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「村を発つに当たっての下準備」

 俺はやるべき事はやったし、出来そうも無いことは諦めたのでこの村を後にすることにした。宿賃を明日の分まで支払ってそれ以降は出て行くので不要だと告げた。少し残念そうだったが『よき旅路を願ってるよ』と言われたのでそれなりに前向きに出発することになった。


 とりあえず道義的にはギルドへ一声かけておくべきだろうな……行くとしますか!


 ギルドへ行くと俺の移動において手続きは必要無いと一言もらっただけだった。驚くほどあっさりと引き留められることもなかった。


「あの……引き留めとかしないんですか?」


「ああ、魔物を刈る必要が無くなったのには感謝してますけど、うちは農業メインですからね。強い戦力がいても持て余すんですよ」


 なんともあっけない反応だったが、面倒事をこれ以上起こしませんという宣言だったのでもう俺は必要無いと言うことだろう。そもそも俺は誰かのお守りをするのは好きではないのでそれは良いことなのだろう。


 安心してギルドを出ることが出来たのだが、あのギルドは今後、魔物狩りで資金を得られないのにやっていけるのだろうか? そんなことを考えてしまう。ギルドを出て隣のクエストボードを見ると『農産品買い取り中』と書かれてあったので今後は当分農業ギルドとしてやっていくのだろう。


 村を歩いていると農業をしている人たちが話しかけてきて、野菜を少しずつわけてもらってしまった。どうやら俺がこの町の農業を助けた事へのお礼らしい。そんなに重い話ではなかったと思うが、時間停止をつかって傷まないようにして丁重にストレージに入れておいた。


 宿にももう村を発つと連絡はしたし、後はあそこくらいだな……


「こんにちは」


 俺は孤児院の門を開けた。


「あ! お兄ちゃんだ!」


「あらあら、また寄付ですか? 歓迎しますよ」


 ユーリさんも地味にがめついんじゃないだろうか?


「いや、今日は村を発つので挨拶に来ただけですよ」


「そうですか、旅人さんですものね……」


「ええ、1カ所にあまり長居はしないんですよ」


 流れ者は一々長期滞在はしない。理由があるならともかく、良い場所だったから程度のことでは居着こうとは思わない。執着は大抵よい結果を生まない者だ。


 しかしユーリさんはともかく、子供達に残念そうな顔をされるのは少しだけ後ろめたかった。しょうがないな……ストレージに入ってたはず……


「ほら、これあげる」


 少女の手のひらに魔石を乗せる。ポカンとしているがかまわない。


「あの、アレはなんですか?」


「魔石です、いろいろあって作ったやつですがね、ここの菜園に撒けばそれなりに効き目がある農業向けのやつです」


 この前肥料もどきを作ったときに魔石に同じ魔法を込めてみた、効き目はあるようだが大量に使うと植物が枯れてしまうのでボツにしたやつだ。一つくらいなら範囲は狭いが効果もそれなりに薄まるので作物が枯れるようなことは無いだろう。


「何から何までありがとうございます、助かりますよ」


「気にしないでください」


 なんとなく勇者パーティーを追い出された自分を家庭を追い出された子達に重ねていたのかもしれない。そんな感情を俺が覚えているのかもよく分からないが、とにかく良いことをしたのだからそれでいい。悪行をやるには理由が必要かもしれないが善行をするのに理由は要らないはずだ。


「次はどこへ行かれるんですか?」


「適当に選んだ町の方へ行こうかと思ってます。予定は決まってませんね」


 この村にはいくつかの町や村が隣接している。どこへ行っても問題無いはずなので気楽に出ていけばいい。幸い途中までは共通の道を辿るような立地になっている。


「そうですか、あなたの旅路に幸があるのを祈っています」


「それはどうもありがとうございます」


 神を信じているわけではないが、誰かのお祈りを無下にする気は無い。気楽に行くとしようか。


「では俺はこれで失礼しますね」


「はい、お世話になりました!」


 俺は気がかりだったことも済ませたので村の検問所から出て行くことを告げ村を出た。この先に何があるのかは不明だが、路銀にも困っていないので気楽に行こうかね。


 村を出ると晴れ晴れとした空と緑色の草原が広がっている。ここから先は自由だ。貯金と物資で当面の旅は困らない。そうだな……


 俺はその辺に落ちている枝を一本人ってポイと投げた。


 こっちか、じゃあこちらに向けて行くとするか。


 至極適当な方法で道を決めてのんびりと旅路を進んでいくことにしたのだった。

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