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「合法なポーション、違法なポーション」

「クロノさん! お願いがあります!」


 場所はギルド、シェーンさんは切羽詰まった顔で俺に話を持ち出した。


「なんですか? どうせまた面倒な依頼なんでしょう?」


「いえ、今回は依頼ではないのですが……」


「依頼ではない? じゃあギルドに一体何をやれと言うんですか?」


「『治安維持』です」


「治安維持?」


 俺はマヌケな声を上げてしまった。治安維持なんて村の仕事であってギルドに任せるようなことではないだろう。何しろギルドなんて有象無象をかき集めた集団なのだから、そんな連中に治安維持を頼むなんてあてにならないにもほどがあるだろう。


「最近副作用のあるポーションが出回っていまして……売人達の取り締まりをお願い出来ないかということです」


「自分たちでやらないんですか?」


 シェーンさんは沈鬱そうに言う。


「恥ずかしい話ですが、自警団が同胞に剣を向けるなんていやだと言い出しましてね……関係ない人に任せてくれと責任を放り投げてしまったんです」


「裏事情の提供どうも、それにしたって副作用のあるポーションなんてあるんですか?」


「ええ、ポーションとして効くことは効くんですが、治療が終わってもポーションを欲しがる例が続いていまして……」


 ああ、あれか。過剰に回復してその快感で依存を構築するものがあると聞いたことがある。しかし作るのは結構手間だと聞いていたので、まさかそんなものを使う暇人がいるとは思っていなかった。


「その手のポーションに心当たりはありますが……町に流れるほどヤバいものなんですか?」


 それについて書いてあった書籍には好事家が自分のためにつくって、自分が破滅するのを百も承知でそれに溺れていく者だと書いてあった。人に分け与えるにはもったいないほどの手間がかかるので危険性は無いだろうとも書いてあったのだが……


「まだ体に何か異常が出たというわけではないのですが……いかんせんポーション欲しさに親の財布に手をつけるような子供が出てきていまして、噂が流れないように抑えてはいるんですがいつまでそれが出来るか……」


 シェーンさんの沈痛な言葉に俺はその依頼を受けることにした。こんな依頼だってこなせばギルドの名声が上がるだろう。多少は役に立てるなら悪い事じゃない。


「分かりました、その闇ポーション、根絶して見せますよ!」


「ありがとうございます! 製造場は割れているのであとはそこに突っ込むだけなのですが……ウチの自警団はあてにならないのでクロノさんが頼みになります」


 やれやれ、自警団ももう少し町の治安を守っているという自覚を持ってほしいものだ。身内が可愛いという気持ちは大いに分かるが時としてその甘さは命取りになるぞ。


「こちら、密造所への地図になります。おねがいしますね」


「ええ、わかりました」


 そう言ってギルドを出る。地図に書かれているのは町の中でも貧しい地区の端の方だ。この村の人道主義者どもが出来なかった後始末を押しつけられたわけだ。まったくいい迷惑である。


『サイレンス』


 音を断つ魔法を使う。雑多な地区なのでそこまでする必要があるのかどうかは疑問だが念には念を入れておく。


 村の中の実質スラムに近い地区にたどり着いた。スラムと言っても路上生活者がいるような地域と言うより貧乏人が集まった低所得者の集合している地域という感じだ。


 俺は一般的な旅人の格好をしているのでさほど怪しまれることもない。旅人なのでどこに居ても目立たないものだ。


 渡された地図によるとここをまっすぐ行ったところにあるということになっている。


 隠す様子もなく布で覆われたテントに簡易な煙突がついている。お粗末極まる密造所だろう。というかこんなに堂々としているなら密造ですらなく、ただ単に戦力が足りないから俺に頼ったのでは無いだろうか? その証拠に密造所の入り口には豪傑を地で行くような男が二人鈍器や剣を持って守っている。ただ単に攻め込む戦力が無かっただけのような気がする。


 さて、殴り込んでもいいのだが怪我人は少ない方が良い。村人が依頼をした以上村人を傷つけるというのは悪印象だろう。犯罪者同然の相手でも怪我人は少ないにこしたことはない。


『ストップ』


 村をまるごと時間停止させた。普段はここまで広域に使用しないのだが、事が事だけに村全体の問題であり、ここだけ停止させるとあまりにも目立ってしまう。


 全員の動きが完全に止まり、耐性を持つほどの実力者がいないのを確認してからポーションの密造所へと割り込んだ。中身はお粗末なもので、低級ポーションに依存性を持つ植物の汁を混ぜ込んで加熱し溶かし込んでいるだけの簡素なものだった。


 ポーションと混ぜても従来通りの効き目を発起する素材を選んだところは手が込んでいるが、この製造方法はお粗末なものだ。


 俺は密造品に『オールド』をかけて依存性を持つ成分を揮発させた。これでここにあるのは普通のポーションだ。そして違法な植物はストレージに回収してギルドへ報告するだけだ。


 密造所を出て時間を動かした。もうあそこで違法な薬物を作ることは不可能だ。精々健全なポーションを売るのに鞍替えをして欲しいものだな。


 そしてギルドにつくと、報告をした。


「……と、そういうわけで違法な品は回収したし、もうあそこには合法な品しか置いてない。これ以上危険物が流れることはないから安心して欲しい」


 経緯を説明するとシェーンさんはホッと一息ついた。


「助かりました、血が多少は流れるのは覚悟していたんですがね……お話によると無傷だそうですね。上手くやっていただいてありがとうございます」


「とりあえず安心していいですよ。もう危険なものは無いですからね。あとは連中が合法な商売に切り替えるか新しいヤバい物を探すかは分かりませんがね」


「なんにせよ今回のことはどうにかなったようで助かります。ああ、違法な植物はこちらで引き取りますね」


「引き取っても構いませんけど……俺の魔力で綺麗さっぱり燃やしてもいいですよ? 処分が大変でしょう?」


「いいんですか? 別料金は……」


「これはサービスの中に含めますよ。そちらさえ良ければですがね」


「では処分場でお願いします」


 俺はいつもの検分場に案内される。ここなら石造りだから燃え広がる心配は無い。


 抽出された液体と、原木を全て取りだして部屋の中央に置く。


『コールドウォール』


「あの……何故冷却魔法を?」


「こんなところで冷却もせずに燃やしたら建物が綺麗さっぱり燃えますよ?」


「あっはい」


『フレアスフィア』


 火球が部屋の中央に発生して植物たちを飲み込んでいく。煙さえも発生させずに燃やし尽くしていき、あとには何一つ残らなかった。


「こんなところですね、シェーンさん、問題無いですか?」


「はい! アフターケアまでありがとうございます!」


 そして俺は大したことのない金額であるが報酬をもらってギルドを出た。そこで憲兵らしき格好をしている男達に囲まれた。面倒だな……何かやっただろうか?


 心当たりが無いわけではないので困ったところだ。


 そして憲兵のリーダーが俺に対して頭を下げた。


「今回の件、血を流さずに済んだこと、本当に感謝する!」


 そう言って他の全員も頭を下げた。


「え? ああ、この依頼ですか? 気にしなくていいですよ、俺はやることをやっただけですからね」


「それでもありがとう! 感謝していることだけはどうか覚えておいて欲しい」


「ええ、たしかにみなさんの感謝は覚えました。だから頭を上げてください。俺はこういうことをやる覚悟で旅人をしてるんですからね、当たり前のことをしただけです」


「ありがとう……ありがとう!」


 俺はリーダーと握手をして別れた。誰かに感謝されるのも悪くはないものだなと思った。

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