「ハーブも売れちゃうようです」
俺はギルドに納品していいものかと悩んでいる。なんでもいいから欲しいとは言っていたが、さすがにこれを納品するのはマズいような気がするものもある。
そう、ハーブだ。
エルフの連中は健康にいいんですよと言いながら飲んでいたが、身体の健康と引き換えに精神にはストレスがたまっていそうな顔をしていた。要するに『良薬口に苦し』と言うことだ。しかもエルフは長命なので健康に気をつかっているものはろくに居ない。
そういうわけで乾燥して保存が利くようになったハーブをたくさんと、俺の持ったいた幾らかの肉を交換することになった。相手がホクホク顔だったところから察するに、あまり美味しいものではないのだろう。
こんな草が売れるとも思えないが、物資不足のこの村ならあるいは……という気持ちもある。
ものの価値は人それぞれって言うしな、行ってみるか。
俺は一通り身だしなみを整えてギルドへ行った。
「で、これがエルフの使ってたハーブなのかね?」
ギルマスもさすがに訝しんでいる。無理もない、見た感じ、どこからどう見てもただの草だからな。
「さすがに値が付きませんかね?」
ハーブの束をためつすがめつして俺に提案がされた。
「これから試供品を提供するのはどうですかな? 何か分からないものにいきなり金を払えと言っても無理でしょう。今日私が配布しておくので明日販売してみるというのはどうでしょう?」
なるほど、いきなり草を買えというのは無理筋か……よくわからん草を買えなんていわれたら俺だって警戒する。
「分かりました、ところでギルマスがそんな手間をかけていいんですか?」
ギルマスが一人に肩入れすると大抵他から苦情が入る。
「なあに、ギルマスとしてではなく村長としてやりますよ」
ああ、そう言えばいろいろ兼任してるんだったな。俺は村長にエルフからもらったハーブの一部を置いていった。
翌日――
さすがに草は売れないだろうなあ……
人間は草食ではない、エルフでさえもうんざりするような食品が売れる方がおかしい。とはいえ可能性もあるしギルドに行ってみるか。
ハーブを煎じて飲む文化はあるが、やはりみんな酒の方を好んで飲んでいる。お湯を沸かすコストと栓を開けるだけで飲める酒とではスタートラインが違う。
そしてギルドに行くと数人が待ち構えていた。
「クロノさん! その方々がハーブをくれと言われてるんですがギルドに納品していただけませんか?」
ギルマスはすっかり困ったように俺に助けを求めてきた。
「は、はぁ……?」
よく分からないが好評を博したようだ。直売はリスクもあるのでギルドに十束ほど納品しておいた。僅かな量だが保存性を考えると時間停止している亜空間から取り出すのは躊躇われる。
「皆さん! ハーブが納品されましたよ!」
「「「うぉぉ!!」」」
まるで中毒性でもあるんじゃないかというくらいにみんな買っていってくれた。ギルマスにあれが何故売れたのか聞いてみよう。
「何の変哲もないハーブのはずなんですけど……結構人気ですね?」
「ああ、今日来た人たちはみんな健康に問題があってね、エルフの品だと言うことで試しに煎じて飲んだら体が楽になったそうだ。さすがはエルフといったところなのかな」
そう言って今日の売り上げを見るギルマスの顔には喜びの色が浮かんでいた。




