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「ドワーフは酒を所望する」

 俺はとある店の前に立って入るべきか悩んでいた。


『お酒、買い取ります!』と書かれた看板に、中にはガラス越しにドワーフがいるのが分かる。看板の下に『キツい酒歓迎』と書かれているのが目立つ要因だ。ドワーフは酒に強いらしいのだが、ストレージの中に結構な量のある酒を売り払うチャンスではないかと思っている。


 ストレージには火を近づけると燃え出すとまで言われているような酒がある。ドワーフでも飲めるかどうかは怪しいところだ。俺が飲んだときは魔物の血を飲んだのかと思ったくらいキツい味だった。こんなものを売ったら文句をつけられないだろうか? そんな不安が頭をよぎる。


 当たって砕けろって言葉を聞いたことがあるし、入ってみるとするかな!


「こんにちはー! 買い取りお願いしまーす!」


 そうして俺は『酒類買い取り! 燃える水』に入ったのだった。


 入るなり店主のドワーフが俺の方を見て『旅人か』と一言こぼした。あまり歓迎されてないのかな?


「すいません……買い取りやってるって表に書いてあったんですが……」


「出してみろ、査定くらいはしてやろう」


 少しイラッとしたが、この町ではこの対応が当たり前なのだろう。よそ者に厳しいと言うのはしょうがない。


「じゃあこれを査定お願いします」


 俺はストレージから蜂蜜酒(ミード)をとりだした。目の前のドワーフはなんとも思っていないような顔をしている、やはりここまで人口がいると収納魔法くらいでは驚かないか。


「ふむ……ミードか。これは見たことの無い種類じゃの!」


「値段は付きますかね?」


 店主は少し考えてから俺に問う。


「一本ではないんじゃろ? 何本持っておるんじゃ?」


「一〇本ほどですかね」


 ドワーフとしての血が騒ぐのか店主は俺に金貨一枚を刺しだした。


「これは?」


「味見の分じゃ。味も分からんものを売れんじゃろう? 一本開けて味見をせんわけにもいかんからな」


 なるほど、商売人として当然というわけか。確かに何が入っているか分からないものを売るというのは怖いからな。しかし味見分で金貨一枚とは金払いのよいことだ。


「どれ、無名な酒は普段飲まんのじゃがな……」


 一口飲んでから店主は目を見開いた。


「ふむ! まあまあじゃの! ところでもうすでに他で売っておったりするか?」


「いや、ここが最初の店だな」


 そう聞くとがっはっはと大笑いし店の奥に入っていったかと思うと袋を一つ持って帰ってきた。


「お前さんの持っておるボトル、全部買おう」


 いきなり全部ときたか……


「もうちょっと他でも見積もりを……」


「分かった! これの倍を払おうじゃないか! それでどうだ?」


 俺は麻袋の中身を覗いてみる。見たことのないような量の金貨が入っていた。


 断る理由も無いのだが……


「本当にこれだけ払うのか? ミードにしては結構な額だと思うが」


「構わん! ワシの舌を信じる! コレは飲みた……売れる酒じゃ!」


 今飲みたいって言わなかった? 実は飲みたいだけなんじゃね? いや、金をもらった以上文句はないけどさあ……好きにすればいいけど欲望に忠実すぎませんかねえ……


 ストレージから一〇本とりだして渡す。店主は即、栓を開けグビリと飲み始めた。


「うむ! 美味い! ワシの見込みに間違いはなかったな!」


 いつ見込んだんだ……つーか初対面でものすごく対応が悪かったじゃねえか! そこまで口から出かかったが、ミードの代金のずっしりとした重さが理性を強め、俺が暴言を発することを止めた。


「それは何より、ここら辺じゃ近くの村とかに買い付けに行かないんですか?」


 店主はポカンとした顔をして俺の問いに答える。


「なんでそんなことせにゃあならんのじゃ? 普通に金を払えばお前さんみたいな旅人が売ってくれるじゃろうが」


 なるほど、この町は『豊かすぎる』んだ。大抵のことは金で始末が付く、この町では変えるものは金で買うというのは至って合理的な判断なのだろう。


「ところでお前さんからは酒の匂いがするんじゃが……まだ持っておらんか?」


「これは俺の物です、売りませんよ」


 懐に一つ仕込んでいる小瓶を押さえる。これは俺が自分で飲もうと確保していた品だ。売り払う気は無い。


「なるほど……()()()()()()か……」


 店主は奥に入っていってナイフを一本持ちだしてきた。まさか襲いかかる気か!?


「そう身構えるな、コイツはここ数年でワシが冶金をしておって一番の品じゃ。これと交換でどうじゃ? 売る気は無いが交換はしないとは言っていないじゃろう」


 そういえば確かにそうは言っていないな……ってそんな詭弁に引っかかるわけには……目の前には怪しく光る金属でいかにも切れ味が豊かと言った風にたたき上げられてナイフが置かれている。スキルがあるとは言え武器があれば戦闘の自由度の幅はかなり広がる。しょうがないな……


「どうぞ」


 俺はウヰスキーの入った小瓶を渡す。まだほとんど飲んでいないので新品同様だ。


 嬉しそうに直接口をつけてぐいと飲む店主。ドワーフだからと言ってアレを割らずに飲むのは少し無謀だと思うのだが、種族間の常識というのは違うので案外平気なのかもしれない。


「むむ!! これはなかなか……ふむ……」


「旅人よ! よい酒だったぞ!」


「それはどうも……」


「いや、旅人というのも大事にせんといかんな! わざわざこの町を訪れているのだから厚遇せねばいかんな、うむ」


 手のヒラをクルクル返す店主に呆れながら俺は店を出た。出がけに聞こえた「まだ酒を持って……」という言葉は丁重に無視した。


 次いで食堂に入ると、券売機が用意されており、銀貨を対応する枚数分入れると対応した食券が発券される形式になっていた。王都以外で初めてこのシステムを見たかもしれない。これ機械代が高いんだよなあ……


 ちなみにしっかりと機械の値段分食事代に上乗せされているんじゃないかと思ってしまうほどの値段だった。味は……普通だったな。案外高ければいいというわけではないのは本当らしい。あるいはこの町では席に座る権利が高いのかといったところだろう。


 一番安い野菜炒めで銀貨三枚は結構な値段だと思ったものの、さっき売った酒の代金を考えれば破格の安さでもある。


 その後、町を観光してからストレージに入っている金貨の量を確認して心地よくその日を終えた。明日も稼ぐぞ! 眠りそうなとき、「うちの酒は美味いからな」とどこかの村で聞いたような気がしたことを思い出し、そう言う言葉を無下にするべきではないなと認識を改めたのだった。

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