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幼虫

ある町で、願いを何でも叶えてくれるという占い師の噂が出回っていた。真実は分からないが、興味があるものはその占い師が住む町外れの屋敷を度々訪れていた。ただ、占い師も客を選んでおり、屋敷の中に通されるものはごく(わず)かだった。


「―――様、どうか、お願いです…。私の願いを叶えてください。」

蝋燭(ろうそく)が数本灯る暗い部屋で、女は占い師の手に涙を流しながら縋りついた。

「…まだ、その時ではありません。貴女の中に飼われている蝶は、まだ蛹にもなっていませんよ。」

「”さなぎ“ですか…?」

泣いていた女は、相手が何を言っているか理解できず、首をかしげた。相手の女は黒いローブを着ており、部屋の暗さもあって、表情が見えない。そして、黒とは対照的な赤い口紅をつけた唇と同様の赤い色で彩った指先が目立ち、不気味さが感じられる。

「えぇ。それが、私の望むものまで成長したら、それを引き取る代わりに貴女のお願いを叶えて差し上げますわ。」

占い師は、自分の手に縋り付いた女の涙をハンカチで拭ってあげながら言った。

「美しい女性に涙は似合わないわ。泣くのをやめて顔をあげなさい。貴女に一つ助言を差し上げますと、その子は人の嫉妬や憎悪などの負の感情を好んで食しますわ。」

「負の感情?」

「決して、貴女のものじゃなくても、良いのですよ。他人の負の感情さえも、その子は好みますから。」

女は少し理解したようで、お礼を言い、その場を後にした。


客の女を屋敷の玄関まで見送った占い師は、扉を閉めながら消え入りそうな声で一言呟いた。


「ただ、餌をやりすぎないようにね。」



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