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「旅立ちの前に酒を揃える、もしくはこの町で稼いだ金を多少はこの町で落としていく」

 俺は商店街に来ていた。理由はもちろん買い物だ。そろそろ町を出ようと思っているが、このまま出たらこの町の通貨が大量に別の町へ流出してしまう。多少の物は買い込んでおいて次の町か村で売り払うべきだろう。


 この町は金持ちのようだから多少の貨幣の流出は痛くないのだろうが、やはり大金を持ち出すのは健全な経済とは言えないだろう。


 食料も買っておかないといけないしな。補給もかねて物資を調達しよう。特産品をまとめて買っておけば他所で売れるかもしれないし、この町は先進的な物資が大量にあるので他の町で売る物には困らない。


「行くか……」


 俺はとりあえず換金しやすい酒を買うことにした。禁酒法でもなければたいていのところで売れるありがたい品だ。


 迷うことなく酒屋に向かう。この町では結構色々と売られているのでだいたいの物が揃う。俺は高級そうな瓶を数本手に取って会計をする。五本で金貨五枚というあまり安くはない金額だったが、俺がこの町で飲んだ酒の中で美味しかったもののボトルだ。万人受けするタイプの酒を選んでおいた。店主は冷やしておかないと味が落ちると言っていたので、店を出るなり魔法で冷やして時間停止をかけストレージに放り込んでおく。


 そして店を出ようと思ったのだが、旅のお供に自分でも飲めるように格安の酒を数本追加で買っておいた。こちらは銀貨三枚の安酒だ、自分が酔う分にはこれだけあれば十分足りる。貴族に献上したらブチ切れそうな品ではあるが俺の舌には十分すぎる。


「お買い上げありがとうございます!」


 そこそこ高い酒を買ったのでニコニコの笑顔で俺を送り出してくれた。やはり世の中金だな。


 次にこの町ならではの書店に向かう。書籍は文字が読める人しか買わないが、その分売れたときの稼ぎが大きい、文字が読めるだけでも読めない人より稼げるからな。


 そう思って町中にある書店に入ったのだが……


「なんだこの量の魔道書は……」


 思わず一言こぼれ出してしまうほどの品揃えの良さだった。魔道書、呪術書専門なのだろう、あまり大きくはない店一杯に魔道書が並んでいるのは壮観だった。


「おや、旅人さんかね……」


 店主の魔女のようなおばあさんが出迎えてくれた。


「ウチの本は魔道士の素養がないと意味が無いがのう……お主は魔道士かね……」


 確かに俺は魔道士らしくない格好をしている。信用が無いようなので手のひらを出してそこにろうそくほどの炎を出した。


「分かったよ……お前さんは魔道士だ、だから書店で火を出すような真似はやめてくれ……」


 手を閉じて物色を始めた。まず狙うなら手堅く初球の魔道書だろう。上級品は値段が高いものの万人に売れる品ではない。日常生活の工夫に役立つような魔法の載っている本がよく売れる傾向にある。


「スープの温め方の本と……電撃によるマッサージ法と……あとは美味しいコーヒーの淹れ方かな」


 この辺はどこの町にいっても需要がある。初心者魔道士に丁度いい課題になっている。どれも炎や電撃を日常に役立つように紹介している。多くの人が戦闘に使えるまで魔法に明るくないのでこの辺が売れ筋だ。


「なんじゃい、商人かね、だったらちょっときな」


 店の奥へ手招きする老婆。なんとなく気になるのでついて行ってみると在庫の積まれた箱があった。


「昔失敗してねえ……日用魔法の本を仕入れたんだけどこの町じゃ売れなくってね……買っていかないかね、安くしとくよ」


「いくらですか?」


「箱一個で金貨一枚にしておこうかね……」


 箱の中を見ると状態のいい魔道書が入っている。床に直置きの箱だから状態が悪いのかと思ったが、箱の作りがしっかりしており破損や劣化は少ないようだ。


「いいんですか? 元が取れませんよ?」


 金貨一枚というのはあまりにも安くないだろうか?


「この町じゃ売れないっていったろう……私も勉強代と思って置いておいたんだがね……どうも売れ残りがいつまでも残っているとイライラしてね、買っていってくれるなら頼むよ」


「わかりました、買いましょう」


 金貨一枚を出して渡し、箱の中身をまとめてストレージに入れた。


「なんだ、収納魔法まで持っているのかね、よくウチの本なんて買おうと思ったね。あんたならだいたい使えるだろう」


「ええまあ、そこそこ使えますがね。売るのには丁度いいんですよ。持ち運びが収納魔法でものすごく簡単ですからね」


 俺がまとめて軽くストレージに入れたのを見てばあさんは目を丸くした。


「お前さん、なかなかの使い手じゃのう……ここで売っている本に用なぞ無いじゃろ?」


「俺に必要無くてもお金だして買いたいという人はいますので」


「ふぉっふぉっふぉ……お主なら普通に収納魔法だけでも稼げそうじゃがの……」


「人の欲望に切りはないんですよ」


 そう言って店を出た。魔導書をたくさん買えたのはなかなかの良い買い物だった。


 次に買い物としてこの町の衣服を買っておくことにした。お金のある町では衣料品もお金持ち向けの物が多い、きらびやかな衣装はどんな田舎町であれ欲しがる人は多い。


 高級そうな店に入る。問題はこの手の店はオーダーメイドが多いということだ。ここはアクセサリや手袋、日傘や帽子といった誰でもある程度サイズの融通が利く物を扱っている店だ。ここなら売れないものは無い。


「いらっしゃいませ! 何をお求めでしょうか?」


「そうですね、指輪とネックレス、イヤリングに手袋と帽子の人気な品を一〇個ずつ買います」


「え……」


「いけませんか?」


「いえ! 今すぐ用意します!」


 そうしてずらりと高級そうな装飾品が並んだ。エンチャントのしやすさなどでも宝石の価値は変わるが、ここで売っているのはそういったものとは一切関係の無い見た目だけの宝飾品だ。こういう物にだって実用性とは関係なく需要がある。むしろ平和な地域では付与している魔法が強力ならそれで値段が上がる分不人気になってしまうくらいだ。


 ここでは何も付与されていない物だけを買って必要があれば自分で付与すればいい。その辺が魔導に知識のある人間の強みだ。


「全部まとめて金貨二百枚でいかがでしょう?」


 意外な申し出だ。


「三百は必要かと思ってたんですが、案外安いですね」


「個別に買うならそのくらいになります。まとめて購入いただけるということでお値下げしております」


 なるほど、随分と安くなったものだ。ありがたいとしか言いようがない申し出だ。


「では全部買います」


 収納魔法から金貨を出す。この金額を普通の人が買うとは思っていないと思うのだが、本心は不明にせよ、まとめてストレージから金貨が出てきても店員さんは眉一つ動かさなかった。こういう事にも慣れているようだ。プロだな……


「お買い上げありがとうございました!」


 あの量をストレージにポンと入れても顔色一つ変えないのだから高級店は違う。客を値踏みするようなこともしないようだ。


 とにもかくにも。こうして俺は町を出るために金策の種を手に入れたのだった。


 ギルドにも挨拶しないとなぁ……

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