「試験体に出会った」
重苦しいドアを開けると中には割れたガラスが散乱していた。その部屋ではまるで爆発でも起きたように荒れ果てていた。
俺は時間遡行するべきか少し悩んだがそこに大きな骨が散乱しており、おそらく今ここで骨になっているものの仕業である可能性が高いので、部屋の時を戻すのは危険そうだと判断した。
部屋の奥の方に一つだけ壊れていないガラス管に人間らしき物が入っている。
ガラス管に柔らかな光が差し込み、見た目については少女らしきものが一枚の布を身体に纏ってういている。
突然、少女が目を開け俺の方へ視線を伸ばす。
「コ・コ・カ・ラ・ダ・シ・テ」
頭の中に直接響くその声は魔族の精神干渉みたいだなと思った、しかし魔族のそれほどには悪意は感じられない。ただ純粋な希望を押しつけられているような気分になる。
コンコンと少女の入っているガラス管を叩いてみる。とてもガラスとは思えないキンキンという金属を叩いたような音がした。
それから部屋を見回すと板状の何かが部屋の中でういていた。
「これで開けられるのか?」
しかし文字を見てもさっぱり読めない。現代の人間の言葉が表示されていないのでどう操作すればいいのかさっぱりだ。
しかし文字こそ読めないものの、この光る板で明らかに目立っている真っ赤なボタンが存在している。
押していいのだろうか? ガラスを破壊できる自信は無いので選択肢はない。
俺はそっと赤く光っている部分に指を乗せた。
板全体が赤く光り警報らしき音が鳴り、しばらく続いてから音が止まり入ったときに閉めたドアが開いた。少女の入っているガラス管はどういう仕組みか分からないが下方向にスライドして内側を満たしていた液体が周囲に流れていった。
「$&”(:%#(ありがと)」
何かを言っているようだが何を言っているのだろう?
少女は唐突に俺に近づいてきて手を握った。なぞの脱力感に襲われて膝をついた。
「ん……言葉……分かった、ありがと」
俺はなんとか立ち上がって問いかける。
「出会ったばかりで精神攻撃はやめてくれないかな?」
「すまない……今の言葉を知らないので情報をもらった」
通りで頭が痛くなったはずだ。言葉を一瞬で覚えようなどと無茶をする……
「で。君は一体誰なんだ?」
「私は……試験体十二番。旧文明の生き残り」
少女は理解のおよばないことを何でもない事かのようにいった。
「旧文明?」
「そう私は地上に人が住めるようになるのを待ってた」
「待ってくれ! 昔から人間はいただろう?」
少女は自分の身の上を淡々と語ってくれた。
「昔地磁気の乱れで地上に宇宙線が降り注いだ。その時地下に人間が逃げたときに私たちを老化しないように特殊カプセルに入れた。あなたが開けたのがそれ」
十二番の会話はほとんど分からなかったが、この子が遙か昔からあそこに閉じ込められていることくらいは分かった。
「それで……君はこれからどうするんだ?」
「大丈夫、さっきのスキャンで冒険者という住所不定でもつける職があると知った、私はそれになる」
どうやら俺の記憶もしっかり盗み取ったようだ。しかしそれだけの時間を寝ていたというのに戦闘などもある職につけるのだろうか?
「その……楽な仕事じゃないぞ?」
俺の言葉を聞いて手を差し出してきた、握手だろうか?
その手を握ると手を締め上げるような力でこちらの手を握ってくる。
「今ので本気の二パーセント」
マジかよ……とんでもない力だったぞ……
「凄いんだな」
「とりあえずここから出ようか」
「分かった……」
こうして俺たちは旧文明の遺跡から出た。日光を愛おしそうに愛でる十二番(仮)。
「じゃあ……私は行く。さよなら……? またね!」
「ああ……またな、ところで一つ聞いていいか?」
「なに?」
「その旧文明と現代のどっちがいいと思う?」
「昔はたくさん知り合いがいた、今はいない。でも……」
「でも?」
「太陽が眩しい、きっとこれを見るために私は長生きしたんだと思う」
それだけ聞いて俺たちは晴れ渡る太陽の下で別れて歩いていったのだった。
 




