「芽吹きの里を目指して」
平野をひたすら歩いている。王都から一番近い「芽吹きの里自治区」にはもうしばらく歩く必要がある。自治区を名乗っているだけあって森林の中に領地を持っており、それなりに王都から離れている。
スキルを使用しなければあと数日かかる、俺は速達の配達担当でも無いのでわざわざ時間の圧縮などという無粋な真似はしない。
『ストップ』
近づいてくる敵を足止めして進んでいく。今後の事を考えるならここで殺しておくべきなのかも知れないが、気が進まないので時間停止で足止めして済ませることにしている。
平野を歩いていると気分がよくなってくる、あてどない旅路はいいものだ。おっと……
「スロウ」
足の遅い魔物には停止魔法すら必要無い。遅延効果で十分人間が逃げるには十分だ。
のっそのっそと歩いてくる大亀の魔物を見物しながら収納魔法から干し肉を取りだして噛みしめながら進んでいった。
遠くの方にホーンラビットが見えた、迂回することも出来るが、雑魚一匹で遠回りをするのは俺のプライドに関わるので遠くからストップをかけた。
その方向に歩いていくと、停止したホーンラビットが朱く染まっていることに気が付いた。
近寄ってみるとエルフの少女が角突きをナイフで何度も刺していた。
「何をしてるんだ?」
俺が少女に声をかけると、俺の方を振り向いた。
「えへへ……この悪いウサギを倒してたの!」
「エルフは命を狩らないって聞いてたんだがな……」
自然との調和だので動物の命は取らないといわれているはずなんだが……
「私はお肉が美味しいって思うの……なのに皆おかしいって言うの……」
エルフにもいろいろいると言うことだろうか。
「私はミルって言います! お兄さんは?」
「俺はクロノ、ところでこのウサギなんだが……」
ミルはウサギを自慢げに見せてくる。
「どうです! エルフでもちゃんと戦闘が出来るんです!」
あ~……自信を持っちゃってるなあ……
ミルは自分の手でウサギを狩ったと思っている。変に自信を持たせると危ないしネタバレしておくか。
「そのウサギ、動かなかったろ?」
ミルは首をかしげた。
「そうですね……私のプレッシャーで動けなかったようですね!」
ミルはとことん自信家だった。なすがままに自慢のナイフで逃げることもなく刺され続けたことを疑問に思わなかったらしい。
「動かなかったのは俺のスキル効果だ」
「へ?」
「野生動物が敵を前に何もしないわけがないだろう」
「え!? ええ!?!?」
「そういえば解除してなかったな。『リリース』」
血みどろで立っていたホーンラビットは地面に倒れて絶命した。
「よかったな、戦績にウサギが一匹増えたぞ」
ミルはポカンとしてから大声を上げた。
「ええええええええええええええ!?!?!? 私の実力じゃなかったんですか……」
「残念ながらそうなる」
ミルは頭を抱えていた。
「うぅ……初めて勝ったと思ったのに……」
「ちなみにこの程度の敵なら一撃で倒さないと話にならない、こんなめった刺しじゃなく急所を一撃で倒さないと戦力にならないな」
「ヒギィ! ひどいです! そこまで言わなくてもいいじゃないですか!」
「その甘えがパーティーに危険を招くんだぞ」
「ひどいです……クロノが正論で私を攻撃します……」
だってなあ……
「俺は死ぬのが分かっているような行為は止めるぞ」
俺だって死を覚悟して戦うような真似はして欲しくない。そういう勇気ある行動は勇者くらいがやればいい。その辺の一般人がやるような事じゃない。
「クロノだって戦いはしてきたんでしょう?」
「俺は勝てそうな相手としか戦わん」
勝ち筋の見えない相手とは戦わないのが基本だ。勇者たちに付き合っていたころはそうもいかなかったからな……
「クズいですね」
「それは生き残っているから言える言葉だよ、それに俺は大体の相手なら勝てるしな」
「私……向いてないんでしょうか……」
ここはミルのことを思えばはっきり言ってやるべきだな。
「そうだな、素直に森で平和に暮らすべきだろうな」
ミルは俺の言葉を聞いてから頬をピシャリと叩いて立ち上がった。
「とりあえず村で最強を目指します! 助言ありがとうございます!」
「ああ、出来る範囲で頑張れ」
「じゃあ私は森に帰ります! クロノさん、お達者で!」
「ああ元気でな」
そう言って森の方へ走って行くミルを見て、エルフの里の場所を聞いておけば良かったと気が付いたのだった。




