「治安維持のための雑魚討伐」
『常設:町周辺の魔物討伐、報酬は歩合制』
変わった依頼が出ているな、歩合制というのは多少問題があるような気もするが、場合によっては青天井で報酬が出ることもある。それより興味を引いたのは町の周辺の治安維持ということだ。町の中の治安維持なら割とよくあるが、町の外まで治安維持を任せるのは珍しい。
珍しい依頼は受けるに限る。案外こういったところに掘り出し物の依頼が眠っているものだ、まあ常設依頼のようだけれど。
何枚か貼ってあるうちの一枚を剥がして受付に持って行く。アウラさんは珍しいものを見る目で俺を見てきた。
「この依頼を受けるんですか? 結構危険ですよ?」
受付の人が依頼を受けるのを拒否しようとするのは珍しいことだが危険は無い。そもそもこの町に歩いて来たのだからこの辺の魔物に勝てるのは確定だ。
「いや、この依頼くらいなら危険は無いですよ?」
アウラさんは首を振って言う。
「それはそうだと思うんですがね、この依頼、報酬が低いんですよ……」
小声で俺にそう伝える。なんだそんなことか。
「歩合制って事は大量に狩ればそれなりの金額になるんでしょう? 数を集める自信くらいはありますよ」
「クロノさんにはもう少し難易度の高い依頼を受けて欲しいんですがね……」
「俺は生活のために依頼を受けますからね、必要も無いのに難易度がやたら高い依頼は受けませんよ」
アウラさんは不満そうだが、一応俺の受注に問題は無いので受注処理を進めていった。その過程でこの町周辺に主に出てくる魔物を教えてもらった。時空魔法に耐性を持つような敵はいないようなので安心して出向くことが出来る。
「それで各種の討伐証拠なんですが……」
俺はそこで話を区切って訊ねた。
「討伐の証拠は死体を収納魔法でまるごと入れておけば問題無いですよね?」
「はぇっ!? 魔物の死体をまるごと!?」
あ、そういえば普通はあんまり大容量のストレージを持っている人は少ないんだっけ? すっかり忘れてたな。
「狼とかもいるので結構な量になると思いますが入るんですか? もちろん全部まるっと持ってきていただければ素材として買い取れますが……」
「よほどデカくないかぎりは入るので問題無いです」
山より大きいドラゴンとかが出てきたらまた別だが、そんなものが出てきたら大騒ぎになって個人に頼ったりしないだろう。町の周囲に出てくる雑魚を倒すくらいどうということはない。
「でしたら買い取りの準備をしてお待ちしていますね、クロノさん、一つだけお願いがありがます」
「なんでしょう?」
「私はクロノさんの実力を知りませんが……死なないでくださいね?」
俺は思いっきり頷いた。
「それはもちろん!」
俺の自信に安心したのかアウラさんは息を吐いて依頼票にギルドの印を押した。
「では頑張ってくださいね! ギルドで応援しておりますので!」
「はい、雑魚の魔物くらいサクサク狩ってきますよ!」
こうしてギルドを出た。町の出口に歩いて行くと『魔物出没危険!』と書かれた看板が立っていた。どうやらこの町の人たちはあまり戦闘能力が高くないらしい。だからギルドにこんな依頼が出るのだろうか?
「さて、行きますかね」
町の周囲に出ると平和極まる牧歌的な平原が出迎えてくれる。所々に一角ウサギがいる程度だ。
『ストップ』
動きを止めてウサギの喉にナイフを突き立てる。時間停止を解除して絶命したのを確認してからストレージに放り込んだ。チョロい依頼だ。
シュルシュルと蛇が寄ってきたので時間停止をして首を落とす。素材としての価値はなさそうだが、討伐報酬は出るだろう。
「グルルルル……」
おや、灰色狼か。『ストップ』、所詮はただの動物だ。軽く動きを止められる。
なかなかの毛並みなので毛皮としての価値も高そうだ、チョロい連中を倒すだけで金になるとはいい話ではないか。報酬が歩合制だとしても大量に倒しておけばそれなりの金額が出るだろう。
ということはさっさと狩って大量に稼ぐのが正解だな。
『クイック』
あらゆるものより高速で移動しサクリサクリと魔物の急所にナイフを突き立てていく。それを端からストレージに入れていき周囲に魔物の気配が無くなったところでギルドへ帰ることにした。その時点でストレージ内には大量の魔物の死体が入っていた。
町に入ると俺に注目が集まった。気がついていなかったがよく見れば俺の服に魔物の返り血が付いていた、あとで時間遡行を使って落としておこう。
ギルドに着くともう夕方であり集められるだけのものを集めたので随分と時間がかかってしまった。
ドアを開けると『クロノさん!』とアウラさんが大声で出迎えてくれた。
「いやー良かったですよ! なかなか帰ってこないので魔物にやられちゃったかと思いましたよ!」
「すいませんね、どうにも獲物が多かったもので狩れるだけ狩ってたらこんな時間になったんです」
「まあ危険がないなら構いませんが……魔物の死体は全て収納魔法の中ですか?」
「ええ、たっぷりあるので良い査定を期待していますよ」
「その自信を見るになかなかたくさんあるようですね、査定場へどうぞ」
俺は案内されるままにギルド奥の査定場に入った。なかなかの広さがあるがここまで広い必要があるのだろうか? ただ単にギルドに金があることを自慢しているだけのような気もする。
「では狩ってきたものを全部出していただけますか?」
「はいよっと」
ドスンとまとめて魔物の死体をストレージから出した。部屋一杯とまでは行かないがなかなかの山になっている。これだけあればなかなかの金になるだろう。
「クロノさん……これ、全部お一人で狩ったんですか?」
「そうですけど何か?」
量こそ多いものの、強い魔物は一匹もいない。まあ加速魔法を使ったのでこの数に驚いたのだろう。
「ええと……しばらく査定にかかるので、エールでも飲みながら待っていていただけますか」
「あ、はい。この量ですもんね」
俺は査定場を出てロビーでエールを一杯注文した。ちびちび飲みながら査定が終わるのを静かに待っていると、奥からつかつかと女の人が一人歩いてきた。
「君がクロノかね? アウラから話は聞いているよ」
「すいません、誰ですか? お会いしたことがありましたっけ?」
「これは失礼、私はギルマスをやっているヴィールだ。アウラから有望な新人が来てくれたと聞いてね、顔を見ておこうと思ったんだ」
ギルマスか……面倒なことにならなければいいのだが。
「素材と討伐数合わせて金貨百三十枚と査定したよ、不満はあるかね?」
「いいえまったく、もらえるものもらったら酒場で飲もうと思ってるのでその袋を渡してもらえますか」
この人はそこそこの大きさの袋を持っている。報酬とみて間違いないだろう。
「ああ、コレが報酬だ」
「確認させてもらいますね」
中に金貨が入っているのを確認したら俺は話を打ち切ってさっさと席を立った。ヴィールさんが『話が……』と言っていたが、面倒事はゴメンなので逃げることにした。
そしてその日はギルド内で多少なりにも有名になったことを後悔したのだった。




