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「シャドウドラゴンが出た」

『急募! シャドウドラゴン討伐! 参加者全員に金貨百枚!』


「おやおや、クロノさん、その依頼に興味がおありですか?」


「いや別に」


「またまたー……気になってしょうがないって顔をしてますよ」


 どんな顔だよ……と言うか俺は興味無いぞ。


 そんなことは気にせずユノさんは続ける。


「そうです! なんと参加するだけで金貨百枚! これは大盤振る舞いですよ! 何しろ戦わなくても参加するだけでもらえるんですからね!」


「でも戦わされるんでしょう?」


 そんなうまい話があるはずがない。どうせ戦力にならない人員は肉の壁にでもする気だろう。参加費で金貨百枚は多すぎる。


「いいじゃないですか~クロノさんはブルードラゴンを討伐したんでしょう? 今さらもう一匹討伐数が増えても変わりませんって」


「ドラゴンの討伐は面倒くさいんですよ! どう考えても俺が前線に出されるパターンじゃないですか!」


「クロノさんが前線に出れば犠牲が一人もでないかもしれないんですよ! 戦ってくださいよぅ!」


「シャドウドラゴンってそこそこ上位種じゃないですか。普通の人なら無傷で済みませんよ?」


 しかしユノさんも引き下がらない。


「クロノさんなら無傷で済みそうな気がします! だからお願いします! 町の近くに出て大変なんですよ!」


 しょうがない……話くらいは聞いてやるか。


「で、どこに出たんですか? この町に危害がないなら基本放置でいいじゃないですか?」


「鉱山の麓の森に出たんですよ、このままじゃ鉱物の運搬に支障が出ます。今は迂回ルートを使ってますけど距離が倍なんですよ」


 また面倒なところに出てくれたもんだな……厄介ごとの方からこっちにやってくる。俺の前世は随分とカルマを積んだらしいな。


「分かりましたよ……受けます。まあ死ぬようなことはないでしょうしね」


「ありがとうございます! ではこちらにサインをお願いします」


 そう言ってさしだしてきたのは『シャドウドラゴン討伐隊志願書』そこにはただの一人も名前が書かれていなかった。


「あの……もしかして俺しか志願してないんですか?」


 露骨にユノさんは狼狽えた。傍目で見ていてもビビっているのでどうやらこれはまさかのようだ。


「まあ、そこそこ強いドラゴンの相手を安全に出来る人材は限られていますから」


 だから一人でやれってか! 無茶振り……でもないあたりがなお質が悪い。シャドウドラゴンとは戦ったことが無いが、時空魔法を使えば消し飛ばすことくらいは出来るだろう。その後向けられる視線が痛いだろうなとは思う。


 俺の表情を見て取ったのかユノさんはフォローを入れてきた。


「大丈夫です! この町には腕利きが多いですからね! 報酬をこれだけ払えばたくさんの人が集まるはずです!」


 その無根拠な自信はどこから来るのだろうか? ドラゴンの討伐なんて国軍を動かすような事態を町だけで何とかしようなんて無茶が過ぎる。ただ……


 軍まで動かしたらたくさん犠牲が出るんだろうな……


 そう、俺一人で戦えば犠牲者はほぼゼロだろう。助けられる者を見捨てるのも気が引ける。それとドラゴン一匹ごときに逃げ回った男という烙印を押されるのはあまり気分の良いものではない。


「ドラゴンの位置は分かってるんですか?」


「ええ、鉱山の麓、樹海の真ん中ですね」


「じゃあちょっと倒してきますね。あ、そうそう! ドラゴンのいる森の木には、被害無しとはいきませんが、構いませんか?」


「鉱山に被害が出ないなら森の方はどうでもいいですけど……え! まさか一人で行く気ですか!?」


「この前トカゲを倒したじゃないですか、アレの大きい版だと思えば大した相手じゃないでしょう?」


「いやいや、トカゲとドラゴンはどう考えても違いますって!」


「そうですかね? 俺からすれば大きなトカゲだと思いますけど」


 ユノさんは俺の言葉に自信が籠もっていることを感じたのか止めることはやめたが質問をいくつかしてきた。


「クロノさん、ドラゴンを倒したとき余裕で勝てましたか?」


「ええ、もちろん。まあブルードラゴンなんて鱗も皮膚も柔らかい種だから自慢にもなりませんがね」


「そうですか……一つだけ約束してください。『死なないでくださいね?』」


 俺は頷いて返事をした。


「もちろん、ドラゴン一匹相手にしたくらいで死んだら命がいくつあっても足りませんよ」


「ではこちらが地図になります、ドラゴンの生息域は……」


「大体でいいですよ、まとめて消し飛ばすつもりですから」


「ふぇ!? へ!? まとめてってどういう意味……」


「ですから、大体の場所が分かったら辺り一帯をドラゴンごと吹き飛ばすって意味ですよ」


「はぁ……」


 ユノさんはため息を一つついた。まるで呆然としているようだ。


「ドラゴンがいるのはこの辺ですね、町に攻め込んできたことはないですし、ここから出た様子はないですね。もっとも、この領域に入ったら全力で排除しようとしてきますがね……」


「なるほど、それだけ分かれば十分です」


 俺は地図を受け取り町の出口に向かった。相変わらず道のわかりにくい町だったが、出口への道は比較的わかりやすく出来ている。町に歓迎されてないんだな……


 この心の狭い町を救う理由があるのか疑問には思うのだが、通りがかった以上助ける理由には十分だろう。出口で門番のドワーフにギルドからもらった地図を見せる。


 腕利きであろう門番もさすがに単独でドラゴンと戦おうとしている俺には、引き留めの言葉をかけてきた。


「おいおい! ドラゴンと一人で戦おうってのかい?」


「大丈夫ですよ、ここからならドラゴンが消し飛ぶ様を特等席で眺められますよ」


「本当かよ……? 言っておくがお前さんが死んでも、この町は一切保証はしないからな?」


 俺はサラッと答えた。旅人なら死ぬのは当然のことだ。むしろ生きている方が運がいいと言える。だからこそ旅人や冒険者で新人以外の生きているやつはそれなりの腕利きだ。


「そんなの旅人をやっていれば当たり前のことですよ」


「なら構わんが……一応言っておくがそれはそれとして、出来るだけ死ぬなよ?」


 俺は深く頷いてドラゴンの出現地帯へと向けてダッシュをした。ドラゴンがいるせいだろうか、小物の魔物は一切存在せず、森は静謐な空気で満たされていた。


 俺は遠くに見える真っ黒な地帯、シャドウドラゴンがいるであろう地区を、時空魔法の範囲に収められる位置まで、素早く駆けていったのだった。

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