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「さっそくガルーダ戦について語るリーファ」

 俺はいい加減アイツに配慮するのもうんざりしてきた。何故アイツに俺が遠慮しなければならないのか? そんなことに正当な理由はただの一つたりとも見当たらない、あとからきたものが先住者に配慮するのは当然だろう。


 というわけで俺はいつもの酒場に来ていた。当然の如く語っているリーファがいることは気にしないことにした。俺はマスターに一本の瓶を頼んでいつも通り飲むことにした。何故かチラチラと視線を感じる気がするのは気のせいに違いない。決してリーファが俺にチラチラ視線を向けていることなどないはずだ。俺とアイツにそんな深い関係は無いのだからアイコンタクトなどが飛んでくるわけがない。


 ウイスキーを僅かに口に含むと焼けるような刺激が広がる。麦の芳醇な香りと苦味、そこに水を流して洗い流すと香りがさらに芳醇に溢れる。やはりこの村の名物だけあって味に自信はあるようだ。毎日一本くらいを飲んでいるから、いくら小瓶といってもそれなりに酔ってしまう。おそらく一本買って数日にわたって飲む酒なのだろうが、俺は一本開けたら明日のことなど保証できないのだし、その日のうちに飲んでしまうことにしている。一本買って少し飲んだあとに魔王と戦って死んだら笑えない後悔を抱えたまま死ぬことになる。俺は心残りというものを出来る限り日をまたいで持たないようにしている。


「と……まあそこで襲われそうになっている人に……」


 リーファがまた何か自分勝手な話をしているようだ。好きにすればいいし、その結果が何をもたらそうと本人の責任以上の事ではない。ただその日の話には最近聞いた名前が出てきたのでついつい耳がそちらを向いてしまった。


「『ガルーダです!』といったところでパーティの皆さんの視界外から襲い来る大鳥に気をつけろというのは無理な話です。そこで私は一計を案じて狙われている人の頭上に向けて勢いよく魔法を放ったわけですね! そこは所詮鳥頭、自分が狙っているものが見抜かれているなどとはつゆほども知らないわけです、そこに私の魔法が直撃したので急降下していた勢いも相まって地面に叩きつけられて息の根を止めることが出来たわけですね!」


「おお!」


「さすがだ!」


 どこかで最近似たようなことがあったことについては黙っていよう……


「そしてガルーダを倒したパーティとして有名になってしまったわけですが、正直そんな名声は求めていなかったんですよね。私は味方を助けるという当然の行為をしただけであって、決してガルーダキラーとかいう称号は必要無いわけです。しかしその村では未だに私を言い伝えとして伝えているとか……まったく、頭の固い村でしたね」


 僅かに以前には上から墜落してきたガルーダにビビりまくっていたやつとは思えない話の作り方にコイツはやはり吟遊詩人が似合うなと思った。王様を称える歌を作っているだけで一生食っていけそうな気がする。何故旅をしているのかが分からないくらいだ。


「あそこでちびちび飲んでいる人にも聞かせてあげましょう!」


 そう言って俺の方に歩いてきた。明らかに面倒事に巻き込む人間の顔をしていたので関わりたくないの一言だった。


「クロノ……黙っていてくれますよね?」


 俺にそう耳打ちするので、俺は知らないふりをすることにした。


「何の事かな? 俺とお前のあいだに共通の話題なんて無いだろう?」


 そう言うとリーファは唇をめくって笑った。


「なら良いです! ワタシの話に酔いしれてくださいね!」


 そう言って元の輪に戻っていくリーファを眺めながら、俺はウイスキーでかなり酔ってきていることを実感した。そろそろ平衡感覚が怪しくなってくるかもしれない。それもまた酒の一興ではあるが、あまりみっともない姿をさらす気にはなれない。かといって魔法で飲酒を無かったことにする気にはならなかった。時間加速を使えば身体に入った酒はあっという間に抜けていくが、そんなことをするなど酒に対して失礼というもの。俺はこの酩酊感さえも楽しむ酒飲みなのだ。


「ガルーダはそれから数回狩りましたが、やはり初めての時が一番印象に残っていますね。空からの急降下、そんな攻撃の方法があるなんて知らない人が多いんですよ。私の勘に引っかかったのが運の尽きではあるんですがね」


「ガルーダは落ちてくるだけで死んだの?」


「いえ、虫の息だったガルーダに仲間がトドメを刺しました。だから正確に言うとワタシの討伐ではないわけですが、高空を飛ぶ鳥を落として瀕死にしたのだから私が倒したような物といっても良いでしょう」


「そうだな」


「ちげえねえ」


 話は一番盛り上がるところに入りつつあるようだ。盛り上がるところがほぼ全て盛った話で出来ているというのはなんという皮肉だろうか。もっとも、アイツの話に盛っていないところがほとんど無いのでそうなるのは当然と言っても良いのではあるが……


「そうして私たちパーティは村を襲っていた怪鳥を一匹倒したわけですね。皆さん感謝してくださいましたが私は当然のことをしたまでですね」


「何か討伐した戦利品とかってないのか?」


 そう問いかけられ顔を少し青くするリーファ。しかし何事もなかったようにしれっとした顔色に戻る。


「それが……証拠というか素材になるような品は全てガルーダに襲われていた村に寄付してしまったんですよね。時々行方不明になる子供や家畜がいるということで、ガルーダの被害を少しでも回復できるように素材は全て寄付しようとパーティ皆で決めてしまいました」


「なんて高潔な……」


「冒険者の鑑だな」


 いいように言われて調子に乗っているようだ。しまいにはガルーダの群れ相手にパーティで立ち向かった話などを捏造していた。そのうち嘘がばれるのじゃないかとも思ったのだが、この村の名物であるウイスキーで皆良い感じに酔い潰れかけており、明日になって昨日の話をどこまで正確に思い出すことが出来るか怪しい連中で占められていることを確認して、その辺も込みでの大口なのだろうなと思わされた。嘘をつくのにも才能という物がある。彼女は確かに俺にそれを教えてくれたのだった。


 その日はいつも通り酔い潰れて宿に帰ることになったのだが、俺の記憶が確かならば、酒場を出るときに肩をリーファに支えられて『黙っていてくれてありがとう』と言われたような気がする。しかしそれも俺の意識の混濁と、発言者が大口を叩くのに定評のあるリーファなのでどこまで信用できるかは不明である。

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