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「コボルト討伐」

 俺はその日、朝食のビーフシチューを食べてからギルドに向かった。大した依頼はないだろうと思っていたのだが……


「お願いします! クロノさん!」


 入ってそうそうに頭を深く下げられた。何か面倒な依頼を受けてほしいのだろう、報酬次第なのだが出来れば押しつけられるのは勘弁してほしい。ただし、ギルドのメンツが頭を下げているところは評価する。少なくともギルドとして依頼を強制するつもりはないようだ。


「何を受けてほしいんですか、ロスクヴァさん?」


 そう尋ねるとロスクヴァさんは重い口を開いた。


「実は……先日クロノさんにチルさんを助けていただきましたよね」


 ああ、あのコボルトに負けた、根性『だけ』はあるいいところのお嬢さんか。


「あの人がどうかしたんですか? いくら治療が出来たとは言え、昨日の今日でまた無茶をしたりはしないでしょう?」


 さすがにそんなにトラブルに巻き込まれるのが好きだとあきれてしまう。命の危険にあったというのに翌日に再度、命を危険にさらすのは無謀というものだ。


 そこでロスクヴァさんは口ごもって話し始めた。


「実はですね……チルさんなのですが今は自宅療養をされているのですが、回復し次第依頼を受けると言って聞かないと家族から相談がありまして、次は死ぬかもしれないと言っても聞かないので、『先に依頼が完了させておいてもらえると助かる』と仰っていまして」


「要するにその依頼を俺がこなしておいてくれってことですね? コボルトの討伐でしたっけ?」


 コボルトごときに負ける人が長生き出来るような業界ではないと思うのだが、チルという少女はそれにもめげずにチャレンジしたいようだ。まあギルドに支援をしているらしいので多少の特権はあるのだろう。金の力でギルドの助言を無視しているようだが、金に不自由していないならそんな無茶をする理由なんて微塵も無いような気がするのだがな。


「そもそも何故そこまでギルドの依頼をこなそうとするんですか? あのチルとか言う人は……その……あまりにも……」


「弱すぎますよね」


 俺のぼかした部分をきっぱり断言するロスクヴァさん。分かっているなら依頼を断るべきだと思うのだが、ギルドも金で動いている以上資金援助をしているところを無碍には出来ないのだろう。


「クロノさんの言いたいことも分かるのですが、実はチルさんが幼い頃に冒険者に助けられた経験がありまして、その時の憧れで自分も冒険者になると言って聞かないそうなんですよね」


 面倒くさい人なんだなあ……『される』事は簡単だが『する』事は難しい。そんなシンプルな事情さえも理解していないチルは長生き出来ないのではないだろうか?


「別にコボルト討伐くらいは受けてもいいですが、そんな生活を続けていたらあの娘はそのうち死にますよ」


 正直な感想を言うとロスクヴァさんもため息をついてから言った。


「何度もそれとなく言っているんですけどね……チルさんはどうしても聞かないんですよ」


「この依頼を受けるのは構いませんが、あの娘の考えは変わらないと思いますよ?」


 全てを諦めた目でロスクヴァさんは答える。


「いい加減ギルドの皆さんもうんざりしていて、その場をしのぐくらいしか出来ないんですよね」


 どうしようもないなこのギルド……


「もうあの娘は知ったことではないですが、今回の依頼の詳細は教えていただけますか?」


「はい、目的はコボルトの巣の殲滅ですね。岩山にコボルトが巣を作ったので駆除してくださいという依頼です。出来ればチルさんが諦めるほどには、完膚なきまでに破壊していただけると助かるのですが」


 徹底的にやれって事か。まあコボルトの巣くらいどうとでもなるだろう。今さらコボルトくらいに負けるような生き方はしてきていない。コボルトの駆除なんて難しい話ではない。


「ではクロノさん、受けて頂けますか?」


「ええ、わがままなお嬢様の面倒を見ることでさえ、ギルドからの依頼で報酬が出るならやりますよ」


 全ては報酬のためである『で、いくら報酬が出るんですか?』と尋ねてみた。


「金貨十枚支払います! そのくらいでわがままがなくなるなら安いものですから!」


 だったらどうとでもなるようにしようか。


「コボルトの巣はこの前行った南の岩山ですよね? ではさっさと行って駆除してきます」


「はい! お願いします!」


 元気の良い答えを聞いて俺は南に向かった。岩山にはコボルトしかいない様子だったし潰せばいいだろう。なにしろ『二度と受ける気が起きないように徹底的に』と言うことらしいからな。


 ギルドを出て町の門をくぐる時に『あんたも大変だな』と声をかけられた。どうやらチルさんは有名人らしい。あまり良い意味での有名人ではないようなので、本人には知られない方が良いなと思った。


 そして町を出て目的の岩山にたどり着いた。探知魔法を使って巻き込まれるものにコボルト以外がいないことを確認する。よし、きちんとコボルト以外の敵はいないな。ご丁寧にコボルトが誰かを連れ去っていないことを確認出来たのでコボルトの巣に対して攻撃を仕掛けた。


『圧縮』


『解放』


 空間圧縮で岩山を範囲に入れてまとめて圧縮して全てを潰す。解放するとコボルトだったものが岩と混じってゴロゴロところがってきた。普段なら加速魔法で対処したりもするのだが、今回はチルさんの心を折りにかかるように倒してくれと言うことなので、ご要望通り徹底的に叩き潰した。討伐の証拠どころか岩山自体を砕いてしまったので心を折るには十分だろう。全てが終わったので俺は悠々とギルドに戻った。


 町に入る時に『もう終わったのか!?』と門番が驚いていたのが新鮮だった。あっという間に終わってしまったからな。


 ギルドに戻って報告をする。岩山を破壊したので怒られるかと思ったのだが、これで当面はあの人も無茶は言わないでしょうねと歓迎された。後日確認はするものの、報酬は仮払いしておくということだ。


 ロスクヴァさんは報告を受けながらホッと胸をなで下ろしていた。


「助かりましたよ、チルさんは回復したので今日再度依頼を受けると主張していたそうですよ。ご家族の方が身体の様子を見てからにしろと引き留めたそうですが、それでも引き留められる時間には限度がありますからね。クロノさんが片付けてくれて良かったですよ」


 どうやらあの娘は問題児で通っているようだな。幸い今回俺がいたからいいようなものの、そのうち死ぬのじゃないかと心配になるよ。


「では、報酬の金貨十枚です。まずないことだとは思いますが報告に虚偽があれば回収しますので気をつけてくださいね?」


「ええ、きっちり全滅させたので問題はありませんよ」


 俺は断言してギルドを出た。それから宿で夕食を取って眠りに就いた。後日、町の近辺の地図から岩山が無くなり、地図の書き換えに手間がかかると散々ギルドで文句を言われたのだった。

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