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10話 良い人?

タイトルめっちゃスッキリさせました…。

 ヴァイスは無表情のまま、ユリアーネの声に片手を軽く上げた。


「堅苦しくなくても良い。リラックスしていてくれ。その……王城での暮らしはどうだ?リーヴェス兄上には良くしてもらっているのか?」

「は、はい!……良くして頂いております」

「そうか。それは良かった」


 相変わらず無表情のままだったが、ほんの少しだけヴァイスは考えるように紅色の瞳を伏せた。表情が動かないからか、イマイチ感情が伝わっては来ない。


(リーヴェス様はずっとニコニコしていて何考えているか分からないし、コルネリウス様は胡散臭い感じがするけれど、ヴァイス様も表情が無くて何考えているか分からないわ……)

 ユリアーネは無言の時間を気まずそうにしながら、三王子を思い浮かべる。相変わらず何を考えているのか分からない。


「……リーヴェス兄上の母上も身分が低いからと、苦労しておられた。それでも、貴族の末席に連なる者。だが、貴女は平民だと聞いた」


 ユリアーネは黙ってその先を聞く。


「今はそれほどでも、後々苦労する事もあるだろう」


 少しだけヴァイスは優しげに紅色の瞳を細める。その同情的な仕草が。

(少しだけ、リーヴェス様に似てる……)


 母親は違っていても、やはり血の繋がった兄弟というところか。


 ヴァイスは身に付けていた隊服の袖のカフスボタンを1つ外して、ユリアーネの方へと手を伸ばす。そして、ユリアーネの手のひらに乗せた。


 受け取ってしまった…とユリアーネは思いつつ、不思議そうに手の中のカフスボタンをしげしげと見つめる。


「そのボタンには第三王子を示す紋章が彫られている。何かあれば私の部下――同じ紋章を身に着けている者に見せればいい」


 そして、小さく笑みを浮かべた。

 初めて見せた表情の変化。


「きっと、力になってくれる」


 一瞬、呆気にとられたユリアーネだったが、慌ててカフスボタンを握り締める。


「あ、ありがとう……ございます。でも、どうしてそこまでして下さるんですか?私はリーヴェス様の愛人なのに……」

「リーヴェス兄上が大事にしてるから、の他にあるのか?」

「なるほど……」


 首を少し傾けたヴァイスに、ユリアーネは納得する。

 三王子の後ろ盾が王位継承権争いを繰り広げているらしいが、本人達はどうなのだろうか。少なくとも、ユリアーネから見ると、そんなに仲の悪い兄弟といった感じではない。水面下だと分からないものであるが。


 しかし、大事にしているとは、どこから掴んだ話なのだろうか。やはり噂だろうか?

(コルネリウス様にしても、アマーリエ様にしても、情報が早すぎるのよね……)


 どこからか、情報が漏れているか――いや、敢えて情報を流しているのか。


 ユリアーネに探る術がないのが残念な所である。

(リーヴェス様も全部は教えて下さらないだろうし……)


 ユリアーネは餌なのだ。

 リーヴェスを追い落とそうとする魚を釣り上げる為の。


「では、身体に気を付けて」


 身を翻して去っていくヴァイスの姿が見えなくなってから、ユリアーネは小声で近くの侍女達に聞いた。


「ねえ、ヴァイス様って凄く良い人のように思えるのだけれど……?」

「そうですよねえ!」


 パウラは無邪気に同意したが、イルゼは難しい顔になる。


「ユリア様にとっては良い人かもしれませんが、リーヴェス殿下にとってはどうか……」

「まあ、そうよね」


 イルゼの言葉にユリアーネはあっさりと納得する。

(コンスタンツェ様のように、私以外には良い人のフリって事だってあるのだし)


 ユリアーネはカフスボタンを人差し指と親指で摘んだ。第三王子の紋章をじっくりと眺める。

(親切な人……だったように見えたけれど、私はリーヴェス様に買われた身。リーヴェス様に従うわ)


 何かあれば力になってくれると言った。

 ならば、利用させてもらおうじゃないか。



 同時刻。

 王城の高い階にある廊下から、眼下に広がる中庭を見下ろしていた男がいた。キラキラと煌めく銀髪を、緩く一つ結びにする男――コルネリウスは、ニンマリと愉快そうな笑みを見せる。


「へえ?あの愚弟が女の子にちょっかい掛けている所を見れるとは思わなかったなあ」


 一人で呟きつつ、自身のカフスボタンに視線を落とす。


「面白そーだし、オレも参戦してみるか?うーん、でも、愚弟に女癖悪そうって見られてそうだし、もしかしてリーヴェス兄上にも思われてたりする感じ?」


 コルネリウスは首を捻って考え込んでいたが、廊下の手すりに両腕を乗せた。


「ま、それにしても――、」


 そして、カフスボタンから改めて中庭にいるユリアーネに視線を戻した。見られているとは知らず、彼女は無邪気に侍女との会話で微笑んでいる。


「愛人に婚約者を奪われた悪役の令嬢が、今度は愛人になるなんて皮肉なもんだな」


 と、コルネリウスは薄く笑った。

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