始まり
私は憧れを持っていた。
いつかきっと白馬の王子様みたいな人が私の元に来てくれるって。そんな夢みたいな事あるわけないのにね。
お姉ちゃんにも言われたよ。
「バッカじゃないの?あんた本の読みすぎだよ。あるわけないって。そんな王子様。ましてここ日本よ?皇族が気安く来るわけないでしょ?」
子供の頃は言っている意味がわからず??状態だったのだが、学校に行くようになってそれがどれほどありえないことか悟ることになった。
だからさ、私は本の中に憧れの人を求めた。
二次元の人ならたくさんいた。
ホントにいるんじゃないかって思うくらいかっこいい人が。ときには王子様、ときにはヒーローとしてカッコよく登場…なんて事が。
羨ましかったなぁ〜。
私もこの本の世界の住人だったら良かったかもね。
それから10年の歳月が経った。
私ももう20歳。
夢見る歳ではなくなったけど、相変わらず恋愛小説にのめり込んでいた。
どこに行くにも1番好きな小説を1冊だけ持って出かける。
読んでる時にはワクワクドキドキが止まらず、電車に乗る時は乗り過ごす事がある為、ページを決めて読んでる。
学生で親との同居の為、本はあまり買えない。
だから同じ本を読み返すことも多い。内容を覚えてしまってもやっぱり素敵な話はいい。
友達には夢見すぎだよとからかわれたこともあったが、夢は見ていたい。
実はこっそりと自分で小説を書いて何度も読み直して手直ししてを繰り返し、紙がボロボロになってしまっても大切に保管している。家では読むことができるからと、何種類か書いてとってある。でも誰かに見せるつもりはない。だって恥ずかしいから。
今日の講義は11時からだからまだ時間があるね。今は9時をまわったところ…。1人だし…読もうかな。
取り出したのは今気に入ってる恋愛小説。
歳をとるごとに読みたいものが変わり、今は大人の恋愛小説にどっぷりハマっている。
【ああ、私もこんな素敵な人と出会ってみたいものだわ。ま、無理だけどね。】
しおりが挟んであるページから読み始めた。
読み始めると周りの音も気にならなくなるから読んでいいページにしおりを挟む。
髪が長いので一つに結び読んでいる。
1時間程読んだだろうか…携帯の時計を見るとそろそろ授業の始まる時間だった。
ヤバい。遅れそうだ。
この場所から教室までどんなに走っても5分はかかる。人気の講師の先生の授業だから早く行って席を確保するつもりだったのに…。え〜ん、私のバカバカ。
開始1分前に何とか教室に滑り込んだが、空いてる席はあるにはあるが、1番角の後ろだ。見にくいが、眼鏡があるから何とかなる。
ホッとした。
あとちょっとでも遅かったら入れなかっただろう…。現に入れずに諦めた生徒もいたのだ。
授業は50分。みっちりあった。難しくて大変だったが、受けてよかったと思った。
「はぁ〜。疲れた…。やっぱりあの講義は良かったな。とっといて正解だわ。」