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「お使いクエスト」

『荷物の運搬要員募集。重量物の運搬のために多人数を募集』


 そんな依頼票を眺めていた。荷物の運搬とはまたざっくりとした依頼だ。


「クロノさん、今手に取っている依頼を受けてくれませんか? たしかあなたは化け物じみた収納魔法が使えましたよね?」


「そうですね、量にもよりますが大抵のものは入りますよ。でもたいていの人が出来るんじゃないですか?」


 ダフネさんは頭を抑えて呆けた顔をして俺の方を見ている。


「普通はできないんですよねえ……今回の依頼は稀少な鉱石の運搬なので強い人が要るんですよね」


 なんだ、それなら適当に腕利きを選んだ方がいいだろう。わざわざ俺に頼む理由が見当たらない。


「だったら俺を雇うより信用出来る用心棒を雇った方がいいでしょう? 俺みたいに戦闘も収納魔法も極めているわけではない一人に任せるより二人を使った方が安全で安くないですか?」


 俺だって襲われる危険の高い依頼はあまり受けたくない、護衛にはいくらでも向いている人がいそうなものだ。


「その依頼人、この町の商会なんですけどね……クロノさんの話を『凄い人が来た』って言ったら、出来ればその人に頼みたいって言われちゃいましてね」


「あまり人の情報を漏らさないのをお勧めしますがね……俺だったから良かったようなものですよ?」


「分かってます! ただ、その依頼はギルドのお得意様からのものなんですよ……お願い出来ると大変助かるんですが……」


 断ろうかとも思ったが、これを断ったらギルドの立場が無くなるかもしれない。報酬欄に書いているのは金貨三十枚、商会の倉庫から鍛冶師のところへ運ぶだけでその額だ。おいしい依頼ではあるが絶対に条件がつくやつだと思った。


「それで、何か裏条件みたいなものは無いんですか? あとから商品に傷がついたとか言われても困りますよ?」


 ダフネさんは俺が受けようとしているのを見て取り食い気味に語り出した。


「ボーキサイトって言う鉱石なんですけどね、最近鉱山から大量に見つかったんですよ。貴重品なので漏らす事無く運んでくれれば文句は無いそうです。あと鉱石なので割れようが傷つこうが賠償は無しと話がついていますよ」


 悪くない、割とおいしそうな依頼だな。


「どうですクロノさん! 受注したくなったでしょう?」


「そうですね……このくらいの依頼なら受けてもいいですね」


 そういうわけで俺は依頼票を提出して受注が成立した。鉱石のボーキサイトとやらは目を引くものなので受注し次第運搬をしてくれとの事だった。


 ここに至って運搬について来る商人は一人と言われ、始めからほとんど俺の指名依頼だったと知らされた。指名依頼だと追加料金がかかるので条件を追加しまくって俺以外受けられないようなものに依頼を変更したと聞いてあくどい商人どもだと思わされた。


「ではクロノさん、町の鉱石集積場に行ってください、そこで話は聞けるそうです」


「はいはい……受けちゃったものはしゃーないですね。行ってきます」


 少し気まずそうな顔でダフネさんは頷いていた。


 そうして受注してしまったものはしょうがないので鉱物をため込んでいる区域に向かった。


「いやー、お噂はかねがね! あなたなら一人でこれを運べると聞いてあなた以外に頼む事は考えていませんでしたよ!」


 だったら指名依頼にしろと言いたいのだが、初手で依頼者との関係を壊すのはよくない。適当な笑顔を向けながら目的の物について聞く。


「最近安く取り引き出来たので多めに買い取ったのですが、鍛冶師組合にサンプルを提供したところ、扱いやすい金属に精錬できることが分かったんです。そこで全部金属に加工しようと考えたのですが、量が量ですので……」


「なるほど、いったいどのくらいあるんですか?」


「向こうに見える赤みがかった石が全てボーキサイトですね」


 一区画に山盛りの鉱石が積まれていた。あまり多くはないな。


「これがボーキサイトですか……それでどのくらいが貯蔵されているんですか?」


 商人はポカンとしているのだが大丈夫か?


「ええと……これで全部なのですが……」


 は?


「この量を運ぶだけで俺に頼んだんですか? このくらい収納魔法を練習していれば普通に入るでしょう?」


「何を言ってるんですか!? 金属ですよ? この重量物がこれだけの体積であるというのにそんなものを収納魔法に入れられる人はほとんどいませんよ!」


「そうなの?」


 別にどうでもいいが俺なら簡単に入る。


「まあ細かい事ですね、じゃー全部しまっちゃいますね」


 鉱石の山の下にストレージに繋がる穴を開き鉱石は重さによって全部ストレージの中に落ちていった。


「さて、あとはこれを持っていくだけですね」


「……クロノさん、ウチに就職する気は無いですか?」


「無いですね、旅人ですから」


「もったいない……荒稼ぎだって出来るでしょうに……」


 何やらブツブツ言っているのを放置して町の地図から鍛冶師組合の作業場を見る。大した距離はないので問題無くいけるだろう。


「じゃ、いきますよー。ついて来てくださいね」


「は、はい!」


 どちらが金を払う側か分からない態度の自覚はあるが、こんな簡単なのをケチって発注したのはセコいなと思う。


 そして鍛冶師の待っているところまで行ったのだが、貴重品を持っているというのに驚くほど平和にことは進んだ。族の襲撃くらいあるかと思ったのだが、面倒事は一切無かった。


「ボーキサイト納品だな? じゃあこれが代金だ」


「お買い上げありがとうございます。鍛冶師の皆様とは今後ともお世話になりますのでどうぞよろしく」


「ああ、気にすんな。しっかし……よくこの量が収納魔法に入ったな。この量が突然湧いて出たのには驚いたぞ」


「ギルドで優秀な方に依頼をしましたからね」


 商人と鍛冶師が商談を済ませ雑談をしている。どうやら無事納品は終わったようだ。これで俺は成功報告をしてギルドから報酬をもらった。こんな簡単な依頼があっていいのかと俺は最後まで不思議に思っていた。


 ――とある盗賊達


「おい! いつになったら新しい鉱石を運ぶんだよ! お前らが今日だって言うから張り込んでるのに来ねえじゃねえか!」


「おかしいですね、ギルドで今日運ばれるという噂が流れたのですが……」


「お前らは情報収集も真面目に出来ねーのか! 腕っ節だけで盗賊が成り立つ時代じゃねえんだぞ!」


「待ってくださいお頭! 商会の倉庫から出てきています!」


「なんだと……?」


「襲いますかい?」


「バカかお前は! 二人だけじゃねえか! あの人数で鉱石の運搬が出来るわけねえよ! もう少し考えてから言え」


 そうして盗賊達が商会からボーキサイトが消えている事を知ったのは数日後だった。

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