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7話 タイミングが良い

※侍女リーザの名前がリーヴェスと似ているので、

イルゼに変更しました。

 長い銀髪を緩く結んだ男が、半ばソファーに寝そべるようにして座っていた。身に纏うのはバスローブのみ。誰も見る事がないので、胸元をだらしなく寛げている。


 男は手元の紙を、窓から差し込む月光とランプの明かりで照らした。そして、王族の色である紅色の瞳を細める。


「へぇー、あの何考えてるか分からない兄に愛人、……ね」


 僅かに含みを持った声が、誰に聞かれる事もなく消えていった。





 ーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーー





 入浴を終えたユリアーネは、イルゼに髪を梳いてもらいながら考え込むように口元に手を当てた。


「それにしても……、アマーリエ様があんなにいきなり来るとは思わなかったわ……。ちゃんと愛人としてもてなせたかしら?」


 寝室を整えていたパウラにも聞こえていたようで、元気の良い返事が帰ってくる。


「大丈夫でした!アマーリエ様をあんなに怒らせるの凄いです!」

「それはそれで大丈夫なのかしら……」


 イルゼはユリアーネの髪を整えつつ、首を傾げた。


「急なご訪問にしては、きちんとおもてなしされていたと思います。……それにしても、ユリア様の凄く所作がお綺麗だったのですが、どこで学ばれたのですか?」

「えっ?!……っと……」


 いきなりの質問に思わず素っ頓狂な声を上げたユリアーネだったが、誤魔化すように続けた。


「あ、あの……、城下町のちょっとお高そうなレストランの店員の真似をしたのよ……」

「そうなのですか?」

「そうそう!だから、ちゃんと出来たか不安だったの……」


 キョトンとした顔のイルゼに、内心冷や汗ダラダラ流しながらユリアーネは必死で誤魔化す。

(所作に関しては、叩き込まれてるから出てしまっていたのね……気を付けないと……)


 酒場のウエイトレス時代も、自分は平民として馴染めていたと思っていたが、もしかしたら不審がられてしまっていたかもしれない。


「そういえば、イルゼとパウラは私の所に配属になる前は、誰の所で働いて――」

「アンタが兄上の愛人?」


 ユリアーネの言葉を遮るように、男の声が被った。


「だ、誰?!」


 聞き慣れない声がいきなり寝室に響いたのだ。ユリアーネは夜着の上の羽織りを握り締めて立ち上がる。イルゼはユリアーネを隠すようにして、男との間に立った。


 男は銀髪の長い髪を1つに結び、シャツにズボンという城に似つかわしくない、随分とラフな格好だった。不遜な態度で何故か窓から堂々と入ってくる。

(――待って、この人さっき〝兄上〟って……)


「コルネリウス殿下?!何故こちらに……?!」


 パウラが焦った声と共にイルゼの隣に並ぶ。

(え、この人が第二王子のコルネリウス殿下?!)


 コルネリウスは紅色の瞳を細めながら、イルゼとパウラの後ろに隠れたユリアーネをジロジロと値踏みする。そして、ある程度確認したのか、呆れるように深い息をついた。


「これまた随分と……兄上は貧相な体つきの女が好みなんだなあ」

「貧相」


 あまりにも失礼な物言いに、思いっきり眉間に皺を寄せたユリアーネ。イルゼも黙っていられなかったらしく、口を開いた。


「お言葉ですが、コルネリウス殿下は何故こちらに?夜分遅い時間に窓から女性の部屋に侵入など、あまりにも不作法です」

「固いなあ。まあ、兄上に見せてくれって頼んでも見せてくれなさそうだし?だから、思い立って来ちゃった感じかなあ」


 コルネリウスは肩を竦めて、おどけたようにイルゼに答えた。そして、一歩ユリアーネの方へと踏み出す。


「それじゃあ、改めて。オレはレームリヒト王国第二王子、コルネリウス。アンタの名前は?」

「ユリア……です」


 軽薄な態度で問いかけるコルネリウスに、ユリアーネは警戒心を顕にしながら自己紹介をした。

(リーヴェス様が仰っていた第二王子のコルネリウス様……慎重に接しないと。私の正体の事もあるし……)


 一歩一歩近付いてくるコルネリウスに、ユリアーネは身構えた。イルゼもパウラもだったようで、室内に緊張感が走る。

(でも、この状況は、一体何を考えているのだろう……?!)


 その空気を察してか、コルネリウスは肩を竦めた。


「まあ、そんな警戒するなよ。別に女に困ってる訳じゃない」

「夜這いしてきてその台詞は信用出来ないね」


 掴みどころのない調子のコルネリウスに、タイミング良く現れたリーヴェスは口元に弧を描いていた。


「リーヴェス様?!」


 もう寝るつもりだったのだろう。夜着だけのリーヴェスは、焦りを見せずにユリアーネの元へ行く。


「……これはまた、随分と愛人に入れあげてるようで」


 コルネリウスは兄の様子に僅かに怯んだ。が、それには頓着せずにリーヴェスはゆるりとした笑みを浮かべる。コルネリウスから隠すように、ユリアーネを抱き寄せた。


(ちょ……?!)

 ユリアーネは思わず突っぱねそうになったが、我慢した。一応恋人同士の設定なので。

 リーヴェスは動揺などお構いなしに、彼女の薄茶色の髪の毛に指を絡める。


「……そうだね。お前に見せたくないくらいには」


 ヒュウ、と揶揄うようにコルネリウスは口笛を吹いた。


「お熱いですねえ。ま、兄上の惚気ける貴重な姿が見れたので、今日の所は大人しく帰ります」

「いや、もう来なくていいよ」


 軽く手を挙げて、コルネリウスはバルコニーの手すりに足をかける。来た道をそのまま引き返すつもりなのだろう。それを見たリーヴェスは渋い顔になった。


「あいつは窓から入ってきたのか……。随分と身軽だな」


 小声で複雑そうに呟く。そして、その後にイルゼとパウラに命令した。


「ありがとう。今日はもう下がっていい」


 イルゼとパウラが頭を下げて退出したのを見届けて、ユリアーネは警戒心を解くように息を吐く。


「ありがとうございます、リーヴェス様。助かりました」

「何もされなかったかい?」

「ええ、大丈夫です。いきなり入って来られたのは驚きでしたが……」


 ユリアーネが何もされていない事にリーヴェスは安堵する。


「良かった。まあ、コルネリウスは我が弟ながら奔放な所があってね」


(……奔放?)

 物は言いようである。

 ユリアーネから離れたリーヴェスは、コルネリウスが出ていった窓を少し確かめてから施錠した。


「窓から変なのも入って来るから気を付けてね」

「変……」


(王族なのに不法侵入者みたいな扱い……、いや、不法侵入者だけれど……)

 微妙な面持ちになりながら、ユリアーネは頷いた。


「それで?コルネリウスに何を言われたんだい?」


 ユリアーネにソファーを勧めながら、リーヴェスはテーブルに乗っていたワインボトルを手に取る。大人しくリーヴェスに勧められるがままにソファーに座ったユリアーネは、真剣に答えた。


「リーヴェス様が貧相な体の女が好みだと思われてらっしゃいました」

「……それ以外には?」


 ユリアーネの隣に座ったリーヴェスは、慣れた手つきでコルクを開けた。用意されていたワイングラスに注いでいく。


「えっと……、リーヴェス様に頼んでも見せてくれないだろうから、思い立って来てしまったとお話していました。あとは自己紹介ですね」

「思っていたより中身のない会話していたんだね……」

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