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「手負いのドラゴンと交流した」

『ドラゴンの駆除、報酬『金貨百枚』』


「おや、クロノさん、その依頼に興味がおありですか? お目が高いですねえ!」


 いつも通りギルドにいるとルネさんに声をかけられた。俺が丁度クエストボードを見ている最中のことだった。


「ドラゴンとは穏やかではないですね?」


 ルネさんはうんざりした声音を隠すことなく面倒くさそうに俺にその依頼内容を話した。


 曰く


『ドラゴンが町の近くの草原に居座っているので追い払って欲しい。討伐までは頼まないがそこに居てもらっては困る』


 とのことだった。


 野良のドラゴン討伐くらいなら簡単なので余裕で受けられる依頼なのだが、妙な点も有る。ドラゴンが暴れていないということだ。無論おとなしい種もいるのだが、そう言った種族は人里に降りてくることはほとんど無い。見かけたら話題になること間違い無しのレアなドラゴンになってくる。


 となるとそこにいるドラゴンは一般的な粗野な種族という可能性が高いのだが、それにしては依頼が緊迫していない。凶暴なドラゴンが相手なら家畜や人間が襲われることも普通にあるのでもっと焦った依頼で内容も『討伐』になるはずだ。なんだかこの依頼は奇妙なものになっている。


「目撃談によるとファイアードラゴンですね、襲われることはなかったそうで草原に寝転がっていたそうです。襲われはしないけど怖いので追い払って欲しいそうですよ」


 ファイアードラゴンか……上位種ではないし倒すのは簡単な相手だな。討伐してしまってもいいのではないだろうか?


「この依頼、先客がいたりしますか?」


 俺がそうルネさんに聞くと人の悪そうな笑顔で返事が返ってきた。


「いいえ、クロノさんが一番乗りですよ! よろしければ専属ということにしておきましょうか? 一応仲間を集めて皆で討伐みたいな依頼なんですけど」


「それはいい、是非単独受注にしてください!」


 やったな、金貨百枚ゲットだ。ファイアードラゴンならほぼ負けは無い。タダでもらうようなものだ。


「では受注処理をしました、村の北門から出て割とすぐの所にいるそうなのでお願いしますね!」


「了解!」


 俺は気持ちよくギルドを出た。チョロい依頼が受注できただけで十分な収穫だ。今日は美味い酒が飲めそうだ。


『クイック』


 加速魔法を使って村の北門まで一気に移動する。そこから先は歩いて行こう。幸いドラゴンは移動をしていないそうだし、そもそも自分から移動していなくなっているならそれにこしたことはないのだから加速の必要はゼロだ。


 草の匂いが日光で立ち上ってきている草原を歩いて行く。さすがに町から出てすぐということはなかったが、町が遠くに見える場所まで来ると、町と反対方向へしばらく行ったところが焦げ跡になっており、そこにドラゴンらしき者がいるのが見えた。町からはギリギリ見えない距離を取ったのだろうか? ドラゴンは知恵があるからそのくらいのことはするかも知れない。


 しかし草原を歩いているウチにドラゴンが何故こんなところで転げているのか、何故どこへも行かないのか、何故人間や家畜を襲わないのかが明らかになった。


「ようドラゴンさん! 結構な深手だな?」


 そう、そのドラゴンは傷を負っていた。人間なら確実に死んでいるが、そこはドラゴン自慢の生命力という奴だろう、しっかりと生きており意識もあるようだった。


「人間か……我を殺しに来たのか?」


「いんや、追い払えって言われただけだ」


 ドラゴンはブレスを吐くどころか呼吸も苦しいようでようやく喋っている。


「我はこの草原地帯で治療をしたい、しばし見逃してはくれないだろうか……人間に頼み事をするなどドラゴンらしくないのは分かっている……だが……それでも……」


「傷からして他のドラゴンとやり合ったんだな。まったく無茶をする。それと放置するのは出来ない相談だな、俺の報酬がもらえない」


「そうか……貴様が我を殺すのか」


 気の早いドラゴンだなあ、俺だって悪鬼羅刹の類いじゃないっての。


「さて、ここにあるのは高品質エリクサーなわけだが、コイツがあればほとんどの生き物の回復が出来る。()()()()()()()()()()()()な」


「まさか!? それを我に使うというのか?」


「それは返答次第だなあ……お前さん、回復したらここからきっちり離れてくれるか? 俺の知らない別の場所で何をしようが知ったことじゃあないが、ここで騒ぎを起こされちゃあ困るんだなあ」


「……誓う……我は終生人間を襲わないと神に誓おう」


「よろしい!」


 ポイッと投げたエリクサーがドラゴンにとっては致命傷になるであろう首の傷あたりにぶつかって瓶が割れる。そこから広がっていく液体がドラゴンの生命力と合わさって、深い深い傷を急速に修復していった。


 そして次第に動けるようになったドラゴンは立ち上がって右に左にと歩いてみてから少し飛んでみたようだ。


「人間! 感謝するぞ!」


「そう思うんならさっさとここから離れてくれよー!」


「うむ、この恩は忘れん! いずれまたどこかで!」


「ああ、()()()


 そうして飛び去っていくドラゴンを見送って俺はギルドに戻った。今度は加速魔法を使用して楽をした。


「クロノさん! すごいですね! ドラゴンを追い払ったんですね!」


「まあ楽勝ですよあのくらいはね」


 ドラゴンに攻撃していなかったのは幸いだった。あのドラゴンが人間と禍根を持っていたら話はずっと根深くややこしくなったはずだ。


「では、報酬になります!」


 俺は金貨の入った袋をもらって宿に帰った。確かに金貨百枚の報酬をもらったが、あのドラゴンの治療に使ったエリクサーは金貨五十枚は最低でも値が付くようなものだった。


「まあ……元は取ったか……」


 俺はストレージから安酒を引っ張り出して口に含んでから眠りについた。

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