに入れた。没収した。



「あ、胸ポケットの方で」


「何!? 揉むしかない!! ほおおおおおお!?」



 その言葉を聞くや否やフォオオと叫び出しておっぱいを揉み始める。

 テンション上げないでくださいアリス様。



「右左、どっちじゃ、どっちのパイじゃ!

 どっちを揉んで欲しいかいってみろぉ!」

「ひぃぃ、ど、どっちも揉まれてますうううういい!!」



 同性とはいえ女性の胸を揉みしだき叫び出す姿が余りにも醜いので引き剥がす。王女の姿とは思えない……。



「胸ポケットだな、ああ、これか」

「い、いっさい胸に感触を与えずに抜き取りやがったぁ…」

「しかも今…動きの起こりが一切見えなかったのじゃ……無拍子かよ、こいつ」



 胸ポケットに手のひらサイズの端末が入っていた。

 それに魔力を流すと端末のパネルが光りだす。




「これ難しかったですよ、本来は魔獣の生体反応をサーチするためのものを改良したのです。

 そのため範囲はせいぜいが十メートルになってしまいました」



 パネルに映し出されたのは部屋の見取り図のようなもの。

 通常の見取り図とは違う点は、それには生命反応がリアルタイムで表示されていることだろう。



「ふむ……確かその魔道具は一キロ範囲ないの魔物の場所を引き当てる、というものではなかったか」

「ええ、本来はその機能です。

 ですが今回はその爆弾とやらは隠されているとのこと、であれば範囲よりも精密さを強化したということです」



 私も見たいー、と言ってくるアリス様に端末を渡すと指でいろいろと弄っているようだった。

 すると表示されている見取り図が、三次元上のものとなる。


 その精巧な技術に、思わず感嘆の息を漏らしてしまう。やはりエクレアは天才なんだと再認識できた、本人の言動と人格と何もかもが酷すぎるだけで天才なんだと、ここで再認識できてよかった。たぶん明日には評価が元に戻る。



「強化内容はどのような内容じゃ?」

「は、従来のものでは大雑把な位置が画面上に表示されるというものでしたが……こちらであれば範囲内のものであれば高度、状態、またそれがどのような種類なのかが分かるようになっております。

 まあ〝爆弾〟って情報しかなかったのでもうヤケクソで詰め込んだ感じですが」



 つまりは〝これ持って王宮を歩き回ればいい〟ということなのだろう。

 使い方は単純だが効果範囲が狭すぎる。

 そのため長期戦になることが予想された。



「よし! 爆弾探しじゃ! ゆくぞ! アルガレア」

「はい、であればこちらの魔道具は私が預かっておきましょう」



 魔道具を持ちはしゃぐ姫様へ、紳士のエスコートのような仕草で手を差し出す。



「姫様? そちらの魔道具を持って走れば、怪我をしてしまうことも考えられます」

「どうせわかっておるぞ、お前、自分一人で捜索に行って私をどっか遠くに避難させる気じゃろう」



 ピシ、と電流が走った気がした。

 まずい、バレてる。今まで同じような言い訳で簀巻きにして部下に避難させたり強行策を取りまくっていたのもあるのだろう。



「……」

「……」



 にこっ。とりあえず笑ってみた。甲冑なので分からないだろうが。

 そうするとアリス様も年相応な、けれどもとても愛らしい微笑みを返してくれました。うーん美姫。



「————ご賢察のほど、感服仕りました」

「やっぱり仲間はずれにする気ではないか!!」



 パシュッ、と空気を切る音と同時に魔道具を回収する。

 そして手早く片付けてしまおう、とエレノアを吊らしている縄を切り、甲冑縛りのまま連れて行こうとして…………アリス様に袖を掴まれた。



「……つれてって」

「なりません」



 危険なので無理です、この後信頼できる騎士を手配して安全な場所に避難させる予定だ。



「おねがい♡」

「ぶりっこしてもダメです」



 可愛くてもダメなものはダメです。



「私、あなたのような人、嫌いなのよ」

「クール系なら大丈夫って意味じゃないです」



 眼鏡をかけてクイッ、としながらいうアリス様。それどっから持ってきた。



「べ、別にあなたのためなんかじゃ」

「……」

「愚別の目はやめるのじゃ……」



 つけ八重歯で腕を組みながら、まーたどっかから引っ張り出した小説で影響を受けたのだろう。意味不明な言動をしそうだったので眼光で黙らせる。



 だがその強情さは、なんというかどれだけ言っても聞いてくれなさそうな……なんか玉座の間で見た覚えがあるような眼光を前に折れる。



「はあ……であれば、条件が一つだけあります」



 この王家はいつも、よくわからないところで変な意地を見せる。

 そしてその意地に従うと、驚くことにとんでもなく良い結果になるのだ。


 そんな天運を強引に引き寄せる、という在り方にひかれたのもまた事実だった。



「もしも何かの間違いでアリス様が危険な状態になってしまったら、真っ先に私、もしくはエクレアを盾にしてください。その条件を守れるならば大丈夫です」

「え!? 僕も!?」



 アリス様に万が一でも怪我があってはならない。そのため出来れば軟禁してでも守りたいのだが…それをすればさらに最悪なことになるのは目に見えている。



「え、いいの!?」

「もしここに閉じ込めても、なんとかして出てくるのは目に見えておりますので」



 過去、安置に軟禁したことがあった。


 そうしないとアリス様の命が危うい状態になるからだと、陛下にもお伝えしてやむを得ず了承を得た上で…名目上は〝陛下の命令〟というもので軟禁したのだ。


 ————結果、キレた姫様によって国の作物が半分近く死滅した。



 軟禁してた部屋なんか酷い有様だった、無機物に蛆が沸くという地獄みたいな状態に嘔吐すらした。



「いぇーーい! やっぱり俺の男装騎士は最高だぜ!!」

「……今度は、どの小説から影響を受けたんですか」

◆◆◆



 アルガレアが諦めて、アリス様の動向を許してから早数分。

 宮殿内を歩くも、そう簡単に見つかるわけもなく…その道中で、会いたくない人と会っていた。



「あらお兄様、御機嫌よう」

「……ふん」



 アリスがとても元気に挨拶するも、何か気分を害したのが一瞥だけして、不快そうに顔を歪めた。



「忌姫が僕の道を遮るな」



 どん、とぶつかって押し倒すと…そのまま道の真ん中を歩く男。

 それを前にエクレアは道の脇にはける。

 アルガレアは即座にアリスに駆け寄るも、アリス自身に「別に良いのじゃ」と遮られる。



「うわあ、アルガレア卿、あれ誰ですかぁ? 昼ドラ?」

「第一王子フレデリック殿下だ、アリス様の腹違いの兄君に当たる」


 自国の王子の顔は覚えておいてほしい。

 いや、アリス様大好きだからアリス様しか知らないって言われたらアルガレアは弱いののだがそれでも覚えてほしい。




「ふん……」



 そこでフレデリックはアルガレアに気付いたのだろう、近くによると不快そうにしてから



「お前は醜いな、本当に……ぺっ」



 ————涎を飛ばした。


 よだれが甲冑の腹部につく。



「僕は醜いものが嫌いだ」


 そう吐き捨てて、苛立ちを抑えもせずに蹴られる。



「鏡みたことなさそう」

「エクレア、黙れ。殿下の御前である」



 鎧に涎を吐かれたが、そんなものは拭けば済む話だ。

 だが、それを見てアリスは〝ふふ〟と笑ってハンカチでアルガレアの鎧についた唾液を拭った。


 そして、それをそのまま


「お兄様♡ 落とし物ですわ♡」



 唾液のついたハンカチ、その汚れた部分をフレデリック殿下の顔面にずりずりと擦り付ける。



「ちょ、や、やめ、きたな、やめろ!!」



 フレデリックは逃げようとするが失敗する。

 アリスがそのか弱い腕で、フレデリックの腕を握りつぶしているからである。




「お兄様、アルガレアは私のものです。

 私の美しすぎる顔を殴るのは我慢できても、アルガレアを汚すのは許容できませんわ」



 ぐい、と胸倉をつかんで引き寄せる。



「人の心は移ろい、時に争いを齎す。

 けれど……胸の内に秘める美しさも、また淑女の……いいえ、貴族の嗜みではなくて?」

「は、、な、なんだよ……うるせえな、俺がどうしようがお前に関係ねえだろ! き、きも!」

「お兄様の行動が、私の所有物に汚れを加えているから申し上げているのです」



 掴んでいた胸倉から手を放し、今度は淑女のように指をそっと自らの頬に添えてふふ、と微笑んで。



「あとレディに忌姫は、感心しませんわよ?

 それとも――――お兄様の護衛は、よほどの無能なのかしら?」


 ビクッと、唐突に睨まれたことでフレデリック付きの護衛は目を逸らす。

 あまりにも情けないその姿に…フレデリックはただ不快を隠しきれず


「………ちっ」



 小さく舌打ちをして、去っていった。


「ふぃ、めんどくせぇですわーー。さ、次行きますわよ」


 一仕事した、と言わんばかりの態度のアリスに…アルガレアとエクレアは少しだけ嬉しくなっていた。


 その天真爛漫な魅力こそが、二人を惹きつけているのだろう。

 それがわかるが故に、二人は主人へと忠義を果たそうと仕事に邁進する。


「エクレア、この付近に反応はない?」

「へぃー……あら? あらあらあら?」




 そして、レーダーに…反応があった。

 爆弾は、このすぐ近くに————ある。



「これは…爆弾がこの近くに?」

「おおー、いいですよ、僕の発明!

 ちなみにレーダーはどの向きと距離で出ていますか?」



 魔道具は扱いの慣れているであろうエクレア。

 レーダーの横やボタンを押すと画面が切り替わり、カメラとして機能して————



「「————あ」」



 爆弾の位置が、表示された。


「……」「……」

「どうしたのじゃ? そんなに真っ青になって」



 レーダーは正確で、間違いなく爆弾を探し当てた。

 よく種類もわからない爆弾を見つけられるものを仕立て上げたものだ、そんなことが可能なのはエクレアくらいだろう。



「姫様、甲冑つけてるのにどうやって顔を見てるんですのん?」

「気配じゃ、どれ、私にも見せ…………」



 だが、だとしても、これは、これは無いだろう…そう嘆きたくなった。


 なぜならば



「あー、この高度であれば……ちょうどフレデリック殿下のケツ穴の中に仕込まれていることになりますなぁぁ」





 爆弾の隠し場所が、あまりにも酷すぎたからである。




 ぴこんっ、ぴこんっ、とエクレアの録音した声が再生されながら魔道具が爆弾の場所を示す。


 第一王子、フレデリック・フォン・イグニシア殿下の肛門……しかも直腸の寸前のところに球体の魔道具が反応を示している。



 球体の魔道具……込められている魔力量が尋常ではないため、それが件の爆弾なのだろうと分かってしまった……否、それ以外にフレデリック様のケツ穴に魔道具が捻じ込まれるという可能性を微塵も考えたくなかったのだ。




「……お兄様が、縦割れ〇ナルを目指している可能性は」

「くっひ、おもろ。記者に垂れ込もう」



 出来ればその可能性だけは信じたくなかったが…現実として魔道具は殿下のケツの穴の中にあると、反応している。


「アリス様、あとで部屋に隠した本をすべて出していただきます。

 エクレア、垂れ込んだら君のケツを血塗れにする」



 また今度はどこからエロ本を入手したのか……先日、バイヤーであるメイドを一人注意したばかりだった気がするので、恐らくまた別のバイヤーが出現したのだろうと考えたあたりで頭痛がしてきた。




「これが爆弾で、フレデリック様の……その、穴に詰め込まれているということはつまり、この爆弾を解除するには……」



 そして叱るのは後回しにして、現在、最も頭を悩ませている事態に気を回す。


 フレデリック様のケツ穴に捩じ込まれるように入っている爆弾。文にするだけでその酷さが分かる。


 そしてその解除方法もわかってしまうがために頭が痛い。


「そうですぅぅ、アルガレア卿。

 あの爆弾を解除するには」



 ――――第一王子(フレデリック様)のケツ穴を破壊するしかない。



「なんでなのじゃ?♡」



 もうやけくその突っ込みだった。

 アリス様、内心大爆笑してるの分かってますからね。



「第一王子のアナルに捻じ込まれている魔道具が爆弾なのは間違いないでしょう、これを刺激させず取り出すには、第一王子のケツ穴をガバガバにして、その……スポっ♡とするしか」


「その擬音やめろ」




 フレデリック様のケツ穴を破壊……否、スポッ♡をしなければならないという現状に頭痛を通り越して思考がホワイトアウトする幻覚を覚えた。



「つまり我々がこれから仲が悪い……というか憎まれてすらいる貴人、しかも国の行く末を担うであろう王族のケツ穴を使い物にしなくてはならない、と?」

「まあ、そういうことになりますね」



 ……報復で殺されるんじゃなかろうか。それ以上に自国の王族のケツ穴を破壊しておいて処刑が免れるわけがない。自国の王族のケツ穴を破壊ってなんだよ(瞬間理解)



「え、死ぬの? エクレア可哀想、エクレアのこと忘れないからね……あ、天国に行くときは言ってね、観察日記かきたい」


 呑気にケラケラしないでくださいアリス様、あと実行犯はエクレア確定なんですか。



「まあ一国の王子のケツ穴を破壊すれば首は飛ぶでしょうね、物理的に、あははは。

 しかし最強の騎士アルガレア卿が死んでしまうなんて……うひぃ、悲しすぎるぅ……お墓にはどんぐり置いときます~」

「処刑されるとしてもそんなバカみたいな理由だけは嫌ですよ!?」



 というかお前はお前で私を実行犯扱いするな。



 教育に自信がある、というわけではなかったが五十年は生きてきた。

 教育、育児が分からないため分からないなりにその手の本を読み、頭を悩ませたこともあった。


 それなのに、それなのにどうして……と頭痛と自分の無力さへの怒りが止まらない。



「いやあ、魔物とはいえやはりネクロはいいものですなぁ!! 締まりが違う!!

 がはは、ふぁっくふぁっく!!」


「エクレア、姫殿下の御前である、性癖は控えよ」


 国を支える一組織の長が変態が育ち、


「よい、こいつの変態さは面白い。

 場を凍り付かせる天才じゃからのう!

 ところでお兄様のケツアナはどうやって壊すのじゃ?」



 御守りしてきた姫は阿呆の知識にばかり興味津々になってしまった…申し訳ございませんゴーティス様、私は教育に失敗しました。



「姫様、僕、作戦を考えましたぁ!」

「よし! 言ってみよ!」



 もうどうてもいいや、何も考えたくない。

 エクレアがなんか叫んでるけどもういいや。



「拳一つでドラゴンの顔面を陥没させた騎士団長を射出するのでございます!!

 その神速のごとき剛腕を以て王子の薔薇園に豪快なアナルフィストォ!! 一瞬でヴァルハラァ! でございます!」

「採用じゃああああああああああああああああ!!」

「待って!! 待って!?」



 ————いややっぱ、どうでも良くないわ。


◆◆◆


 昼下がりの王城、煌びやかで美しい庭園を見渡すことができる廊下を歩く少女がいた。


「お兄様ごきげんよう」



 それはアリス姫、なんて美しいツインテールなのでしょう。

 幼さも残すそれは太陽光を仄かに反射させ、ある種の神々しさすら放ちます。



「……なんだ」



 対して、フレデリック王子も顔が整って…はいないかもしれない。

 だが王族としての気品…がある人間はことあるごとに舌打ちしない。



 そしてそんな二人が邂逅し


「お尻の穴をほじってもよろしいでしょうか! オラァ! いけやヴァルハラァ!!」



————瞬間、殺し合いは始まった!!!!


 ケツアナ! 目指すはケツアナ!!

 穿り出すという宣言を証明するかの如き神速の刺突!!


 ズボン? 背面をどう位置取る?


 ぬるいわ、浅いわ! その程度の域でどうして英雄を目指せるだろうか!?



「狙うわ一撃ィ!! く、た、ば、れエエエエエエエエッッッッ————!!」

「ひぎいぃぃぃぃい!?!?」



 ぶちッ!!


 ズボンの繊維ごとケツアナに放たれたあえあああ!!!

 見事! 実に見事な正拳突きィ!!


 プリンセスフィスト、ここに極まれり! 時代の覇者が生まれた!!

 王族のケツアナを破壊することに特化された王族流骨法術の冴えがここに決まるぅーーーー!!



 

「姫様ぁあああああ!?!?」


 そして王城中に響く鐘の音がぁ! ここにKOを告げていくぅ!!


◆◆◆



「姫様が全力疾走、いけやヴァルハラを放ちましたが、王子のケツを破壊するには至りませんでした」

「無念なのじゃ」


「言い残すことは ソレダケカ」


「「すみませんでした」」



 正座から見事な土下座まで決めるバカガキ二匹、その姿を見ながら鎧を見に纏った鬼、アルガレアは結論を話す。


「アリス様、エクレア、この件が片付き次第、本格的に説教をします。お覚悟を」



 そこは王城の中にある一室、ケツアナが破壊されたフレデリック様は廊下に置いてきた。

 下手に医者に見せれば、今日中の爆弾除去が困難になることが伺えたゆえだ。


「姫様の貫手は……ズボンに阻まれましたぁ」

「……ふむぅ」



 そう、問題はまだ解決していない。

 フレデリック様のお尻はまだ無事なのだ。


 入り口は少し大変なことになっているが、まだ入り口付近が壊れただけで中身を取り出していない。


「そーです! 姫様、私の開発したこのジャマダハル型のケツ破壊玩具――――」


 バギィッ!!と、神速でエクレアが出したお下劣な道具を握力で破壊する。



「アリス様に、そのような下品なものを見せようとしたのか、貴様」

「ア、ゴメンナサイ、僕ゴミムシ、ウジムシ」



 さぁぁぁ、と粉末状になる魔道具を見て、エクレアは黙った。

◆◆◆


 ――――三時間後。



 王子のケツに爆竹を詰めて爆発させる。

 拉致して浣腸、いれたのは姫様の飲みかけの紅茶をぶち込む。


 爆発までの猶予が少しずつ消えたアルガレアは、もう最終手段だと割り切り、アリスとエクレアの作戦を「もうどうにでもなれ……」と実行していった。



「ふむ、なかなかとれぬな……」

「こうなれば、もうあれしかありますまい」

「おいたわしや…なんと、なんと、酷い」




 思えばアルガレアは、任務の帰りだ。一切睡眠をとらず任務を終えて、王城で報告をしようとしたら追い打ちのように爆弾事件。


 暴走しまくるクソガキども、自分の教育が間違えていたんだと悔やんで悔やんで嗚咽を漏らした。


 有体にいって、ストレスの許容量が限界突破してしまったのだ。




「どうせお兄様の貧弱すぎる魔術耐性なら洗脳のせいでなんも記憶できないのじゃ!!

 今のうちに馬鹿みてーな常識を教え込んで全裸で逆立ちさせてやんよぉ!!」

「は!? 姫様天才でしたか! 第一王子様、いいですか? 服を着てるのは恥ずかしい恰好なんですよ?

 バカみたいな服着て語尾に〝ぶひ〟を付けることこそが王族に求められる礼節なのです!!」



 そしてアルガレアは体育座りで、虚無になりながら二人のクソガキを眺めてる。



「え!? マジなのじゃ!? じゃあ明日からスクール水着にうさ耳で」

「おやめください」



 しかし声だけはまだ騎士であろうとあがいているようだった。

 もう一週間はまともに寝ていない、この事件が終わったら眠ろうと思っていたのに思った以上に長引いていたため、睡魔は魔王クラスにすら達している。



「……どうやってフレデリック殿下のケツ穴に魔道具を埋め込むなんてことを可能にしたのだ」

「時空魔法、でしょうね」



 アルガレアはふわふわの頭で、けれども寝てはならないと思い……朧気ながら、疑問を口にした。




「私の部下に時空魔術を研究してるやつがいましてね。

 その研究成果は見事だったのですが、論文のテーマが〝ふたなり女性のち〇ぽを自らのま――――」

「お前を殺す」

「なんでもないです許してください」



 蘇るエクレアへの殺意、教育上よろしくないと言われる存在三年連続第一位の女傑、それを前に英雄は立ち上がった。



 そして、自らが避けていた……唯一にして、原初の作戦を、アルガレアは実行しようと、決意した。




◆◆◆


 午後三時、フレデリックは自らのけつを見て絶望する。


「う、う、嘘、だろ……僕が、この僕ちんが……うんこを、漏らしたというのか……!?」



 ケツ穴に紅茶をぶち込まれたフレデリック、しかし彼には何も認識できない。

 爆弾という情報を聞いた途端、頭がとろんとして記憶が飛んだのだ。



「……フレデリック様」

「!? あ、アルガレア!? 違うぞ、これは、違うぞ!?」



 大慌てでなにかを否定するフレデリックを前に、アルガレアは神妙な顔で……鎧の上から麻の手袋を付ける。



「(そう、答えは沈黙……! 何も言わずに、この僕の王の如き風格を以て素面を貫くことこそ唯一の突破口!)」



 アルガレアはフレデリックの思考など微塵も推測せずに、きゅ、きゅ、と手袋が取れないかを確認していく。



「どうした、アルガレア。

 ああ、これか? ふ……まあ強いて言えば――――脱糞、かな」



 決まった……内心、フレデリックは自分の完璧さに感動すら覚えていた。

 こんなにも自分は優れていたのか、こんなにも自分は王者の資質を持ってたのか、と。



「先に言わせていただきます…。

 黒聖女流対神魔抜刀術 奥伝

  アルガレア・コードアウトが務めさせていただきます」

「ん??????」



 しかしどうしたことだろう、アルガレアは微塵も気にしていない。

 それどころか武人のような名乗りをあげて、見事な一礼をして見せた。



「これなるはBランクに指定されております魔物、クイーン・ビーより採取いたしました、即効性の神経毒でございますれば」

「神経毒!?!?

 お、おい醜悪騎士、お前悪ふざけもほどほどにしないか!」



 神経毒を手袋に塗りたくり、それを触れれば麻痺をすると丁寧に説明していく。



「ご安心ください…こちらの神経毒は麻酔としては最高の品でございます…後遺症もなく、使われたものは殺されたことにすら気づきません」

「よしわかった、きっとあれだな?

 お前、あの悪魔めいた妹にやれって命令されたんだろ? うんわかった、俺から言っておく、言っておくからそれしまえ、しまえ、いいな!? しまえよ!?!?」



 嫌な予感がビンビンと…主にケツアナから感じたフレデリックは一歩二歩と後ずさる。


「御身の肛門を中心に広がり…数分は動けなくなると思いますが安心めされい…そう長くはかけませぬ」

「肛門!? 今肛門っていったのか!?

 俺の肛門はこれから何かされるのか!?」



 脱糞したケツが、これから更に大変なことにされる、というのはどんな気持ちなのだろう。


 フレデリックの心は推し量れないが、それでも顔面蒼白になっている辺り、その感情の種類は容易に推し量れた。



「…」にこっ

「…」にこっ



 わ、綺麗な笑顔。素敵。



「こう見えて、回復魔法の心得があります」

「誰かあぁぁぁぁ!!!! 助けてええけええええ俺の高貴な、高貴なアナルが醜い騎士に犯されるうううううーーー!!!」




 ぶちぶちぶちぶぢぃ!! ぐ、グッ!!

 ぎゅりッ!? ズッ! ズゥ!!グギ、ブチ、ズリズリズリッ!!



「…つかめた」



 グ、グリ、!! ぶちん



「あ、やべ」



 …フレデリック様。おいたわしや。



「アルガレア、終わったー?」

「…もう少し、もう少しで、抜けます」

「うわー、ひっでぇ光景。

 アルガレア卿ー、姫様の目隠しはお任せあれー」



 すぽっ♡



「うおーー、兄上の■■■、すっげーヒクヒクしてますわ」

「うおーー、王子様だ! 市井で王子様に憧れてる娘っ子どもに教えてやるぜぇぇ~!」

「エクレア!! アリス様の目隠しをやめるな、あと大喜びしながらタップダンスはやめろ」



 取り出せた球体の魔道具、サッカーボール並みの大きさのものだった、どうやってこれ入っていたのだろう。


 フレデリック様の身体、主に下半身に布を被せる。



「……ひとまずこちらは、私の鎧を変形させて、その中で爆破させましょう。

 この鎧の装甲であれば、爆弾程度ではビクともしません」



 ぴ、ぴ、ぴ、と機械音を出す爆弾は起爆する様子を見せない。まだ時間があることは見て取れた。


 球体の爆弾、それの処理方法を提案し…実行に移そうとして…その球体が今まで何処にあったかを、思い出して…う、と嗚咽を漏らす。



「勿論、麻袋などに包んでからです……」



 麻袋を取りに、エクレアに指示を出そうと手を挙げた。



 その刹那に。




 ピ、ピ、ピ————ピピピピピピピピピピピピピピピー




「————は?」



 ピピピピピピピピピピピピピピピ。

 鳴り響く音、音、音、その音は耳を劈き不安を撒き散らしてその慟哭が意味するものを瞬時にわからせる。




「ッ!! 全員伏せ!!」


 神代兵装【巨神信仰】を解放、鎧が一瞬でバラバラになり、それが集まり爆弾を覆い隠すように



「(————まずい、時間が足らない!

 かくなる上は)」




 ————アルガレアはその肉体で…爆弾を包み隠した。




 そして————爆弾は————光となって破裂した。







「ぐ…これは、」



 光が収まり…身体の負傷を確認する。

 痛みはない、だが体表面の皮膚は幾らか弾け飛んでいるかもしれない。


 アリス様に被害が入っていないかが心配だ、もし何かあれば私の首一つでは収まらない。



「…え?」



 鎧が外れた、そのため自らの素肌を見るのは久しぶりだ。

 だが、おかしい。


 素肌が、綺麗なのだ。自らの肌はもっと酷いものだったはずなのに、見る影もない。


 とても、華奢で、繊細そうで、白磁色…。


 まるで大昔に絶滅したとされる、エルフのような美しい手で

 


「アルガレア…が、美少女になってしまったああああ!!!!」

「————は?」



 姫様の叫び声に、私は自分の身に何があったのか…酷い、悪夢のような現実を知らされることになる。



「……」

「……がははなのじゃ!」

「………くく、くひひ、よくお似合いで」



 ちょーん、と、サイズ違いでだぼだぼになった騎士服を身にまとい……跪いている少女と、それを後ろで大爆笑するクソガキコンビ。


 見た目がとても愛くるしいものになったというのに、その顔はどこか絶望的に青ざめており、微かに震えていた。



「私より小さいのじゃ…ぷぷ」



 背が小さい…ちょこんとした身体は子供と言っても差し支えないほどに愛らしく庇護欲を掻き立てる。



「おっぱいでけえ…ロリ巨乳ですよ姫様、あれロリ巨乳」



 みちみち、とシャツを圧迫する胸。

 触れればその柔らかさに、現実を嫌でも叩きつけてくる。



「加えて見目も麗しく、さらさらの銀髪…か」



 エルフ耳で、整った容姿、全身から甘い匂いを発するフェロモン…男の好きな要素をこれでもかと打ち込んだ萌えの塊を前に…シルヴァは困惑気味に自らの顎を撫でた。


「……これは……どういうこと、なのだろうなぁ」




 見た目が、異常なまでに変化した。

 以前、アルガレアの肉体はおおよそ人間とは思えないものだった。


 身体の半分、正確には肉繊維の隙間にスライム状の水色の何かが生えていた。


 顔も、顔?と認識できるような要素は残っておらず、枯れ木のような肌色で目が軽く数えても三十以上はあった。


 魔物でもこんな醜く悍ましいものはいないだろうというレベルの醜悪な見た目だったのだ。





「エルフ……か?」



 それが、今は絶滅寸前までいっている希少種族。エルフに近い美貌……いいや、エルフを大きく上回るほどの美しさを備えた精巧な作り物めいた美を持っている。



 それが小動物めいた愛らしさを持ち、微かに震えて……よく見れば少し涙目にすらなっている。



「……アルガレア、なのだな」


「っ、陛、下ぁ……」



 いつも頼りになり、その剛腕で国を守護してきた英雄。

 それがなんともまあ、弱々しく涙目になって主君を上目遣いで見上げる。



「ぐ……(か、かわいい)」



 その幼くも庇護欲を掻き立てる色香にくら、とシルヴァは額に手の甲を当てた。



「見よエクレア、父上が絆されておるぞ。いくら若作りといっても父親のそれをみるのはキツ……」

「(傾城ですなぁ……あ、これは姫様の頭に語り掛けてます。

 貴族なので陛下を侮辱するわけにはいきません)」


「それ、私に言ってる時点で張りぼてなのじゃ。それはそれとしてどうやってやったのか後で教えるのじゃ」


 クソガキコンビが話しているのを横目に、シルヴァは厳かに語りかける。


「それで、エクレアよ。

 こうなった原因に対して、其方の見解を申してみよ」



 質問を対し、エクレアは臣下の礼を取り一転真剣な表情で話す。



「は……まだ時間も材料も少ないため、推測の域を出ませんが、呪いが全て反転したのではないかと」


 呪いの反転、それがあの爆弾に込められたものだった。


「アルガレア卿は神より与えられた加護……その中でも極めて特殊なものを持っております。

 曰く……呪いの蓄積によって、その性能を上昇させる」



 呪いを体内に宿せば宿すほど強靭な力を放つ加護、かつて大陸全土に広がった瘴気をその身一つで肩代わりして以来、誰もその力を超えたものはいない。


 故にそれはアルガレアの弱体を招くという結果を齎している。



「体内に蓄積していた呪いが全て、微精霊となり……アルガレア卿の体内を循環しているようなんです」



 その呪いが…全て祝福に反転された。

 その結果、この見た目になったのだと口にする。



「戦闘能力はかつてのものから著しく下がっております。

 ですが、魔術関係の技術が軒並み上がっているようです」


「全身に宿していた呪いが全て、微精霊へと反転した結果、でしょう」




 精霊が身体に宿り、しかもそれが無限と言えるほどに居て常に循環し続けている。


 宮廷魔術師でもそんなものはおらず、武力の面では劣っているものの魔術面を含めれば間違いなく大陸最強と呼べるだろう。



「ん? 待て、呪いが、全て微精霊に……?」



 そこで、シルヴァがふと気付く。

 呪いが精霊に変わったという点、それの結果が今であるということが如何にもイコールで結ばれないのだ。


 呪いが祝福に変わったのならともかく、精霊である————容姿に変化をさせる要素ではない。

 つまり、それの意味するところは



「つまり、アルガレアのその顔は」

「おそらく……素顔が、これ、なのかと」



 ————圧倒的美少女。

 ここまで整っている顔は王都中探してもそういない。


 それが醜悪騎士とバカにされ続けた騎士の素顔なのだから酷い皮肉だろう。



「前の身体のほうが視力が高かったですね」

「目玉が五十個くらい生えてましたからなあ」



 それどころか、アルガレアは自らが女性であることすら知らなかったのだからお笑いだ。



「うう、あの敵を溶かすときに便利だった体液が……」

「鎧ないと床、溶けたのじゃ! あれマジうけたぞ!」



 人間と呼べるかすら怪しいレベルだったため、それも仕方のないことではあるが五十年生きてきて自分の性別が女です、と初めて知るのは一体どんな気持ちなのだろう。



「あと腹からろっ骨をバーンと出すという最高の一発芸が……」

「え!? あれもう見れないのか!?」

「シルヴァ陛下、あれは一発芸ではなく猟奇自殺です」




 前の身体で出来たことが、かなり幅広かったため、それらが出来なくなるということもまた痛手ではあった。



「それと……」



 そして、これが一番の要素。

 出来なくなった技の最たる例。


「陛下だけではなく、アリス様と先代のゴーティス様も好んでおりました……あれが」



 そう、王族が好んでいたアルガレアの秘密兵器。



「第二形態が……出せなくなりました……!」



「「なにいいいいいいいいい!?!?」」



 ————発狂する二人。

 第二形態、そう、イグニシア王国の最大戦力は第二形態がある!!

 その切り札で今まで幾度となく厄災をねじ伏せてきたのだ。



「アルガレア、戻って!! 今すぐ!! あのかっこいい第二形態がないなんておかしい!!」

「嘘だろう!? あの第二形態が見たくてわざと敵が多い道を進んだときもあるんだぞ!?」



 発狂する王族二人、第二形態は例に漏れずありえないくらい気持ち悪い。


 触手とか牙とか、変なところから蛇が生えてきたりすると言う、何かもう別宇宙の神話生物を思わせるみためなのだが、王族は何故か皆、第二形態が大好きだった。



「戻れないので深刻なのです。

 あと陛下、第二形態を出すのかなり消耗すると再三お伝えしましたよね????」



 ————道理で、かつて陛下と魔大陸に転移したとき、ひたすら第二形態をだしたわけだ…と、思い出しながら聞き捨てならないと声を出した。



「ともあれ、我が国最大の戦力が弱体化したのは痛いですなぁ……」

「お父様、下手人は分かったの?」



 それに対して陛下は首を横に振る。



「今回の件、第一騎士団に調査を指示はしておるが……」

「あー、うん! 無理じゃな!!」



 第一騎士団はハッキリ言って、ボンボンの貴族のガキしかいない。

 最低限の職務はするが、態度と悪く、有事の際は目も当てられない無能ぶりである。


「今回、ぶっちゃけ手がかりが少なすぎる。

 あと時空魔法使えるのが痛すぎる」



 時空魔法は、仕える人間が非常に少ない。

 加えて学術的な価値は高いのだが、その内容が複雑すぎる関係で多くの学者が筆を折った。


 そのため時空魔法においての知識は、未だブラックボックスとなってる。



「王城の上空に爆弾を投下し放題なのがやべえ、今それがされてないのが不思議すぎるくらいだ」

「目的は国家の消滅、ではないのでしょう……」



 何故わざわざ、フレデリック殿下のケツ穴を狙って時空魔法を使ったのか。

 そして何故ケツ穴だったのか。

 そもそもケツ穴にこだわる理由は本当にあったのだろうか。


 ケツ穴が脳裏を駆け巡る、ケツ穴、ケツ穴、ケツ穴……ケツ穴が無限に残像となって思考を邪魔してくる。

 思考は無限のアナルで出来ていた。アンリミデッド・下品アヌス。



「目的も分からん、あたりも付けられん。

 正直なんもわからねえ、ってのが正直なところだ」



 国に喧嘩を売り、その上で逃げられたなど笑い話にもならない大失態。

 今は、それをどのようにして解決するか…その話し合いなのだ。



「一番の手がかりは……お前になるわけだ、アルガレア」



 陛下から目を向けられる。

 そう、この手段も下手人も何もかもがブラックボックスの中で、唯一、明確な〝狙い〟というのだけは確かにあった。



「今回の事件に一つだけ……目的、とは言わねえが思想みてえなのがあった」



 報告をまとめて、それを改めて整理するように説明をされる。



「爆弾を破裂させるタイミングが、アルガレアが帰還する予定日の夜だった。

 加えてアルガレアが爆弾を取り出したタイミングで、それを一気に変えた」



 ————狙われている、私が。標的として。



「明らかに、アルガレア卿を狙っていた、というわけですな」


「……」



 故に、その当事者として何かの意見を求められているのだろう。

 それはわかった、分かったが故に…頭を悩ませた。



「今回の件、お主はどう見る?」


「……」


 陛下に言われ、少しだけ、瞳を閉じる。

 今回の事件の考察を始める。


 目的:不明

 手段:私の弱体化、を狙った犯行。

 要点:王族をいつでも殺せるのに、殺さなかった

    目的は国家に敵対はせず、あくまでも私個人へのナニカ?



「(……王子の尻を狙ったことにも、意味がある……?

 目的が私の弱体化であれば、王子の尻にわざわざ爆弾を仕込む理由がない)」



 故に敵の〝目的〟は一つではない。


 寧ろ、広く見れば〝手段〟が私の弱体化で、目的は別にあると言っても良いだろう。



「目的が、私だというのであればフレデリック殿下のケツ穴を破壊する理由が分からない……」

「壊したのはアルガレアじゃけどな」



 今は王城中に広がっていた催眠術が解けて、フレデリック様の壊れたケツアナは治療中らしい。



「(どちらでも、よかった……?)」



 そこで別の思考が割り込む…それは〝どちらであろうと本命だった〟と言う点。



「(王子の穴が爆散するか、私の力を消滅させるか)」



 確かに王族の一人、しかも第一王子のケツ穴粉砕はそれなりに大打撃となるだろう。

 こんな話が漏れ出たら国民の良い笑い者だ。

 加えて私の力が王国の最大戦力であることは内外に知れ渡っている。


 国力を削ぐ、という点では理に適っている。しかし



「(敵対されるのが目的? 国を乗っ取る? 王子が死んで得をするのは……いやしかしそれでは……王族ではない……? 最も近い血縁……)」



 だが、しかし、あまりにも引っかかるものがあった。



「(手段もそうだが…向こうはこちらの動き方や、取る手段を熟知しているような…いや、なにか、ある種の〝信頼〟とすら言える域の狂信で、この作戦が成り立っている節がある…)」



 爆弾の捜索、というノウハウのない事に対して私が動くことも、ケツアナを破壊して取り出すことも、どうにも〝相手は全て予測した上〟で仕込んだ気がしてならない。



「政治的では……ない。

 もっと、何か、個人的な欲求……思想というより、個人間における復讐、のようなねばっこい感情を持っているような…そんな違和感があります」



 それが、今感じたものだった。

 これは組織的犯行ではない、少なくとも何か明確な目的があるわけではない。


 本当に、個人間における感情から発生した事件…そんな違和感があった。




「(まるで巨大な力を持った何者かが〝遊んでいる〟ような違和感……)」



 もうここまで来ると組織的なのかも怪しい。

 個人で国に喧嘩を売る…あまりにも狂人めいた思想でなければまず選ばないことだ。



「(ダメだ……情報が足らな過ぎて、現状では何を考えても妄想にしかならない)」



 しかし現状では犯人特定など夢のまた夢、身体の状態もそうだし…しばらくは情報収集に努めなければならないだろう。



「申し訳ございません、私のごとき非才な身では……見当もつきませぬ」

「結構鋭い考察してるように見えたが…」



 そこで思考は切られる、新たな情報がない以上…ここでの思考は無意味なのだろう。


 どうしたものか、とまた頭を悩ませていると…アリス様が、ぴこーん!という謎の擬音と共に立ち上がった。



「父上! 私、思いつきました」

「おお、アリス。どうした、いつもの発作か、うん、西の森にいる獣であれば生き血を啜っていいぞ」

「違いますわ! そんなの五歳で卒業しておりましてよ! レディーですもの!」



 名案が浮かんだ。そういってきた時、まともなものがあったためしがない。

 十中八九最悪でクソくだらない考えなのだろうと止めにかかるが、もう時は遅し。


「――――アルガシアをパーティに出席させればいいのですわ!」



 その一言が…アルガシアの人生をいままでのものとは大きく変えるとは、この時は気付いていなかった…。


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