「鉱山内にマインリザードが出た」
『急募! 鉱山内に出たマインリザードの討伐! 報酬は金貨十枚と成果により追加』
「大変みたいですね、ユノさん」
俺は受付をしているユノさんに他人事として話しかける。
「クロノさん! 受注してください! ドラゴンを倒せるならこのくらい余裕でしょう?」
悲痛な叫びだった。俺としてはトカゲの討伐なんぞやる気が起きるものではないのだが……
「えー……絶対厄介系の依頼じゃないですか、あとマインリザードくらいなら採掘者の皆さんで勝てる相手じゃないんですか?」
「マイナーの皆様には採掘以外のことは契約外だと言われまして……」
「案外ドライなんですね」
ユノさんはイラつきをあらわにして文句を延々とたれていた。そこは重要ではないだろう。
「そこでギルドに依頼を出そうということになりましてね」
やはりよそで断られた外れの依頼か……断るのは自由だが、この町での立場が悪くなったりしないだろうか? 周囲を見渡すとユノさんに目を合わせる人がいなかったので、おそらくこの依頼をお断りした連中なのだろう。だとすれば俺一人が断ったところで何の問題も無さそうだが……
「受けますよ」
「本当ですか!」
花が咲いたような顔をするユノさん。この町にも事情はあるのだろうし、トカゲの討伐くらい断る必要も無いだろう。生きるか死ぬかの勝負になればもちろん俺も断るが、今回はそうではない、余裕を持ってこなせる依頼なら受けても構わないだろう。報酬ははした金だが……
「ではここにサインを……場所は町の北部坑道です。マインリザードは多めにいるので気をつけてくださいね?」
「はい、多分負けないから大丈夫ですよ」
「そこは絶対と保証して欲しいものですね……」
出来ない約束はしない主義だ。鉱山ともなればドラゴンが住み着いている可能性もある。あらゆる可能性を考慮しておかなければならない。その上鉱山ならまとめて吹き飛ばすという大技が使えないからな。
「受注は完了です。応援が来たら即送りますので無理はなさらないでくださいね」
不安そうにいうユノさんだが、俺もトカゲごときに負けるつもりは無い。心配は要らないのだが援軍を呼ぼうと諦めない姿勢は評価出来る。
「気にしないでください、トカゲごとき余裕で屠ってきますよ」
「では、お願いします!」
こうして俺は鉱山に向かうことになった。おそらく一匹や二匹ではない数がいるのだろう、そうでもなければギルドに依頼など来ることはない。ギルドに来る依頼なんてそんなものだ。
しかし鉱山がある町って重税を課されそうな気がするがそのへんどうなんだろうか? 町の人の問題ではあるのだがなんとなくそんなことを考えた。
各地に貼り出してある地図から坑道の入り口を探してようやくたどり着いた。鉱山に一般人は用が無いにしても、わかりにくい道になっていた。ドワーフたちに住みよい町とはこういう町のことをいうのだろうか?
入り口に立っている集団に俺は声をかけた。
「ギルドから依頼を受けてきたものなのですが……」
鉱山で働いているのであろう人は大いに歓迎してくれた。
「おお! 依頼を受けてくれた方か! 助かった」
「マインリザードの討伐でいいんですよね? 他のことはしませんよ、何かあるならあらかじめ言っておいてくださいね?」
時々大物を『ついでに』狩ってもらうために雑魚を見せ球にして依頼を出す人がいる。そういったものはご勘弁願いたいものだからな。
「ああ、あの鉱山トカゲだけだ」
「ならよし! ちゃちゃっと片付けてくることにするよ」
「これが鉱山の地図だ。頼んだぞ」
「任せておけ」
そう言って俺は坑道の中に入った。早速マインリザードが一匹出てきた。
『ストップ』
分かりきっていたことだが、耐性など持っておらず動きが止まったので首筋にナイフを突き立てて終わりだ。
幸いこの坑道は採掘がまだそれほど進んでおらず、それほど広くないのが救いだ。
『ストップ』
『ストップ』
次から次へと湧いてくるマインリザードを止めて息の根を断ってストレージに放り込んでいた。鉱山でも幸い魔石が通路を明るく照らしているので迷うようなこともない。結構至れり尽くせりの依頼だな。
ザクザクマインリザードを狩り尽くし、あっという間に依頼は達成となった。念のため索敵魔法を使ってみたが、反応がないので根絶やし完了だ。
鉱山を出ると坑夫達が一斉に俺に質問してきた。
「トカゲの討伐はもう終わったのか?」
「もう危険は無いのか?」
「きちんと根絶やしにしてくれたか?」
俺は坑道の入り口を指さした。
「見てきてくれていいぞ、ちゃんと全滅させてきた」
訝しんでいる様子だったが、軽装の戦闘用装備をしてから、依頼通り討伐されているのか確認しに入っていった。いろいろと見て回ることもあるだろう、のんびり待つかと思っていたらドワーフの少女……いや、少女では無いのだろうが……戦闘装備を調えてこちらに向かってきた。
「クロノさんですか?」
「ああ、そうだ」
「私は依頼のお手伝いに来たノルといいます! これから討伐ですか?」
あー……もう終わっちゃったのに今さら来たのか……
「もう終わってますよ、討伐は終了です」
「ふぇ!?」
俺は証拠の死体をストレージからドスンと落とした。大量のトカゲを見て困惑している様子だが、自分の出る幕ではないことは理解したのだろう。ため息をついていた。
「クロノさんは実力者だと聞きましたが……まさかこれほどとは……」
「いやいや、トカゲ退治くらい誰でも出来るでしょう?」
「いえ、普通はできないと思いますが……とにかく依頼は完了ですね?」
「ああ、そろそろ確認にいった連中も帰ってくるだろ」
そう言ったところで調査隊が帰還してきた。
「すごいな、本当に安全になってる」
リーダーらしき人がそう言うのでノルも納得したらしく、俺たちは二人でギルドに帰った。
「ユノさん、討伐終わりました」
「終わってました」
ユノさんは俺の方を見てきた。
「早かったですね、ノルさんは戦力になったでしょう? ウチの自慢の傭兵ですよ」
ノルさんは気まずそうに言った。
「いえ、私が着いたときにはクロノさんが全滅させてました。マインリザードの素材買い取りをしてあげてください」
「え……?」
「そういうことなので素材を買い取ってもらえますか」
「アッハイ」
買い取り場に行くとマインリザードの死体をまとめて出した。殺し方は一緒なので一匹ずつ査定をするより一山いくらで計った方が良いだろう。
「綺麗に〆てますね……これは追加報酬ですね」
そうして俺は依頼書に書いてあった量の倍以上の報酬をもらって酒場を飲み歩いた。翌日起きたときには、依頼書通りの報酬しか残っていなかったので飲み過ぎたようだ。
やり過ぎたかなと今さらになって後悔の心が浮かんできたものの、全てはもう手遅れだった。




