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「ドラゴン討伐記念祝賀会」

 俺はシャドウドラゴンが出す影の範囲を全て消し飛ばせる位置に着いた。ここからの大技一発でドラゴンは森ごと消し飛ぶ。素材の方は少しもったいないが危険を冒してまで手に入れるようなものでもないだろう。


『クイック』


 加速してドラゴンの懐に潜り込む。使い捨てのナイフを五本投げるがズプっとシャドウドラゴンの体にナイフが沈んでいった。これは面倒な相手だ。シャドウドラゴンの影がうごめき俺の方へとやってきたのでダッシュで回避する。影に包まれた場所は森の木も腐って影に沈んでいった。


 やはり面倒な能力を持っているな……ちっ、囲まれたか……


 シャドウドラゴンの影に包囲されたので、スキルを使って加速をしながら空間を圧縮して、無理矢理影の包囲網に穴を開ける。


『クイック』


 なんとか回避して距離を取る。遠くに離れてから依頼票を眺める。


『要件:ドラゴンの討伐』


 それを確認してあの実態のあやふやなシャドウドラゴンを叩き潰す手段を決める。あくまで討伐をするだけであって素材の回収は必要無い、言い方は悪いが殺すだけでいいようだ。


『空間圧縮』


 シャドウドラゴンのいたあたりがまとめて黒点に圧縮される。倒すなら普段は解放すると勢いで死ぬのだが明確な実態を持たないシャドウドラゴンという種なら影を残しているとそこから繁殖しかねない。


 収納魔法を使ってストレージ最奥の場所にシャドウドラゴンだったものを放り込む。


『ストップ』


 これで時間停止もしたので、もはやシャドウドラゴンが復帰する心配はない。圧縮した空間そのものに時間停止をしたので、シャドウドラゴン自体の時間停止に対する耐性は無視出来る。


 依頼完了! 余裕だったな。素材を回収出来ないのは少しもったいないが、シャドウドラゴンに実体が無い以上ないものを回収することは出来ない。諦めて報酬だけもらうとするか。正確には討伐ではなく封印だが、もう二度と出てこないということなら討伐と結果的には変わらない。


 町に帰ると門番に吹き飛んだ森の事についていくつか質問をされた。ドラゴンを討伐するのに、多少の犠牲は必要なので魔法でドラゴンごと削り取ったと言う説明で納得された。


 ギルドに向かうことにしたのだが、ガヤガヤと先ほどの魔力の衝撃がここまで伝わったらしく、町の噂が聞こえてきた。


 それを無視してギルドに向かうとユノさんが驚きと共に出迎えてくれた。


「クロノさん! アレをやったのはクロノさんですか?」


「え、ええまあ一応」


「単独でドラゴン討伐とか正気の沙汰ではないんですけど……やっちゃったんですね?」


「ええ、消し飛ばしてしまいました」


 正確には封印なのだが不安がらせることもないだろう。俺の収納魔法は、もし俺が死んだら封印されたまま綺麗さっぱりこの世から消える。だからシャドウドラゴンが出てくるかも、なんて心配をする必要は無いのだ。


「報酬なんですけど……まさか一人でやり遂げるとは思わなかったのでギルマスと相談してきますね」


「ああ、どうぞ。結構な金額を用意していた様子ですし、いくら払えば良いかも決められませんよね」


 ユノさんはギルマスに相談しに奥の方へと駆けていった。俺はエールを注文してテーブルで飲みながら報酬の額を計算してみていた。そしてギルドに集っている全員にエールを一杯奢ってやった。元が取れるのは確定なので問題無い。しかしドワーフが『強めの酒が欲しいのう』と人が奢ってやったエールをしっかりの見つつ文句をつけたのにはイラッとした。


 そもそも、ドラゴン一匹を倒すのに大人数が必要なのだろうか? 優秀な奴数人で片付けてしまった方が安全なのではないか? だったら参加者全員に金貨を配布するより少数に大金を渡してしまった方が良いのではないかと考える。というかシャドウドラゴンと戦うのに新人なんて用意されたら守るために苦労しそうだ。はっきりと身も蓋もなくいえば足手まといは必要無い。戦うならゴブリンやコボルトから地道に強くなっていくべきだ。


 そうこうしているうちにユノさんは戻ってきた。


「お待たせしました、クロノさんお一人での討伐ということで金貨千枚を配給することに決定しました。ご不満だったりします……?」


 怯えるように俺に問いかけるユノさん。俺の答えは決まっている。


「問題無いですよ、ドラゴンくらいなら倒すのは難しくないですからね」


「普通は不可能なんですよねぇ……」


「余裕ですよ、俺は負けませんから」


 俺が無傷で帰ってきたのを安心している様子だが、手練れの者ならドラゴンごときにおくれをとったりはしないはずだ。


「とにかくクロノさんが一人で倒してしまったので報酬はクロノさんのみに支払われます。額が額なので奥の方で支払います」


 それもそうか、こんなところで千枚の金貨を払うのは目立ちすぎる。絡まれてきても撃退することは余裕だが、争いごとが起きないにこしたことはない。


 ギルドの奥の応接室で金貨の支払いは行われた。革袋に千枚、数えるのが面倒なので収納魔法に放り込んで重さを計量して、きっちり支払われていることを確認した。


「確かに、金貨千枚頂きました」


「本当に助かりましたよ……ドラゴンの討伐は人員が集まりませんからねえ……」


 しみじみとそう言うユノさん。それは単純に面倒だからじゃないだろうかと思う。


「それではクロノさん、今後とも当ギルドを贔屓してくださいね?」


「ええ、他に信用出来るところもありませんしね」


 そう言って俺はギルドを出た。この町の報酬は非常に美味しいな。稼げるだけ稼いでおかなければならない。それに……


「シャドウドラゴンの解体もやっておくべきだろうなあ……」


 シャドウドラゴンに実体が無いので殺しきることが出来ないと思う人もいるが、実際は『コア』を破壊すれば形を持ったまま命を奪える。


 俺は宿に帰ってストレージに手を突っ込んでグリグリシャドウドラゴンをえぐったのだった。結果、一応売れるであろう程度に解体はできたのだが、やはりコアの破壊は狙ってやるのが難しく、素材に傷が随分とついてしまったのだった。

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