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「魔素の発生源」

 さて……大仕事に取りかかるかな……


 俺はギルドを通さない慈善事業に手を出そうとしていた。以前から森の中で気になっていた場所だ。元はと言えば薬草を採りにいった時に探索魔法を使うと引っかかったものが気になっていたのだ。


 魔物がこれだけ厄介になって、森の中に濃厚な魔素が漂っており、魔物が鬱陶しいことになっている状態が気になっていたのだ。おそらくそこには何かがあるだろう。


 そうして俺は面倒なお仕事をこなすために宿の朝食をたっぷりと頼んで面倒なことに突入しようとしている。ギルドで依頼が出ていたらどれだけありがたいだろう。残念だがこの町の人たちは魔物の活性化について誰も気にしていない様子だ。


「クロノさん……朝から食べますねえ……」


 給仕のお嬢さんにそう言われたので……


「何かと面倒なことが多いものでね」


 そう答えておいた。不安を与えることもないだろう。これから俺がやることは物好きの道楽でしかないのだからな。それにしても放っておいて出ていってもいいというのに俺も物好きだな……


「どうぞ」


 シチューとステーキ、白パン二つを俺はじっくり時間をかけて食べた。厄介ごとをこなす前にこういう気力を蓄えておくことは大事だ。


 ふう……食べきったぞ。さて、面倒事に取りかかるとするかな……多めに注文したので追加料金を支払って宿を出た。幸い町に犠牲者は出ていないようなので皆焦っている様子はないが、いずれは対処しなければならない事だ。


 宿を出ると森の方からは濃密な魔力が漂ってきている。こうも面倒なことが続くのはやめて欲しいのだが、それもまた宿命なのかもしれないな……


 ギルドに都合良く依頼など出ていないので完全に善意で行動することになる。よくやるよと我ながら思うのだが、そんな性分だ。勇者たちなら確実に逃げていただろう。いや、気づかなかったかもしれない、あいつらにそんなことに気づくほどの敏感さは無いな。


 しかし気がついてしまった以上はしょうがない、皆の安全を守るためにはしかたのないことだろう。


 町の出口に向かうと門番に依頼かと聞かれたので『ちょっと所用で』と答えて門をくぐった。そして森の中へ向かう。


『ストップ』


 時折出てくる魔物は時間停止で止めて先を急いだ。殺す理由もほぼ無いので放っておいて森に入る。


 探索魔法を使うと森の奥深くの方に強い魔力を感じた。明らかにそれが原因で有ろう事は明らかだ。そう、俺に面倒をかけてきた元凶だ。よくもまあこんな事をしてくれたものだと思う。誰がやったのかは知らないし知ろうとも思わない、関係の無いことだ。問題は『ソレ』が魔物に影響を与えているということだ。それだけでもなんとかしておくには十分なできごとだ。


 俺はその魔力の反応に向かって歩いて行った。


『ストップ』


 サクリ


『ストップ』


 ザシュッ


 徐々に強い敵が現れてくる。素材として優秀そうなので一角ウサギにせよ、ワイルドボアにせよ、潰しておけばそれなりの金額で売れそうな変異種が出現してきている。


「儲かるのは結構なことだが……不穏な雰囲気だな」


 怪しさを隠しきれていない。これがギャンブルだったら俺は間違いなく降りているだろう、相手の手が強すぎると思えてしまう。この先に何があるのかは分からないが魔物にとって悪い存在ではないのだろう。


 時間停止と駆除を繰り返しながら目的地に着くとそこには……大きくて純度の高い魔石と、ソレを守護するように寝そべっている大蛇が目に入った。


「人間よ……これを破壊しに来たのか……」


 大蛇がそう問いかける。蛇にしては随分と知能があるじゃあないか。


「そうだ……と言いたいところだが違うな、コイツは回収して売却させてもらうぞ」


 これだけの純度と大きさなら結構な金額がつくだろう。これを破壊する手はないな。


「ふむ……どうやら我と戦わねばならぬようだな……後悔するが良い、人の子よ」


「人間を舐めるなっての!」


『ストップ』


 しかし構わず大蛇は動いている。


「時間停止か……ただの人間ではないようだな……しかしその程度の魔法が通じると思うな!」


 俺に向かって飛びかかってきたので『クイック』を使用して回避する。さすがは魔石を守っているだけのことはあって時間魔法には耐性を持っているらしい。


「キシャアア!」


「おっと」


 蛇だからかそれほど高速では動いていない。俺は尻尾めがけてナイフを突き立てた。


 サクリと刃はたったものの、切れたまま蛇は動き続けた。


「我を舐めるな人間! 我はナーガキング! 貴様ら人間では及びもつかない種だぞ!」


「ほーん、結構なことだな」


 俺は高速で移動してナーガキングの身体を切り刻んだ。しかしボロボロになってもまだ動いている。蛇の生命力が強いというのは本当のようだ。


「やるではないか、人間よ。貴様、名はなんだ」


「クロノだ、ただの旅人だよ」


「ふん……望めば騎士にでもなれるだろうに、人間は貴様のようなものが時々現れるものだな……人のくせに論理性というものはないのか」


「ご生憎様とそんな合理性ばかりで動かないのが人間だよ。お前は人間を敵に回したことを後悔するがいいさ」


『クイック』


 俺はクイックを重ねがけしてナーガキングの上にジャンプする。ナイフを下に向けて相手の頭上にダンと落ちる。頭をたたき切られたナーガキングはようやく絶命した。


「ふぅ……なかなか面倒な敵だったな……しかしそれでも……人間の勝ちだ」


 俺は大蛇の身体に時間停止をかけた。死んでいるので魔力の耐性は消えている。時間を止めてストレージに放り込んでおしまいだ。


 さて……邪魔者も消えたし、魔石をいただくとするかな。


 ストレージに魔石を放り込むとあたりを包み込んでいた魔素があっという間に薄まって、辺り一面に沸いていた凶暴化した魔物の敵意が消えて、探索魔法への反応も小さいものとなった。


 よし! これでこの町は当分大丈夫だな。帰るとするか。


 帰り道では野生動物とそう変わらない程度に人間を恐れるようになった魔物を無視して帰還することが出来た。時間遡行を使って蛇との戦いはなかったような状態まで装備を綺麗にしておいたので町の門番は大した戦闘があったとも思わなかったのだろう。素通りさせてくれた。


 そして俺はナーガを売る算段を考えながらいつも通り宿に帰っていったのだった。

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