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第3話 このゲームの攻略キャラは……?




 色々と感動しているうちに入学式は終わっていた。

 でもライト君の姿を見ていない今、まだここがゲームの中だなんて信じられない。それぐらいみんな普通に動いてるから。

 怜とはクラスが別でホッとしたけど、一人になった途端、急に実感が湧いてくるっていうか、本当にアタシ…………。いやいやいや、と首を振る。だって全然覚えてないし。おぼろげに覚えてる記憶は、寝る前にゲームしてたってことだけ。ライト君とデートイベント終えた後、アタシは寝落ちしてたはずだもん。

 怜とあのウサギの前では仕方ないと思って話合わせてたけど、頭の中はこんがらまったまま。……でも、まぁ、こんな人生もいいじゃん?って思ってるアタシもいる。ヒロインとしてのチート受け入れたら、フラグ立てようと思えばいくらでも立てられるし、最後の最後に一人を選べばいいだけだし。うん、ハーレム作ろうよ、せっかくだし。……あーでもライト君とずっとイチャイチャな学校生活も最高かも……。


 受け入れられてないけど、勝手に周りは進んでいく。人波に流されるまま歩いていると、廊下で前を歩いてた誰かにぶつかった。


「わっ!……ご、ごめん」


 背の高い女の子の背中に顔をぶつけて謝る。怜よりも背が高いなんて、と思っていると、彼女は振り向いたかと思うと視線だけ動かしてアタシを見た。


「こわっ」

『…………っ』

「あ!ご、ごめん。うそうそ、怖くない怖くない」


 長身で綺麗な黒髪、涼し気な目は悪く言えば目つきが悪い。でもアタシがついこぼしてしまった一言に、表情が一気に崩れる。無表情で冷たい顔してたのに、表情が崩れた瞬間、今にも泣きそうな顔したから慌てて言い直した。

 頭一つ分違う彼女を見上げると、両手で顔を押さえてる指の隙間から目が合った。ジッとその片目を見つめていると、やっと信じてくれたのか手が外れていく。


『……いじめない?』

「いじめないいじめない。……ぶつかったのアタシなのに急に怖いとか言ってごめん……ね?」


 両手を合わせて彼女の顔を覗くように見上げる。……するとみるみるうちに赤くなって、恥ずかしそうにこくん、と頷いた。

 ふう、泣かせず済んだ、とホッとする。無表情だった表情は今は少し照れ臭そうだった。


「じゃあ、」


 早く教室行かないと、って彼女の横を通り過ぎようとしてグッと後ろに引っ張られた。振り返ると彼女は顔を動かさず目を逸らしたまま、手だけがアタシの制服を掴んでいる。これ何?とばかりに指さすと、今度はボソッと声が聞こえた。


「……えっと?」

『1-C』

「え?あ、……お、同じ?だね。……えっと、アタシ、ルカ」

『ルカ?……私、シエル』


 ほっ……合ってたのか。どうやら”ファーストコンタクト”は間違っていなかったらしい。でもそう自己紹介するなり、シエルはアタシの腕に手を絡ませてきた。え?え?と戸惑っていると、今度は腰に手が回ってくる。そのせいでやけに体が密着して離れようにも離れられない。大講堂からみんな教室に向かう中、廊下は大渋滞起こしてるけどこんなにくっつくまでもないのに。


「ちょっ……ちょっと、シエル、近い!」


 さっきも思ったけど、シエルは顔が良いようだ。……怜とはまた違った美人でその顔近付けられるだけでドキッとする。だけど、残念なことに宇宙人かもしんない、この人。


『ルカがまた誰かにぶつかったら大変』

「……そ、……そう」


 …………意志融通が困難。やたら力強いし、何言っても聞かなそうだし。……仕方なくアタシのこと心配してくれてるみたいだしそのままにしとくか……と隣を歩く。

 この学園に通う子のほとんどが貴族の家の子。……ということはこの子もそうなんだろうけど、こんなキャラ居たかな。全然モブじゃないし、ゲームの中では主要キャラだと思うんだけど……。そんなこと思いながら、変わった子だなぁ、なんて一緒に廊下を歩いてると教室に辿り着いた。


「ありがと、もう大丈夫っ……だ、か、ら!……はっ、離してっ」


 さすがに教室の中でそんなにくっつかれるのは色々困る。腰に回ってる手から離れようとすると、シュン、とその表情が悲し気に変わった。はぁ……と後ろ髪引かれる思いで離れた後、教室の黒板に貼られたプリントの席順を見ると、アタシの名前の後ろにシエルの名前があった。


「えっ…………ちょっと気が重くなってきた」


 教室の入口の方を振り返ると、他のクラスメイトに話しかけられてるシエルが目に入る。でもなかなか教室に入ってこようとしない。

 ……うん、シエルって目を引く美人だけど、なかなかの問題児だよね……。はぁ、仕方ない。


「……シエル、アタシとシエルの席、前と後ろだったよ?」


 まだ教室の入口で戸惑ってる彼女の元へと戻ると、シエルはアタシを見るなり少し嬉しそうな顔する。……なにこの可愛い生き物……。

 そしてアタシに手を伸ばそうとしたシエルの手が目の前で止まった。……さっきアタシが嫌がったからかな……。オロオロする彼女にアタシはため息をついて手を取った。腕を掴んだまま、名前が書かれていた席に誘導してシエルを座らせる。


「……シエルの席ここ」

『ありがとう』


 やっと席についたアタシは教室の中を見渡した。入学式始まる前から攻略キャラの数人見掛けていたけど、その中の一人は同じクラスの男の子。友達が多くて誰とでも仲良くなれるスポーツ少年。席は一番後ろの廊下側、アタシは窓際の席だから真逆の席だった。


「……うわ、やば。実際見るとカッコイイかも」


 遠目に彼の様子を見ていたけど、やっぱり目の当たりにするとイメージが変わった。つい熱い視線を送っていたら、気付いた彼が気付いて小さく手を振ってくる。きゅんとして手を振り返していたら、遮るようにその手を掴まれた。


「……シエル?」


 教室の中を向くように横座りしてたアタシ。ぐいっと引っ張られて、せっかく手を振られてたのに、目の前には不機嫌そうな美人のお顔。


「……急になに?」


 何だろう、と思ったらシエルがアタシに手を振った。その行動に意味が分からず頭を傾げる。


『ルカ、嬉しくないの?』

「…………何が?」


 またシエルに手を振られて振り返すと、アタシよりも嬉しそうで気恥ずかしくなった。しばらくそのまま見つめられて、その意図を汲み取れずに居ると、他の子に挨拶していた女の子たちがそばを通って話しかけられる。


『ごきげんよう、シエル様。そちらの方はご友人ですか?宜しければ私たちも仲良くして頂けると嬉しいわ』


 ゴキゲンヨウ?うわっ、本物のお嬢様たちだ……。お嬢様言葉で話しかけられて、まるで英語で話しかけられた時のようにどう返せばいいかとテンパる。チラッとシエルを見ると、落ち着いた表情で応えていた。


『……ごきげんよう。彼女とは先程友人になったの。心細かった私に彼女から話しかけて。こちらはルカよ。私からもこれからクラスメイトとして仲良くしてほしいわ。ね?ルカ』

「え?あ、あの……よろしくお願いします」


 ……てか喋れるじゃん。シエル。人間だったの……?


『まぁ、私たちも嬉しいですわ。ルカ様。……それからシエル様?以前お会いした時のことですが……』


 お嬢様同士の会話に付いていけず、これ何語?と思いながらテキトーに相槌を打つ。……どうやらシエルは思ってたよりも良い所のお嬢様らしい。話しかけてきた子たちがシエルに向ける目は羨望の眼差し。それにその子たちと話す時のシエルはイケメンオーラのようなものまで出ていた。


『……では、また私たちとお話してくださいね。シエル様、ルカ様』


 さっきまでの無表情が嘘のようににこやかに彼女たちと話した後、シエルはプツッと糸が切れたようにアタシに真顔を見せた。

 あっ、シエルだ……。さっきまで誰?って感じだったけど、無表情になった顔を見たら、やっぱりシエルだった。


『……ルカ、手』

「……え?あ……はい」


 言われるまま手をシエラの机の上に差し出すと、秒で掴まれる。そしてアタシの手のひらに躊躇なく顔をくっつけて大きく息を吸うもんだから、思わず手を引いた。


「怖い怖い怖いっ」

『……っ』


 恨めしそうに見つめてくるシエル。さっきまでお喋りだったくせにまた急に単語しか喋らなくなった。そしてアタシが手を貸してくれないと分かったのか、大きくため息をついて窓の外を見る彼女の横顔がやけに哀愁漂わせていて、こっちが悪いことしてるような気分にさせてくる。


『……まぁ、シエル様が思いふけっていらっしゃるわ……』

『何をお考えになっているのでしょうか』


 さっきシエルのことキラキラした目で見つめてた女の子たちの声。そんな周りの声が聞こえてきて、アタシは何とも言えない気持ちでシエルを見つめる。……誰も分かってない……。シエルがアタシの手クンクン出来ないからって拗ねてること……。


「…………はぁ……わ、わかったってば」


 ……何でアタシがこんなこと。そう思いながらも渋々手を差し出すと、またすぐ掴まれて顔を押し付けられた。


『…………~~~~~~っ、すぅー…………はぁー……』


 ぞわぞわと背中を駆ける何か。手のひらにシエルの息遣いやら肌が触れる感触を感じてくすぐったい。……はたから見ればこいつ何してるんだ?って感じだと思ったのに、聞こえてくる声は『シエル様精神を集中なさってるわ』『シエル様素敵……』とよくわからない感想ばかり聞こえてくる。


「…………変なのに懐かれちゃったなぁ……」


 うんざりと彼女の様子を見ているとチャイムの音が鳴った。それを合図にシエルが離れて、照れ臭そうに髪を耳に掛けた。


『……ルカ、うちの子に似てる』

「……うちの子?」


 そう言ってシエルに見せられたのは、まるまる太った猫の写真だった。


「………………どこがっ!」

『全部』



+++



 今までとはまったく違う顔ぶれの教室、自分とはまったく違う子になりきって学園生活をスタートした。

 ……シエルのおかげなのか、悩む間もなくて心は落ち着いてる。……自分が死んだと分かっても、ここがゲームの世界だと教えられても、何故かそれをそんなもんかと受け入れてる自分がいて可笑しい。色んなものから解放されると人間ってこーゆー穏やかな心境なのかも……なんて悟りを開いてみたりした。

 アタシはノートを開き、真っ白なページに言葉を記す。


 このゲームのヒロインは、ルカ・イサキ。

 運命の彼、ライト君に出会う為、新たな人生はじめました。


 HRが始まるとシエルの奇行も治まって、アタシは担任の声を聞き流しながらノートにこれからどうすればいいのかとゲームの内容を思い出しながら整理していた。


ーーーーーーーーーーーーーー


 最終目標 ライト君とらぶらぶになる

 その為に必要なこと。

 イベント起こす。フラグ立てる。

 成績……??

 容姿……まぁまぁイケてる

 ステータス わからん


 ライト君じょうほう 2年生

 王子様!カッコイイ!テニス部


ーーーーーーーーーーーーーー


 ライト君とのイベントはテストの結果が重要だった。

 ……ってことはアタシも勉強頑張らなきゃいけないわけ……?それは萎える。まぁ本気で勉強頑張るんだとしたら、アタシの部屋には最強の家庭教師がもれなく付いてるけど。

 ……今はその勉強のことは置いといて、イベントが起きる場所をいくつかピックアップして放課後校内を巡ることにした。初日からイベントは無いけど、どこに誰がいるかは把握しとかないとね。ハーレム計画を実行する為にも。


『それでは明日からは通常授業もあるので教科書を忘れないように』


 担任の声で起立した後、終わりの挨拶。軽くなった鞄を手に立ち上がると、すぐにグイッと後ろに引っ張られた。


「……シエル……」


 見なくても分かる。何かと思って振り向いた瞬間、シエルに頭を抱えられた。


「……苦しっ……」

『……ルカ、また明日』

「ま……また明日……」


 すりすりされた後、解放される。アタシはぐちゃぐちゃにされた髪を梳かしながら教室を出た。

 ぁー……せっかく怜にやってもらった髪が……。どこかで直さないと。


「…………はぁ。疲れた……明日もあるのか……」


 今日は学園の中を歩き回るつもりなのに……。シエルに色んなもの吸い取られた気持ちになりながら廊下を歩いてると、並びの教室の中に怜の姿を見つけた。……そういえば怜が自分の教室にいる所見たことないかも。ふと怜が何してるのか気になって見ていると、席の周りに居る子たちと仲良くなったのか話してる様子が見える。


「………………!」


 そんなにジッと見てたわけじゃないのに、教室の入口から声を掛けるタイミングを見ていたら怜と目が合った。瞬間、微笑まれて不意にドキッとしてしまう。

 ……っ、この感じ……なんか恥ずかしい。怜の姿が今までと違って、むしろアタシ好みになってて。改めて怜の綺麗さに気付いてしまった自分が恨めしい。


「……瑠華が私のこと迎えに来てくれるなんてはじめてね」

「……まぁ……用無いし」

「用が無くても来てくれていいのに。……それより、ちょっとこっちに来て」


 教室の入口で入れずに居たアタシを見つけて怜が輪を抜けてきた。そしてそのままアタシの手を引いて廊下に出た後、廊下を曲がり人気のない階段下に連れ込まれ壁際に押し付けられた。


「!?……え、なに?」

「髪、乱れてる。……どうしたの?」

「あ……あぁ。さっき友達になった子にハグされてぐちゃぐちゃになっちゃって」


 怜の手がピクッと止まる。どうしたのかと思って見上げれば、怜がものすごく嫌そうな顔してた。


「……………………そう」


 長い沈黙の後、怜は自分に言い聞かせるようにそう言って、またアタシの髪を直す。


「…………その子、どんな子?」

「……えっと……宇宙人」

「……え?」

「だから宇宙人みたいな子。……飼ってる猫に似てるんだって、アタシが。だから懐かれた」

「………………ふぅ。……はい、もういいわ」

「あ……ありがと。……それより良かったの?急に抜け出して。友達と話してたみたいだけど」


 チラッと見えたから怜に聞くと、大丈夫よ、と前髪を直された。そして何事も無かったかのように一緒に廊下を歩く。


「アタシこれから学校の中歩くつもりなんだけど、怜はどうする?」

「……私も行っていいの?」

「……別に、どっちでも」

「なら行くわ。……ふふっ、瑠華と放課後デートもはじめてね」

「デ、……デートって……」


 ……だから、怜にときめくのやめろって。と自分の心臓を制服の上から叩いた。

 マジで今の怜は、あっちの世界でもっと髪染めてこうした方が可愛いのに、って思ってたそのままの姿になってて、ちゃんと目を見れない。


「……アタシなんかといて楽しいの?怜なら、」

「すごく楽しいわ。……というか、嬉しいの。瑠華と居るのは」

「っ…………何それ」


 食い気味に怜は楽しいって返してくれた。怜に笑顔を向けられて、ときめかない奴なんていないだろう。つい見惚れてしまって怜の顔じーっと見てたら、クスッと笑われてしまった。


「……瑠華、そんなに私の顔を見てどうしたの?」

「…………別に。……くそっ。……顔が良いのムカつく」

「……ふふ。……私、瑠華にそう言われるのは嬉しいわ。瑠華が私を見てくれるの、すごく嬉しいもの」

「っ、自分で言うなっ!笑うなっ!」


 怜の方見ないようにして歩く。つい早足になると怜がアタシに合わせて隣を歩いた。


「……私、瑠華と一緒ならなんでも楽しいの」

「………………」


 ……だからって……この世界まで付いてくる理由、ある……?

 何にも言えなくなって黙る。……だけど怜となら無言で居ても居心地は良かった。



+++



 さっき自作した攻略ノートに覚えている限りのイベント発生場所を書き込んでいたら、怜が覗き込んでくる。


「……どうしたの?それ」

「このゲームでアタシの推しとのフラグ発生する場所とか書いてんの」

「……はーれむ……?」


ーーーーーーーーーーーーーー


 目指せハーレム!!

 攻略キャラ


 最推し ライト君

 クラスメイト マクベス




 イベント発生場所

 教室、体育館、保健室、職員室、音楽室、生徒会室

 テニスコート、グラウンド、部室練……


ーーーーーーーーーーーーーー


「ちょっ、勝手に見るなって!」

「いいじゃない別に……」

「……はぁ。……ほら、次はテニスコート行こ」

「外かしら。じゃあ校舎の入口に向かいましょう?」


 イシュタル学園の校舎は3棟あって、イベントが起きる場所を把握するだけでも大変だった。……文化部の活動をしている攻略キャラを見つけて観察したり、そこにはいないけど名前を見つけては楽しんだりした後、下駄箱から校舎の外へと向かう。

 朝しか校舎の外は歩いてなかったけど、改めてその広さを目の当たりにした。地図を見ながらテニスコートに向かうと、ガランとしたコートで汗を流すアタシの最推しを見つける。


「……わ…………ライト君……」


 今日は王子様とのイベントは無いはずだから出会うはずないって思い込んでいた。……だから、急に目の前に現れたその姿に感動して固まってしまう。

 綺麗、カッコイイ、何もかも王子様……!

 一瞬で彼のことしか見えなくなってフェンスに駆け寄ると、彼はアタシに気付いて微笑み掛けてくれた。


「カ……カッコイイ……」


 思わずもれる声。今にも泣きそうになるぐらい熱いものが込み上げてくる。

 アタシは頭を下げた後、ダッシュで来た道を戻る。途中アタシを後ろで見ていた怜の手を掴んで、そのまま寮へと向かっていた。

 ヤバい、めちゃくちゃカッコ良かったっ……!


「っ……瑠華っ!……待って、瑠華っ……」

「……っ、……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 息が切れて途中で蹲ると、後ろを付いてきてた怜が背中を擦ってくれる。そしてしばらくして息が落ち着いてきた後、怜がアタシの頭を撫でた。


「……どうしたの?……せっかく会えたのに、照れちゃった?」

「……っ、……うっさいなぁ……」


 顔が熱くて、胸が痛い程苦しくて、どうしたらいいのか分からない。それが走ったせいなのか、彼を見たせいなのか、もう分からないけど。


「……ぁーーー……はぅ」


 顔アツイアツイ。興奮してまだ胸がドキドキしてるし、……うわー……アタシどんな顔してたんだろ。両手で顔を押さえてたら、怜に抱きしめられていた。


「……可愛いなぁ、瑠華。……私……悔しいわ」

「…………怜?」


 顔を上げると、怜は優しそうで悲しそうな顔をしていた。

 蹲った拍子に落としたノート。……怜はそれを見て、地面から取り上げると、目の前でそのノートに名前を書き込んでいた。


ーーーーーーーーーーーーーー


 目指せハーレム!!

 攻略キャラ


 最推し ライト君

 クラスメイト マクベス



 幼なじみ兼お姉ちゃん 笠松怜


ーーーーーーーーーーーーーー


 ハーレムという文字に×を付けられた後、書かれた綺麗な字を見つめる。

 そこには怜の名前が書きこまれた。

 ……どういうこと?と怜を見ると、アタシの前髪を横に流した後、額に柔らかい感触。怜が離れていくのを見ていると、頬を指でつままれた。


「………………は?」

「悔しい。……彼の前だと、瑠華はこんなにも可愛くなるのね。……私、改めて瑠華に意識されてないんだって分かったわ」


 ……そんなの当たり前じゃん。あんなに好きだったキャラが目の前で動いてるの見て、平常心で居られるわけないんだし!……それに何でアタシが怜のこと意識しなきゃなんないわけ……?


「……な、何言ってんの?っていうか、これ、なに?」


 ノートに書かれた怜の名前。それを指さすと怜がアタシの手を握ってくる。


「……私も瑠華に攻略されたいもの」

「攻略……されたい?」

「……私、瑠華がこんなにこのゲームのこと好きだなんて知らなかったから……。今、すごく嫉妬してるの。瑠華をこんなに夢中にさせた世界と、彼に」

「え?彼ってライト君のこと?」

「そうよ。……瑠華をこんなに簡単に女の子にしてしまう彼に負けたくないの」


 ……ドキドキドキ……とさっきまでの余韻なのか分からないけど、まだずっと胸が騒いでいた。なにこれ、アタシ……告られてる?そう勘違いしてしまう程、怜が真剣だからさっきから体が熱い。


「っ、ねぇ……攻略されたいって、意味分かって言ってる?」

「えぇ……何となくは。最終的に瑠華に押し倒されるのよね?」

「なっ、ち、違うっ!!」


 ……っていうか、怜はアタシに押し倒されたいってこと……?いやいやいや、怜も意味分かってないで言ってるし。


「……あなたが誰かに夢中になって感情的になっている姿を見ていたら、私もあなたに意識してほしくて……」

「そ、それって……いや、無理でしょ。……怜は……アタシの幼なじ、」


 そこから先は、モジモジしてた怜に唇を指先で押さえ付けられて言えなくなってしまった。


「それは、これからの行動次第でしょ?」

「……むぐ……?」

「……見守る立場なのに。……これからはあなたに選ばれる立場ね。頑張らなきゃ」


 怜が嬉しそうに笑う。

 選ばれるって……それゲームの中の話、だよね?


「さ、今日はもう帰りましょう?……明日から瑠華は勉強も頑張らないとね」

「ぐっ…………余計なこと思い出させないで……」


 あんなに震えていた心臓が「勉強」の一言で落ち着いていくのが分かる。

 現実を見て一気に冷めたアタシがつい憂鬱になると怜が嬉しそうに笑った。


「……私、あなたの困った顔を見るの好きだわ」

「ホント最悪」





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