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5話 爆弾をセット

昨日寝落ちしました…。申し訳ない…。

 朝の日差しがカーテンの隙間から差し込む。キングサイズよりも広いベッドの上で、ユリアーネはゆっくりと上体を起こした。ふかふかの布団が気持ち良くて、また二度寝してしまいそうだ。その気持ちを振り払うように、半ばボーッとしながら床に足を付けて立ち上がる。


 しかし、数歩歩いた先で、静かな驚きで閉じかけていた瞳を全開にした。


 ソファーで夜着の胸元が乱れたリーヴェスが、掛け布のみでぐっすりと眠っていた。昨日は綺麗にセットされていた金髪は乱れている。


「え……?」


(なんでこの人、ソファーで寝ているの……?)

 何故こうなっているか全然覚えておらず、驚きのあまり立ち尽くしたユリアーネだったが、とある事に気付いて顔を青ざめさせる。


(まさか……、寝相が凄く悪かった……?!)

 自分では分からない部分である。


 その時、見下ろしたままのリーヴェスが一瞬眉間に皺を寄せ、薄目を開ける。日差しが眩しいのか、険しいままゆっくりと上体を起こした。ソファーの上で片膝を立てる。


「おはよう、ございます……?」

「ああ……、おはよう」


 リーヴェスは寝起きの掠れた声と共に、少し口元を緩めた。やや少しだけ幼いような雰囲気が出る。まだ眠いようだ。


 王太子が迎えた愛人と早速一晩過ごす、という爆弾をセットする為に、リーヴェスはユリアーネの部屋に泊まったのだ。幸いにもベッドは広いので、リーヴェスと距離を開けて就寝した。はずなのだが。


「あの、私って寝相悪かったのでしょうか……?あんなにベッド広いのに占領してしまって……」


 オロオロとするユリアーネ。段々と覚醒しだしたらしいリーヴェスは、目を擦りながら緩慢な動作で立ち上がった。


「……ん?ああ、問題ないよ。ソファーに移動したのは俺の問題だから」

「?それって、どういう……ちょ?!え?!」


 首を傾げたユリアーネに近付いたリーヴェスが、掬い上げるように抱き上げる。ユリアーネは驚きの声を上げたが、「ほらほら、静かに」とリーヴェスに宥められる。


 そのまま数歩先のベッドにユリアーネを乗せ、自身もベッドに乗り上げる。ユリアーネに覆いかぶさったリーヴェスは、落ちてくる自分の髪の毛を掻き上げ、ペロリと舌なめずりをした。


 いきなり押し倒された格好になったユリアーネは、リーヴェスの眼前に両手のひらを向けて止めた。


「待ってください!私は釣り餌では?!」

「そうだよ?」


 ニヤリ、と今までで一番悪い笑みをリーヴェスは浮かべた。

 ユリアーネの額と頬に軽いキスを落とし、ユリアーネの夜着の襟元に手をかける。


「へ?!え?!ちょ、ちょっと……?!」


 襟元を緩めながら首筋をペロリと舐めて、少し強めに吸い付いた。チクリ、と小さな痛みを感じた後、リーヴェスが離れる。そして、先程の箇所を人差し指の腹で撫でた。


「中々綺麗についたね」

「綺麗についた?」

「これがあると俺達が上手くやっているって事だよ」


 復唱したユリアーネに、リーヴェスは目を細めて微笑んだ。そしてベッドから降りる。近くに掛けていたらしい上着を羽織って、赤い顔をしたままベッドに座って固まるユリアーネに声をかけた。


「俺は自室に戻るね。朝から用事はないから、君はゆっくり起き出してくるといいよ」


 最後に軽く手を上げて、リーヴェスは部屋から去っていく。


(え、なんだったのかしら……?)

 首筋を押さえたまま、ユリアーネはそろそろと鏡台へと向かう。そして、そっと鏡を見る。首筋には、綺麗に赤い花が付いていた。


(これって……、コンスタンツェ様がよく付けていたものじゃない?!)

 余談だが、当時、虫刺されだと信じ切っていたのは、ユリアーネを含む未婚の令嬢達だけだった。





 ーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーー





 お茶なんていつぶりだろうか、と思いつつ、ユリアーネは自身で淹れた紅茶に口をつける。

 ゆったりと与えられた自室のソファーでくつろいでいたユリアーネは、扉のノック音で茶器をテーブルに戻した。


「どうぞ」

「失礼致します」


 2人の侍女が連れ立って入ってくる。片方は物静かな雰囲気のユリアーネよりも年上の女性。癖のない黒髪を1つにまとめている。

 もう片方は活発そうな少女。ユリアーネと同じくらいか、ほんの少しだけ年上くらいの年。くせ毛なのか、1つ纏めていてもふわふわと赤毛が飛び出ている。

 見た目は正反対のような2人だった。


「リーヴェス王太子殿下より、ユリア様専属侍女を拝命致しました。イルゼと申します。そして、こちらが」

「パウラと申します!宜しくお願い致します!」


 イルゼの言葉を引き継いだパウラが、勢い良く頭を下げる。


「ユリアです。これからよろしくね」


 ユリアーネは、酒場で働いていた時に使っていた偽名を名乗った。自分の名前に近いので、反応がしやすいのだ。

 簡単な挨拶を終えた所で、イルゼは気まずそうな表情になる。


「早速で申し訳ございませんが、ユリア様にお客様がいらっしゃっております」

「お客様?!」


 ユリアーネは思わず声を上げた。リーヴェスからも何も聞いていない。


「ええ。お客様です。ですが、先触れのお手紙等がなく……完全にいきなりなのです」

「誰かしら……、リーヴェス様とか?」

「いえ……」


 首を傾げたユリアーネにイルゼが答えようとした時、ユリアーネの部屋の扉が派手な音をたてて、大きく開かれた。


「リーヴェス様が愛人を迎えられたと聞いたのだけれど、本当だったのね。知らない女がいるわ」


 銀色の巻き毛。ややつり上がった猫瞳。ドレスは派手で際どい切れ込みが入っており、セクシーな見た目になっている。広げた扇子で口元を隠し、ユリアーネを値踏みするように見下ろした。


(初対面なのに、すごい喧嘩腰なのだけれど?!)

 困惑しつつも、ユリアーネは立ち上がる。ドレスを摘んでお辞儀をした。


「初めまして。私はユリアと申します。突然でしたので、あまりおもてなしも出来ませんが……」


 女性は訝しげに眉をひそめた。

 一瞬、挨拶で不快にさせてしまったか、とユリアーネは思ったが、どうやら違うようだ。自身の名を答えてくれたから。


「アマーリエよ」

「アマーリエ様。宜しくお願い致します」


 名前しか名乗らず、いきなり押し掛けてきて迷惑もいい所である。これが同じ貴族だと無礼に当たるのだが、相手はユリアーネの事を平民の愛人だと思っているのだろう。概ね事実その通りであるし、大体の貴族は平民に対して高圧的で我儘な生き物だ。だから、アマーリエが著しく礼儀を欠いている訳でもない。


 それよりも、だ。


(アマーリエ様……、アマーリエ侯爵令嬢?!)

 ユリアーネは笑顔の下で、つい最近その名を聞いたような気がする、と冷や汗をかいた。主にリーヴェス関連で。


(この人が、リーヴェス様を裏切っているという……、婚約者……?!)

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