「みんなのお悩み」
「『若返りサービス』始まりまーす!」
ミルのその言葉で家の玄関が開いた。幸い並んでいた人のモラルは高く行列をきっちり維持している。
「私に人生をやり直させてください!」
初手で重めの相談が入ってきた。目の前にいるのは人間では二十代程度に見える方だ。
「ええっと……何年くらい戻すか聞かないといけないんですが……あなたは何年くらい若返りたいんですか?」
「五百年くらいお願いします!」
マジで!? この人五百歳超えてるの!? いや……不可能ではないけど人間なら数世代変わってるぞ!?
「ご……五百年ですか……記憶が無くなることはご理解されていますか?」
目の前の女性は迷うことなく承諾した。
「はい! もう孫まで独り立ちしてやりたいことを我慢してきたので是非お願いします!」
えぇ……孫までいるの!? しかも独り立ちしてるって結構な歳では……
「クロノ……エルフは時間の流れが緩やかなのでこのくらいの感覚なんです」
隣のミルが耳打ちしてきた、種族間での対立も起こるのはこの辺の理由があるかもしれない。
「では、気持ちが変わらないなら時を戻しますよ?」
「はい! お願いします!」
五百年を何のためらいも無く捨てられる覚悟が軽すぎる!
『リバース』
五百年を戻しているはずなのだが目の前のエルフの見た目はまったく変わらない。長命とは驚くような時間を生きるということらしい。
時間を五百年戻して、あまり見た目の変わらないエルフさんは突然笑顔になって笑いだした。
「人間!? 人間じゃ!? 珍しいのう」
記憶が飛んだので俺がここに居るのが奇妙に見えるらしい。
「はい、これ読んでくださいねー」
ミルが事前に書いてもらっていた「過去の自分への手紙」を渡して読んでもらっている。俺には理解できないが周囲のエルフは沸き立っていた。
「若返るってマジだったんだ!」
「見て! 肌のハリが全然違う!」
俺からすれば違いが分からないのだが、一応時間遡行には成功しているらしい。見た目がほぼ変わっていないのでイマイチ成功感がない。
「クロノ様! 次は私に!」
「私にも是非!」
こうして一人目を見て「若返りサービス」はとんでもない大盛況になった。記憶の混乱をした者もいたがおおむね好評だった。
「私は三百五十年で!」
「俺は二百年!」
「四百年お願いします!」
こうしてエルフの若返りサービスは大盛況で終わった。見た目では分からないが「お兄ちゃん! ありがとね!」と大喜びをしているのを見て戻しすぎたかななどと思ったりもしたがおおむね成功したと言える。料金は前払いだったので取り損ねることはなかった。
驚いたことに数百年を戻しても皆長老の事を知っていた。長老は一体何歳なのだろうか……?
そして里が若返り、俺の懐は潤って祝杯を挙げていた。宣伝してくれた長老とミルとその家族にも多少の収入があったようで、皆で酒を飲んで酔い潰れたのだった。




