「晴れの日、町を出る」
「町を出ようと思います」
俺の言葉にメアさんはポカンとした顔をしていた。突然だが旅人の旅立ちはいつだって突然だろう。
「待ってくださいよ! クロノさんが居なくなったら困るんですけど!」
俺はストレージから百本ほどエリクサーを取り出した。上級品から標準品までクオリティに差はあるが、俺には不要なものだ。
「え……」
これだけあれば当分は死人も出ないでしょう、ただでお譲りしますよ。死なせたくないやつもいますしね。
「いや、しかし……」
「メアさん一つ訊いておきたいことがあります」
「なんでしょう?」
「この辺の地図、おかしいですよね?」
「え?」
「地図を見たのですが、この近辺に魔王領があるのを知りましてね、これはどんな結果になろうと訪れておきたいと思うんですよ」
「え……魔王領の存在は秘密に……」
「雑なんですよね、地図の点と点を結んでいけば不自然な空白地帯を嘘で塗り固めていることは丸わかりですよ」
昨日じっくり地図を見てその不自然さに気がついた。何故かこの近辺に空間が歪んでいるとしか思えない地図が存在しているのだ。
「正気ですか……? そういうことは勇者の皆様に任せた方が……」
さすがにメアさんも心配らしいな。
「気にしないでください、俺は魔王軍に負けるようなつもりはありませんから」
多分魔王領をまとめて吹き飛ばせそうな気もする。そのくらいの時空魔法が使用出来るようになってしまった。
「本気ですか、その目は本気で言っているんでしょうね。出来れば引き留めたいところなのですが……」
「俺は雇われではないのでね、未開の地があったら言ってみたくなるじゃないですか」
メアさんは少し狼狽して俺を引き留めようとしてきた。
「クロノさんの身を案じてのことですよ、本当に行かれるんですか?」
「ええ、俺の旅も一区切りをつけたいと思っていましてね、人類と魔族がいい関係になればいいと思っていますよ」
「それは無理だと思いますがね……分かりました、このギルドからの登録は抹消しておきます。どうかお元気で……それと、サキさんには言わないんですか?」
「いやあ、言ったら泣かれそうですしね……怒る人には慣れているんですが、泣かれるとどうしていいか分からないんですよ」
サキみたいなタイプはどうにも苦手だ。俺が普段接しない相手だからだろうか?
とにかく俺がこの村を出ることを決めたことを伝えると、俺はサキに見つからないように町を出た。それから先は山脈だ。魔族も人間と正面切って戦いたくはないのだろう、険しい山に囲まれた場所に住んでいるようだ。
『アンチグラビティ』
俺はその山脈を正攻法で突破するのを諦めて、反重力を使って小さな足場をジャンプして飛んでいった。そして山脈を越えると自然な緑の平原が広がっていた。どうやら魔族も良い環境に住みたいと思うのは人間と同じらしい。俺はその草原に一歩を踏み出した。




