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「魔法による肥料作成」

 なるほど……面倒なことになっているのだな……


「助けていただけませんか! クロノ様ならなんとか出来るかと……」


「様はやめてくれ!」


 俺はこの村の現状を聞いていた。この村の連中が何故魔物と戦っていたのかという理由に関わるものだった。俺はスルーしようかと思ったのだが『打つ手がなければ再び魔物狩りに行くでしょうな……』という言葉を聞いてしょうがなく話を聞くことにした。わざわざ助けたやつにそう簡単に死なれてたまるか。


「それで……ここのところ作物が上手く育たず不作でして、税を払うのに魔物狩りの報酬を充てようとしていたのです」


 理由とはただ単に税が払えないから討伐報酬で支払おうとしたと言うことだ。無謀にもほどがあるだろう。命を賭けるのは最後の手段であって税のために命を賭けていてはキリがない。


「とは言ってもなあ……俺は農業の専門家じゃないし……」


 しかし頭を下げられては無下に断りづらい。目の前でお願いされるとやはり気持ち的になんとかしたくなる。問題は農業のことについて俺に聞かれても困ると言うことだ。


 そうだな……アレが使えそうだ。


「一つ聞きたいんだが種籾自体はまだあるのか?」


 怪訝な顔で農業組合の助役は答える。


「ええ、種は来年のために保管していますが……」


「よし、この宿の前に土を持ってきてくれるか?」


「土……ですか?」


 俺は本当のことは黙って答える。


「ああ、栄養豊富な土があればなんとかなるかもしれない」


 俺がそう言うと助役は頭を下げて『今すぐ集めてきます!』と言って去って行った。そうして俺は宿に入ってブツが届くまで飯を食うことにした。金さえ払えば不作でも食事は出来る、これは良い文化だな。


 俺が金の力で食事をのんびりとしていると、宿の表の方でドサドサと音を立てて何かが置かれている音が聞こえる。うんうん、ちゃんと言われたものを持ってくるのは出来る子だな。もっとも、実は別に土である必要はないことは秘密だ。


 しばし昼食を取ってから表に出てみると人の背丈ほどの土袋が山盛りにしてあった。農業組合の人間であろうガタイのいい人が何人も運んできたので俺はリーダーをやっている助役に言う。


「これだけあれば結構ですよ。一晩時間をくれませんか? これを肥料にしておくので明日ここから持って行ってくれれば良いです」


「はい、ではどうかよろしくお願いします」


 恭しく言ってその場を後にする皆さんを見送ってから、俺はこの土に()()()()魔法を考える。それが一番手っ取り早い、土に魔法を付与すればそこから栄養をすっている植物にも魔法の効果が移る。よし、アレでいくか!


 昼間にやると目立つので俺は部屋で付与する魔法を使用するため魔力を体内で練り込んでおく。魔石にしてもいいのだが、それでは仕掛けがバレバレなのであまり良い方法とは言えない。やり方のはっきりした方法を使うとそれが広まってこき使われる未来しか見えないからな。


 そんなことをしているうちに夕食になったのだが、なんと多めの肉とパン、それにワインまで出てきた。確かに宿賃に食費込みになっているがいくら何でもこれは豪華すぎるだろう。


 俺は宿の店主、グリーズさんに質問をした。


「あの……今日の食事が豪華すぎる気がするんですが……?」


「ああ、農業組合からアンタには満足してもらえる食事を出せといわれたのさ。気にせず食べてくれて良いぞ、金は向こう持ちだからな」


 かなりの期待をされているらしい。これは失敗できないなと思わされた。


 そしてその夜、俺は宿を出て前に積まれている土の入った麻袋の前に行く。これにまとめて付与すれば良いな。


『エンチャント オールド』


 種も仕掛けもいたってシンプル。時間を進める魔法を付与して終わりだ。幸い魔力を練っていたかいがあり、エンチャントは非常に順調に終わり高速で作物が出来る肥料が完成した。


 ヨシ! これで明日引き渡すだけで完了だな!


 俺は部屋に戻りその日を終えた、そして翌日……


「これが肥料……ですか?」


 さすがに見た目が変わっていないので担当も怪訝な顔をしている。


「疑問に思うのも分かるがこれを肥料にして新しくイモや穀物を育ててみて欲しい、野菜でも何でもいける肥料ですよ」


「本当ですかな……いや! 疑うわけではないのですが……」


「まあ試してみてもいいじゃないですか、手段を選んではいられないんでしょう?」


「う……確かにそうですな……我々は今は細い糸にも縋らねばなりません、分かりました! これを農家に配布します!」


 なんとか納得してくれたようなので俺はその日、各農家に土を配るのに付き合った。収納魔法を使うと圧倒的に効率よく配布できるので、その日一日で全農家に肥料の配布が完了した。


「皆さん半信半疑と言った感じですね」


「まあ……見た目はまるっきりただの土ですからね」


 俺はごもっともだと納得しながら成功報酬をしっかりもらえるように担当者に釘を刺しておいた。失敗すれば報酬を払う余裕などなくなるので、あくまでも成功報酬だ。俺の自信を見て取ったのか相手もそれなりに納得した様子だ。


 そして翌日のことになる。


「クロノさん! お客様ですよ!」


 そんな大きな声で俺は起こされた。のんびりしていたかったのだがそうもいかない様子だな。


 ロビーに出ると農業組合の人間らしき人が手もみをしながら出迎えてくれた。


「いやあクロノ様は凄いですね! まさか一日で作物が育つとは思いませんでしたよ! さすが魔道士様ですな」


「だから様付けはやめてくださいってば……税金の支払い分くらいは採れましたか?」


 ニコニコしながらその問いに答える。


「ええ、税とクロノさんへの成功報酬を支払ってもかなりのお釣りが出るくらいに収穫できましたよ! 本当にありがとうございます!」


「それはどうも、成功報酬は金貨五枚でしたよね」


 俺もこの村が豊かではないのを知っているのでかなり安めに引き受けた。このくらいなら支払っても生活に問題無いだろうという額で受けた。


「こちらが報酬になります」


 小袋を俺に手渡してきたので俺は中身を確認する。金貨が五枚、確かに入っている。


「問題無いですね、お互いに上手くいきましたね」


「そうですよ! さすがでしたな!」


 こうして俺は村を救ったと言ってもいいだろうという働きをした。割に合わないし正規の依頼でもないのだが、感謝されるというのは悪い気はしないものだな……

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