「エリクサー量産計画!」
俺は宿の部屋に引きこもって錬金にいそしんでいる。理由はもちろん、お分かりですね?
そう、エリクサーが高値で売れるからです!
「つーかこの辺の薬草品質が良すぎるんだよなあ……簡単にエリクサーを生成できる」
現在この前採ってきた薬草を乳鉢ですりつぶしているところだ。雑に切り刻んでもできないことはないのだが、どうせ作るならやはり高品質品を狙いたいというのは人のサガ。
ゴリゴリとすりつぶされた緑色の薬草からエキスが抽出できる。俺はよく潰した薬草を錬金フラスコに入れてそこに生成した水を足し、火にかけた。
蒸留用に氷魔石のストックも用意してある。魔石の方は使い捨てでは無いのでまだまだこき使ってやらなければならない。下から熱を加える炎の魔石でフラスコの中身があっという間に沸騰していく。蒸気がフラスコの上に置かれた魔石で冷やされて液体になって戻っていく。基本的にこの作業の繰り返しで薬草からエリクサーを作ることが出来る。問題は時間がかなりかかることだ。そこで俺の魔法の出番となる。
『オールド』
時間が飛ぶように過ぎていってフラスコ内の液体は綺麗な青色になりつつある。
「そろそろいいかな……」
火から下ろして上流の工程は完了だ。あとは魔石を使って生成するだけだ。
魔力を込めた魔石を触媒に不純物を取り除く。これでエリクサーが一本完成だ。
「いやーこれは高ランクだなー! 高値がつきそうだな!」
気分良く俺は宿を出た。この村のギルドに納品すると買い叩かれるのでこれは別の町で売りつけるためのものだ。おかげで気分良く酒場に繰り出すことが出来る。金は十分に持っているが、やはり支出の方が多いというのは精神的に良くないので儲けることは意識しなければならない。人間は霞を食べて生きていくことなど出来ないのだ。
酒場のドアを開けると『いらっしゃい!』と威勢のいい声が響く。中には酔い潰れたものや、延々と相手に対して愚痴を言っているもの、誰かの陰口を言っているものなど様々だ。
「ウイスキーをもらおうか」
「あんた用に開けている奴でいいかね?」
「ああ、それをロックで一杯くれ」
マスターは氷をグラスに入れ、ウイスキーを注ぐ。強い刺激がここからでも分かるほどに香りが飛んでくる。
「どうぞ」
「どうも」
琥珀色の液体がグラスの中に氷と共に入っている。鼻を近づけてみるとそれだけでもくらりと来そうな酒の香りがつんと鼻をつく。
俺はそれを少しずつ飲んでいった……そう、始めの方は。
「次、エールを」
「はいよ」
エールが一杯出てきた。先ほどのウイスキーをグラス半分飲んだくらいで意識がガタガタになってきた。
ゴクリと一気にエールをあおったのだが、どうやらこの町のエールは酔いやすいらしい。一気飲みをしたせいで頭にガツンときた。まだ酒は二杯しか飲んでいないというのにかなり酔ってしまった。
「俺が買ったウイスキー、ボトルのまま出してくれないか?」
「え……ああ、別にそれは構わんが……」
グラス瓶の中に入った液体を直接注ぎ口から飲む。意識はもはや明後日の方向に飛んでいってしまっている。ただただ、喉が焼けるような液体を僅かな水で割ってのみ続けた。
小瓶だけあって、すぐにウイスキー瓶は空っぽになった。もう一本飲みたくなってしまう。
「マスター、もう一本頼めるか?」
マスターの顔はよく見えなかったが言葉の端々から気をつかっているのが分かった。
「その辺にしておけ。この村のウイスキーは確かに美味しいがな、そんな風にエールみたいな勢いで飲むものじゃないんだよ」
「なんだよ! 支払う金ならちゃんとあるぞ!」
「はいはい、飲み過ぎはやめてくれよ。あんたに出す酒は今日の分終わりだ。飲みたかったらまた酔いが覚めた頃に来い」
どうやら酒を出す気は全く無いようなので俺は渋々宿に帰った。夕食どころではないのでベッドに倒れ込むとそのまま意識がブラックアウトして気絶した。
翌朝起きた俺は頭が割れるようにいたかった。
さて、ゲロが出そうなので即効性のあるものを使うしかないな。
ポーションを一つ取り出し一気に飲んだ。多少は頭痛が軽減され落ち着いたものの、やはりあの酒の量はポーションには荷が重かったらしい。多少楽になった程度で酔いが完全に醒めたとは良いがたい状態だ。
分かっている、分かっているのだ。『コレ』を使えば酒の酔いなど綺麗さっぱり飛んでくれる。しかしながら二日酔いにエリクサーを使うのはどこか抵抗があった。
さすがにエリクサーは……そう思ったところで喉の奥からこみ上げてくるものがあり洗面台に吐き捨てた。
アカンな、さすがにこの状態はきつすぎる。幸い昨日高品質のエリクサーを作ったので、低品質なエリクサーを一本使うしか無さそうだ。
俺はストレージから一瓶のエリクサーを出して栓を開け、中身を一気に飲み込んだ。
ぼんやりとしていた視界はクリアになり、頭が割れるようだった頭痛はすっかり治まり、こみ上げてきていたものは腹の中に戻っていった。
「この村の酒、ヤベーな……」
それが正直な感想だった。強い酒は一気に飲めないものだが冷やしていると簡単に飲みきることが出来る淡泊な味をしていた。あんなものを毎日飲んでいたらそのうち死ぬだろう。
俺はしばらくの間は酒は少しずつ飲もうと決心をしたのだった。




