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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

最高の時を

作者: 山舵
掲載日:2025/09/21

開いてくださりありがとうございます。初投稿です。とても短いので、立ち読み感覚で呼んでいただけると幸いです。

 街路灯のない芝生の公園に紅葉を終えて桜の芽吹きを待つ木がある。その陰に置かれたベンチに男女が二人、分厚い外套を身にまとい座っている。

 二人の間には六発の弾が装填された小さな回転式拳銃リボルバーが置いてある。

 女性はその拳銃から顔を背けるように、まだ日の昇らない空を眺めている。彼女は銃への恐怖を連想しているのか、または単に寒いのか、肩を小さく震わせている。

 男は銃を見つめた後、彼女の小さく震える横顔を見て小さく微笑み口を開く。

 「そろそろはじめようか…」

 男は鼻から凍える空気を吸い込み、肺で満たしたてから拳銃を手に取る。

 「空砲五発、実弾一発の計六発。順番に自分のこめかみに当てて引き金を引いていく…君か僕の最後に生きていた方が勝利だ」

 女が視線を空からシリンダーを回す隣の男に移す。

 「昨日決めたとおり、僕からやるよ」

 彼女の視線に気づいて微笑んだまま自分のこめかみに銃口を当てる。

 彼女は男を見たまま浅い息を繰り返す。男は白い息を口から吐き続ける彼女を微笑ましく思いながら引き金を引く。カチンとハンマーから鉄の音が響いた。

 男は息を吐きながら銃を下ろして、グリップの方を向けてから彼女に差し出した。

 女は震える手を慎重に伸ばしていき、銃を握る。肩を小さく上下させながら銃口を頭に向けていく。

 男は震える彼女の姿を見つめていた。銃口をこめかみに当てる彼女は、もう一方の手で銃を持つ自分の手首を握る。小刻みに震える唇から白い息が止まった刹那、カチンと音がした。

 深く息を吐いて肩を大きく上下させて、男に銃口を向けたまま差し出す。

 男は愛おしそうに銃を受け取り、息を吐きながら銃口を自分のこめかみに当てる。彼女が見つめる中、引き金をかけた指に力をこめていく。カチンと音がした。

 ゆっくりと銃を下ろして彼女に差し出す。彼女の目は差し出される銃だけをとらえていた。彼女はゆっくりと震える手を差し出して、銃を受け取ろうとする。男は彼女の手に銃を置いて、彼女が銃を握ってから手を離す。

 先ほどよりも大きく肩を上下させ、手だけでなく睫毛や唇も震えさせる。男は震えながらこめかみに銃をむける彼女に、親が子を見守るような慈愛の目を向けて、高ぶる感情を抑えるように静かに大きく息を吐く。彼女が涙を浮かべたまま瞼を閉じて、少し俯くように頭を下げる瞬間カチンと音がなった。

 4発目も空砲だった。その現実に安堵したように彼女は息を吐いて、涙をこぼしながらゆっくり銃を膝上に置く。男が手を伸ばすとようやく銃を渡した。

 彼女の目は疲労で虚ろになりながらも、男の姿を写している。男はベンチの背もたれに寄りかかりながらこちらを見る彼女に優しく微笑む。残りは二発。一発が弾丸、もしくは……。

 訪れるかもしれない死に強ばる体の感覚を楽しみながら、銃口をこめかみに当てる。

 どうなるのか、死の瞬間を感じることはできるのか?

 俺が死んだ後、彼女はどうするのだろうか?

 頭にめぐるものを、ゆっくり深く呼吸することで消していく。彼女の瞳は恐怖を写していた。

 引き金を引くと、カチンという響きが今までよりじっくりと脳を巡った。気づけば銃のグリップは汗で湿っていた。安堵のような、期待外れのような感覚に浸りながら息を深く吐く。汗を外套の袖で拭いてから、彼女に銃を差し出す。彼女の顔に目をやると、明らかな動揺と恐怖が表情に刻まれている。彼女は銃を受け取る手を出すことが出来ないようだった。

 男は彼女のこれまでと今の姿を思い出しながら、笑みと共に笑い声がこぼれそうになり口元を引き締めながら顔を彼女と反対の方に向ける。彼女から顔をそらした先にはこれから桜の蕾をつけていく大木がたたずんでいる。笑いのかわりに大きく息がこぼれる。自然な笑みに戻ってから彼女の方に向く。

 彼女の顔から涙が滴り落ち、口からは嗚咽が漏れている。まだ自分の手には銃が握られている。男は体を彼女に寄せて、彼女の手を両手で包み込みながら銃を握らせる。

 優しく彼女の手を両手で握り、耳元に口を寄せる。吐息が耳にかかり彼女が体を一度震わせた。

 「…実は弾丸は七発用意していたんだ…、空砲が六発、実弾を一発。その中から六発を無造作に取って、この銃にこめたんだ…」

 彼女は最初、声が届いてないように肩をふるわせていたが、男が言わんとしていることを理解して徐々に顔を男の方に向ける。彼女の顔には恐怖の他に希望が宿ったようだ。男は震える彼女の口に、自分の唇を優しく押しつけた。涙のしょっぱい味がした。彼女は目を開かせて体を硬直させたが、やがて瞼を閉じて男を受け入れた。しばらくして彼女の唇から離れる。

 「このあとのことを考えよう。二人でカフェに行って、ケーキセットを頼もう。今はイチゴの季節だか

らイチゴケーキがあるかも。きっとコーヒーに合うよ。そして朝日が昇るのをカフェから眺めるんだ」

 彼女の目に宿った小さな希望が徐々に大きくなる。彼女はようやく銃を握りしめた。震えながら自分のこめかみに銃口を当てる。

 「君は甘い物が好きだから、ココアとケーキセットを頼むかな?とっても甘そうだけど…」

 彼女は震えながら笑みを浮かべて、男の笑みを見つめたまま引き金にかけた指に力をこめた。


 パン

 

 渇いた破裂音が響く前に、彼女の頭が跳ねた。すぐに彼女は、背もたれに体を預けるようにずり下がる。頭からは血がこぼれ続ける。男は力なく倒れる彼女を見つめた。彼女の瞳からは光が消えていた。

 男はこれまでの彼女を思い出して、つぶやいた。

 ん~、やっぱり生きてるときの方が美しかったな…


 その後、ベンチには男物の外套がかけられた彼女の体だけが残されて、朝日を浴びていた。

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