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「呪いのアイテムの処分」

 それはギルドのクエストボードに大きく貼り出されている依頼だった。


『呪いの小箱を処分してくれる方を募集します! 教会でお断りされた品ですので上位聖職者か呪い耐性を持った方を歓迎します』


「興味がおありですか?」


 グラーニャさんが依頼を見ていた俺に声をかけてきた。


「ええ、すこし。教会がさじを投げたとは珍しいですね」


 とても嫌そうな顔をしてその依頼に視線をやっているグラーニャさん。


「なんでも、何世代も前から呪いを注ぎ込んでいたらしいですけど、呪いをかける相手の家系が病気で夭折したので使い道のなくなった箱を持て余したそうですよ。勝手なものですね。呪いをまき散らし始めたので処分しようとしたらしいですが手に負えなくなっていたどうです」


 人の恨みとは恐ろしいものだ。しかし何世代も呪い続けて相手は勝手にいなくなったとかどの面下げてこんな依頼を出しているのだろう? 人を呪うことにためらいとか無いのだろうか?


「解呪は出来ません、ですが……」


「何か方法があるんですか!?」


 食い気味に質問してくるグラーニャさんにちょっと引いてしまう。


「無力化なら出来ます」


「それは解呪なのでは?」


「解呪だと呪いは綺麗になくなりますが、俺のやり方だと呪いは残ったまま、それが害を及ぼさないように出来るだけです」


 グラーニャさんは大喜びして俺に受注書を渡してきた。


「では是非受けてください!」


「はあ……分かりましたよ」


 俺はそうして渋々依頼を受けることにした。『ストップ』を使えば呪いの拡散は防ぐことが出来る。後はストレージに専用領域を用意してそこに放り込んでおけば良い。難しい依頼ではない。しかし自業自得な連中をわざわざ助ける意味があるのかとも思ったが、一応金は払ってくれるんだから文句を言うのはやめようか。


 俺が記入を終えると説明が始まった。どうやら町の中でも外周部にある家が、その家の貸し主であった金持ち相手に恨みを持って作ったらしい。賃貸の問題で揉めていたらしいがそんなこと数世代もかけて呪うようなことか? とは思う。土地関係は揉めると言うがここまでこじれることは珍しい。しかも呪物を作っているときている。迷惑この上ない。


 話を聞き終え、質問があるかどうか聞かれたので特に無いと答えておいた。この手のことには心底深く関わりたくはなかった。人の呪詛というのは根が深いもので、深みにはまるとロクなことにならない。だから依頼だけをこなして細かいところはギルドに任せることにした。


 説明が終わったので町の外周部に向かうと、隣に家のない禍々しい家が一軒あった。地図でもらった位置情報とまったく同じ。ここで間違いないな。


 ドアをノックすると顔色の悪い女が『ギルドからの方?』と訊いてきたので『そうです』と答えると家の中に引き入れられた。


 小さな子供までぐったりしているのを見ると人間というのが欲深いものだとよく分かる。


「これなんですけど……」


 そう言って真っ黒な箱を指しだしてきた。黒く塗られているのかと一瞬思ったのだが、僅かに見える赤みがかった部分からそこに塗られているのが血液だと分かった。


「なかなかのものですね……」


「ええ、あの地主に送りつけようとしていたら突然死んでしまって……私がやったのではないわ! 私がやるならこれを送りつけるもの!」


「はいはい、誰かの責任を問う気は無いですよ。その小箱、とっとと処分しちゃいましょうね」


「お願いします」


 俺は小箱を受け取る。見た目に反する重さと、長く持っていると気分が悪くなりそうな禍々しさを秘めている。売れば案外呪術師が高値で買いそうだなと思う品だ。しかし、今は重要ではないので早いところ呪いを止める。


『ストップ』


 ピタリと流れ出ていた瘴気が止まった。これで無力化は終わったのだが、ここに置いておくといずれまた揉めたときにこれに頼りかねないので呪物は回収してくれと言うのがギルドの注意書きだった。


「これでもう呪いの心配はないですし安心していいですよ。こちらはギルドで処分しておきますね」


 これがどうやって作られたかについては訊かなかったし、聞きたくもなかった。大抵小動物を生贄にして作るのが定番だがコイツの素材は何か違うような気がした。思っている通りのものならかなりの危険物だ。そう、人の生き血の可能性が高い。


「え!? それはうちの物なので回収されては困るんですが……」


「悪いけどギルドで言われているんでね。それともこれを誰かに使う予定がおありで?」


 ぐっと言葉に詰まったようだ。図星だったのだろう。そう都合よく呪いを止めたり出したりなどされてたまるか。


 ストレージの隔離区画に放り込んで依頼は終了、『ちょっと待って!』などと家の人間が言っていたがこんなものを民間に放置しておくわけにはいかないんだよ。


 ギルドに帰って呪いの止まった箱を取り出すと受け付けていたグラーニャさんが顔を青くした。


「こ……これはなかなかの代物ですね……私でもなんとなく危険と分かりますよ」


「今は呪いの心配がありませんし、後は解呪できる人間を募集するなり、安全な処分方法を考えるなりしてください」


「わかりました、確かに依頼完了ですね。正直ここまでのものが出てくるとは思いませんでした」


「人間の恨みは深いんでしょうね。今のそれはただの箱なので開けないようにさえ気をつけていれば危なくもないですよ」


「それでは報酬の金貨十枚です」


 俺は報酬をありがたくもらってギルドを出た。チョロい依頼ではあったのだが、あの箱の制作過程を考えるとおぞましくてぞくりとしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うちの『者』…字のママなんですね。 熱中症警報がでた暑い日に読んで良かった!
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