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「コボルト討伐依頼」

『コボルト討伐、報酬金貨一枚』


「クロノさん、お願いできますか?」


 ギルドに入るなり、そう書かれた依頼書と共にミルキさんが俺に頭を下げてきた。はっきり言って報酬が安いので受けたくない。コボルトって言ったって絶対一匹じゃないだろう。そんな依頼を俺に回すのは勘弁してくれ。


「コボルトの討伐くらい出来る人はいくらでもいるでしょう? 俺にそんなもの頼まないでくださいよ」


 ミルキさんは俺の手を取って懇願をする。


「お願いしますよぅ! 依頼者がお金持ちでギルドに結構寄付しているんです!」


「そんな裏事情は知りませんよ! というかそんな買収みたいな事されているんですか?」


「はっ!? すいません、忘れてください!」


 忘れろって言ってもさあ……一度口に出したものを忘れられるわけないじゃん? ギルドが金をもらっているとか俺からすれば心底どうでもいい話だしさあ……普段ならただのケチだなあで済む話が裏金もらってます宣言のせいで面倒なことを破格で押しつけているギルドになっちゃったよ。


「そんな依頼受けるわけないでしょう? どう考えても厄介な依頼じゃないですか! 俺である必要性が微塵も感じられないんですけど?」


「依頼された方がこの前山を吹き飛ばした方にお願いしたいと仰いまして……」


 うぅ……それを言われると弱いな。少々派手にやり過ぎた感じは無いでもない。それを言われたくはないのだが、こんな金額で受けてやる謂れは無いぞ。


「だったらせめて正当な報酬を頂かないと……というかこの依頼本当に相手はコボルトだけなんですか?」


「それはもう間違いないですよ……ちょっと数が多いだけで」


「なんか聞こえましたね……絶対まともな依頼じゃないでしょう?」


「気……気のせいではないでしょうか?」


 苦しい言い訳だ。俺が受ける理由にはならない。


「せめて報酬をもっとくださいよ、安くないですか? だってどうせ面倒な依頼なんでしょう?」


「それはまあ……コボルトが僅かに百匹ほど湧いているだけで……」


「無茶苦茶居るじゃないですか! というかそれ絶対に百匹じゃ済みませんよね?」


 コボルトが一匹だけで居ることはない、一匹見たら五匹いるとは思えといわれている魔物が目測通りの数で済むはずがない。百匹いると言うことは裏にもっとたくさんいるということだ。


 そんな簡単な依頼でないことは確定だ。だったらせめて報酬の値上げを要求するのは当然だろう。


「まあまあ、ギルマスが先ほどのことは口外無用と仰っているので、なにも聞かなかったふりをして受けてもらえませんか?」


「しれっとなかったことに仕様とするのはやめて頂けませんかね? そんな依頼の出し方をしたら本当にコボルト百匹ピタリと倒して帰ってきますよ? 全滅させなきゃマズいんでしょう?」


「そこはまあ適切にお願いしたいなと……」


 都合がよすぎないか? ギルドだってそんな都合の良い依頼の出し方が許されると思っているのだろうか?


「クロノさんが吹き飛ばして更地にしてもいいという依頼なのでさっぱり消し飛ばしてもらえると……簡単なんでしょう?」


「簡単ですけど、アレを安易に使うような力の使い方はしたくないんですよ。自分を安売りするのはどうにも好きではないんでね」


「クロノさんはもっと自分に自信を持つべきですよ! 力を誇示するには存分に暴力を振るうに限るでしょう?」


 焦っているのかミルキさんも無茶を言っている。正気だろうかこの人。力を誇示したいわけではないんだがな。


「ミルキさん……自分でも無茶なことをいっているのは分かっているんでしょう? おとなしくごめんなさいして諦めましょうよ」


 ごめんなさいが正直に出来る人は最後に成功すると思っている。素直な謝罪は大事だろう。


「分かりました!」


「分かってくれましたか!」


 いやあ良かった! 金貨一枚で広域を吹き飛ばすなんてやっていたらギルドの犬と呼ばれてもしょうがないような話だ。平和的に無事依頼を断れるということでセーフだろう。


「ギルドから追加報酬金貨四十九枚出します! 計金貨五十枚でどうですか?」


「どうですかって……そっち方面に反省して欲しいわけではないんですが……そもそもそれだけ払って足が出ないんですか?」


「それは心配の必要はありません!」


「もらっている金額がそれより多いんですね?」


「…………」


 はぁ……ものすごく面倒くさいがギルドが引き受けてしまっている以上しょうがないか。やらないという選択肢もあるのだが多分それなりの地位の人間がスポンサーなのだろう。恩を売っておくのは悪いことではない。


「で、コボルトはどこにいるんですか? 吹き飛ばしてきますよ」


「はい、北の山のゴブリンの巣を再利用しているようです」


 なるほど、この依頼が俺に回ってきた理由が分かった。このクソ面倒な依頼の原因は俺だと言いたいのだろう。要するに自分のしたことの始末は最後まで付けろと言いたいわけだ。


「ゴブリンの巣は綺麗さっぱり吹き飛ばしたはずなんですけど、再利用なんて出来るんですか?」


「穴を掘っている部分を再利用しているようです、上部が全部崩れたのでゴブリンは全滅しましたが地下の穴は残っているようです」


「はぁ……どこまでも俺の不始末ってわけですか……行ってきますね」


「はい! お願いします!」


 そう言って送り出された俺は北の山だったところへと歩いて行った。


 そこに至る手前でもうすでに数匹のコボルトがおり、時間停止を使用して暗殺しておいた。仲間を呼ばれるとばらけるからな、コボルトには最後まで集合していて欲しい。


 山だったところの平地へ行くと念のため隠密スキルを使用して気取られないようにする。


 観察をしたところゴブリンがいた所に穴を掘って、もとからあった地下洞窟を利用しているようだ。よしよし、きちんと集団生活をしてくれているな……


 俺は全てを見渡せる場所に立ち『圧縮』を行った。今度は地下深くまでを対象に全てを消し飛ばすような高圧縮をして『解放』を行う。


 どおおおおおん


 大きな音と共に綺麗さっぱり平地が穴となり消え去った。今度は跡形もなく消し飛ばしたので文句のつけようもないだろう。俺は全てがあっという間に終わったことに気分を良くしてギルドに帰った。


「クロノさん! やっぱり楽勝なんじゃないですか! またまたー! 渋っちゃって! 簡単ならもっとあっさりと受けてくださいよー」


 気軽に言うなあ……コレが広まると面倒なことになりかねないんだぞ……安易に使った俺も悪いんだけどさあ……


「ではこちら報酬になります」


 報酬を渡して俺にミルキさんは耳打ちする。


「ギルドの面目も保たれました……ありがとうございます……」


 どうやらまだまだ面倒な依頼が舞い込んできそうな気配は消えないのだった。

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