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「森の奥からワイバーンが来た」

「クロノさん、聞きましたか?」


 宿で朝食を食べているとそんな風に声をかけられた。勝手に俺を町の事情通みたいに扱うのはやめてほしいものだ。俺なんかには知らないことの方がよほど多いのだからな。


「何ですか? 俺は知らないことでしょうね」


 給仕さんは俺に耳打ちをしてきた。


「ドラゴン……ですよ……森の奥で見たという人がちらほら居まして……」


「噂でしょう? どうせオオトカゲを見間違えたとかですよ」


 そう言いつつも心の中のざわつきは隠せなかった。この前ヘルホーネットが町の近辺まで進出していたのはそれが原因? ありそうな話だった。しかしそれに関わるとロクなことになりそうにないのでお断りだ。アークドラゴンだったりしたらどうすれば良いのだろう? そういう面倒なことになる可能性がある話からは逃げるのが吉だ。


「まあクロノさんがなんとかしてくれると信じてますけどね」


 嫌な信頼だ……そういう信頼感は必要無い。情にほだされて無秩序に依頼を受けてはろくでもない貧乏くじを引かされるんだ、俺は経験者だから知っている。思い出せば数々の理不尽な依頼が記憶から出てくる……その中には勇者達が安請け合いした者も少なくない、アイツらのお守りをさせられたことを思い出したら苛立ってしまうくらいだ。


「俺はそんなご立派なものじゃないですよ、あんまり期待をしないでくださいね?」


「はい! 無茶は申しませんとも! クロノさんがちょちょいっと倒してくれるのを信じてますよ!」


 それが余計な期待なんだっての……ここで言い合っても千日手のような状態になりそうなのでギルドに行くか。連中が一番事情に詳しいだろう、さすがにギルドでも対応出来ないと言うことはないだろうしな。


「ごちそうさま、ギルドに行ってくる」


「いってらっしゃい、クロノさん!」


 給仕の少女に見送られ、俺は宿を出た。気が重いもののギルドに何か真実があるのだろう、それが何であれ俺は関わりたくないものだと思う。特にドラゴンなどと言う知能のある種と戦うのは気が進まないものだ。出来ればギルドでそこそこの実力者が討伐済みであってくれれば助かるところだ。


 カラン……


 ギルドのドアを開けた途端にアウラさんが俺に飛びついてきた。


「クロノさ~~~~~ん! 助けてくださ~~~い!」


 ああもう、また面倒なことになったのか、向こうから面倒事がやってくる星の下に生まれたのではないだろうか? 俺は自分の生まれを呪いたくもなる。ご丁寧に強敵が俺めがけてやってくることもないだろうに……面倒なこと極まりない。


「落ち着いてください! 何があったんですか?」


 グズるアウラさんを諭してなんとか話を聞こうとする。ちなみにアウラさんは成人済みであり泣きつく様はとても見苦しいので勘弁して欲しい。いい大人が俺に泣きつくのはみっともないだろう、そういうことを考えないのだろうか?


「出たんですよ! ワイバーンが!」


 俺は思ったより大した事態ではなくて安心する。純粋な竜種ではなく亜竜種ならばギルドで対応可能だろう。俺が辺り一面ごと吹き飛ばす必要のあるような相手でもない。このギルドには優秀な面々がいる(願望)だろうし、どうとでもなるだろう。


「アウラさん、ちょっと落ち着いてくださいよ、ワイバーンですよ? エンシェントドラゴンなどではないんですよ? 竜種の中でもトカゲに近い方の魔物ですからこのギルドのメンツなら対応出来ますって!」


「無理ですよぅ! このギルドでワイバーンに対抗出来るのはクロノさんくらいですよ!」


「そんなことはないでしょう、ほら……」


 俺はギルド内を見回す。目があった人が皆俺の視線が向いたときに目をそらしてしまった。このギルドめ……やる気がないな……


「ですのでクロノさんに対応して頂かないと……私たちが大変……その……困るんですよね」


 大いに困っていて欲しい。ワイバーンごときどうとでもなるが、俺ばかりが貧乏くじを引かされるのはどうも納得がいかない。というか不公平だろう、俺ばかり厄介な依頼を押しつけられるのは気に食わない。


「まあまあ……コホン! 当ギルドとしてはワイバーン討伐に金貨千枚を支払うことをお約束しますよ! いかがですか?」


 千枚……せんまい……せん……まい……


 俺は金なんかに……


「受けましょう」


「よかった! クロノさんなら受けてくれると思ってました!」


 はっ! 俺の中の本能がこの依頼を受けておけと発言してしまった。まるで俺が金で釣られるような人間みたいじゃないか、そんな安い旅人ではないぞ!


「ではクロノさん! 森の奥の方にいるようなのでワイバーン討伐お願いしますね?」


「はぁ……分かりましたよ……行ってきます」


 なんであれ受けてしまったものはしょうがない。飛ぶトカゲごときちゃちゃっとぶっ潰してくるとするか。ワイバーンなら重力魔法で飛べないようにできるしな。チョロい相手ではある。


 カランカラン


 ギルドのドアベルを鳴らしてギルドを出る。町の外の森に向けて加速魔法を使って一直線だ。


『クイック』


 ヒュンと音のような速度で移動して森の奥深くの方にたどり着く、そこで魔力波を出して索敵をする。辺り一面に飛ばすと近くに木が倒れている地域があり、そこに大きな魔力反応があった。


 そこに移動するとワイバーンが呑気に昼寝をしていた。この辺には敵はいないと判断したのだろう。残念ながら俺が居るんだよなあ……


『グラビティ』


 時空魔法の重力強化を使用する。身体が重くなったワイバーンは目を覚ますものの地を這うことしか出来ない。網にかかった魚のようなものだ。


「グオオオオオオ……」


「はいはい、お前、面倒くさいんだよ。恨みは無いが死ぬんだな」


 ポイッと頭めがけてナイフを放った。上空で重力魔法の影響を受けたナイフが高速でワイバーンの頭に刺さる。通常のナイフだと追撃が必要だが、重力魔法の補助で刺さったナイフは頭を貫いて地面に刺さった。


「はい、解除っと……」


 もはや聞こえていないワイバーンだったものを収納魔法でストレージに入れてナイフをしまう。やはり打ち直してもらってナイフの切れ味は上がっているような気がするな、良いことだ。


 そうしてさっさとギルドに帰ると屋外査定場にアウラさんを連れ出した。


「く、クロノさん……まさかもう片付けたんですか? ワイバーンですよ?」


「所詮は竜のなり損ないみたいなやつですからね、パパッと息の根を止めてしまいましたよ」


「ではまさかワイバーンをここに出すおつもりで?」


「いけませんか?」


 大きすぎるだろうか? この屋外査定場の半分ほどを使ってしまうからな。


「構わないのですが……買い取れませんよ? 今回は報酬を増額したもので、素材買い取りまでは気にするなってギルマスが言ってまして……」


 まったく、あのギルマスは抜け目ないな……まあワイバーンの素材は他所で売ればいいし、時間停止で腐ることもない。


「じゃあここでは確認だけをお願いします」


 ドスンとワイバーンの死体を査定場に置くと怖々と触って確認し、それが死体であることを認め、無事俺の依頼は完了となった。ギルマスにはもう少し痛い目を見て欲しいなと思えてしょうがない。


 ストンとワイバーンの死体をストレージにしまって俺はアウラさんに手を向けた。


「それでは、報酬を」


「は……はい! ギルドの金庫から出してきますのでギルド内でお待ちください!」


 そういうわけで、俺はギルド内で報酬が支払われるのを待っていたのだが、報酬をくすねようなどと考える奴は一人もおらず、俺を恐怖の目で見るばかりだった。ワイバーン程度にビビるのだから当然ともいえるがな。


「クロノさん、こちら、金貨千枚になります!」


 カウンターの方から声がした。


 大きな麻袋の中身を確かめてストレージに入れた。


「はい、確かに頂きました」


 俺はそう言って帰ろうとしたところでアウラさんの声がかかった。


「あの……ギルマスに代わって言いますけど……ありがとうございます!」


 俺は手をひらひらと振ってギルドを出た。感謝してくれる人も居る、それだけでも少しの救いとなってくれた。

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