00 プロローグ。
『二年生の先輩に、チョーイケメンがいるらしいよ』
私はその噂につられて、この高校を受験し見事合格した。
私が受験したのは、一昨年度に女子高から共学となった、私立桜ノ宮高等学校。
00 プロローグ。
校内は、春休みとあって静かだ。
私は今、受験した高校のオープンキャンパスに来ている。ここは本当に自由で、先輩方が部活動に励む姿を見学する事ができる。
「ねえ、麻理。ほんっとここの制服可愛いよね!」
「うん、可愛い! 美弥に似合いそうだよね」
私は、野沢 麻理という友達と来ていた。麻理はとてもおしとやかで綺麗だ。一言で言うなら、大和撫子。
「美弥、ちょっと御手洗いにいってくるね」
「あ、うん。分かった」
麻理が静かにトイレへと向かう。私はその間、どうしようかと周りを見渡した。
清潔感漂う廊下、綺麗に張られた広報用のポスター、しんっと静まっている誰もいない教室。
ほかになにか無いかと、足を伸ばすうちピアノの音がした。
ポロンッ
ただ鍵盤をいくつか押しただけの、単なる音。だけど、なぜか惹かれた。
上のほうから音がする。私の足は自然に音がするほうへと、動いていた。
パタパタと、私が階段を登るたびにスリッパの音が響く。
階段の踊り場に出た。そこから見えたのはとりたて普通の教室だった。静かに残りの階段を上りきると、また音がした。さっきとは違うキーの鍵盤を長く押し続けた音。
確かに目の前の教室から、音がする。
私はその戸を開けた。
ガラッ
ピアノの前に座っている人が驚いたように振り返った。
私はその人の顔をみて息が詰まりそうになった。
すご…い、綺麗な顔――――
「あれ、今日は誰もこないはずだったけど」
その人が紡ぐ言葉ひとつひとつは、私の頭の中に入って意味を成さない。
ただ、その人が私に話しかけてくれた、という事実に嬉しくて喜んでいる。
だけど、何か言い返さなきゃ。
「えっえと、わっわたし学校を見に来たんです。受験したから」
ああ、どうしよう。声が震えて自分でも何をいっているのか分からなくなりそう。
「そっか。じゃあ俺の親衛隊じゃないんだ」
あの、何をいっているのか分からないです。
そう口に出そうとしたけど、声がでなくなってる!
だって、その人がこっちに近づいて来るんだもん。
「ふーん…」
その人は私を上から下まで見た。絶対私の顔は真っ赤だったと思う。
「じゃあさ、俺を名前で呼んでみてよ?」
「えっ?」
「あっそうか、君は俺の名前を知らなかったか。俺は藤堂 秀一郎」
名前まで格好いい! やっぱり声が震える。
「あっあの! 秀一郎さん、私は小野田 美弥とっいいます」
藤堂さんがまた一歩近づいてくるから、すごくびっくりする。
でも、一歩で終わると思ったら、もっと近づいてきて……
「じゃあ美弥、お前はもう俺のものだ」
私の顎に綺麗な手を添えて、静かに私の唇を奪った。
それがファーストキスだった。
登場人物紹介
・小野田 美弥 おのだ みや
私立桜ノ宮高等学校の新入生。
慎重で小心者。恋愛に関してはほとんど無知識。
・藤堂 秀一郎 とうどう しゅういちろう
同じく二年。
学校など、公の目があるときは謙遜的な僕っ子王子を演じるが、プライベートでは自信満々な王様。