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プロローグ




「……ぐっ…………はぁっ……はぁっ……ぁ」


 ボクはベッドの横で苦しむ君を眺める事しか出来なかった。

 次第に弱っていく息。


(……瑠華、……瑠華!……誰か!瑠華を……助けて)


 叫ぼうとしても声が出ない。

 苦しみにもがいて布団はベッドの下に落ちて、君はうつぶせになりシーツを掴んだ後、……動かなくなった。


(……瑠華……)


 ボクは瑠華が暴れた振動で君の顔の近くに転がる。

 ほんとはあどけない君の素顔。可愛らしい寝顔が目の前にある。

 ……だけどさっきまでの苦しい息遣いも聞こえてこなくなった。

 ボクに看取られていたのも知らず、……君はボクのように動かなくなった。

 ……そして瑠華を見守り続けた後、次第にカーテンの外が明るくなってくる。


 君のスマホだけがこの部屋の中で唯一動くものだった。

 音を鳴らし震える。それが何度も続いた後、……部屋の外から音が近付いてきた。


 ……やっときた。やっと君を探しに来てくれた。

 本当に瑠華を心配しているのは一人しかいない。

 ……そんな彼女に、今の瑠華を見せるのは心苦しかったけど。


「…………え……」


 彼女は瑠華の部屋に入るなり、悲鳴にならない声を上げて瑠華の体を大きく揺する。

 名前を呼んで、何度も、何度も、……ボクがしたかったことを代わりに。

 でももう、瑠華は…………。


「…………いやっ…………いやぁっ!!」


 動かなくなった君は答えない。

 彼女はそれでも瑠華の体を強く抱きしめて、名前を叫んだ。


 ……一人で逝ってしまった君へ。

 君にはもっと、ずっと君のそばにいた彼女のこと信じてあげてほしかった。

 何よりも、誰よりも君を愛していたのは――


「……っ、……あなたがいない世界なんて、私……お願いだから、お姉ちゃんも一緒に連れてって」


 彼女の悲痛な叫びが聞こえた後、嗚咽しか聞こえない部屋で、聞きなれない声が聞こえた。


『……伊崎瑠華の魂の収容を完了しました』


 まるで機械のような声が聞こえた後、部屋の中が光り出す。


「……あなた、誰。瑠華をどうするつもり……?」

『…………え、私が見え……っ!』


 ベッドの上がギシギシと揺れる。声は二人なのに、暴れる音は彼女一人分だ。


「……伊崎瑠華の魂は私のものよ。誰の承諾を得て彼女に手を出しているのかしら」

『…………何を、いぇ、あ。あなた、人間じゃな……!?』

「言いたいことはそれだけ?……じゃあ、さよなら」


 眩い光が部屋を包む。

 その光が収まると、まるで何もなかったかのようにとても静かになった。


「……もういいわ。……瑠華の大好きな世界に行きましょう?あなたを苦しめるのは私だけでいいもの。…………あなたもそう思わない?」


 瑠華の頬を愛おしそうに撫でていたその手にボクは抱き上げられる。


(ボクの声……聞こえてるの……?瑠華は、瑠華は)

「……瑠華がいるから我慢してたのに。……瑠華のいない世界なんて、意味無いわ」


 彼女がぱちんと指を鳴らすと、ボクたちは光に包まれた。





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