栄龍儀という男の終わり
栄龍儀は元々右利きだったのを戦闘の幅を広げるために、左も使うようになった結果、両利きになった。
天界から龍儀をみていた女神は息をのんだ。なぜなら、彼はトラックに轢かれたからだった。
龍儀がトラックに轢かれた直後、栄龍組の組員達はトラックに駆け寄り始めた。
「組長!」 「親父!」
蛇谷と月影も動揺を隠せなかった。その動揺を嘲笑うかのように薬城は仲間に指示を出した。
「これで栄龍組は終わりだ。さぁ、残党共を片付けなさい。」
薬城の指示で薬城會のやくざは一斉に襲いかかった。
組員達が慌てるなか、蛇谷と月影はすぐさま反撃にでた。しかし、龍儀が轢かれたショックが大きくさっきまでのキレはなかった。薬城は蛇谷に拳銃を向けながらゆっくり近づいてきた。
「何を頑張っているのですか。諦めなさい。今の時代、私のような頭脳明晰な人間の時代なんですよねぇ。君達のような暴力だけの古いやくざはここで消えてもらいましょう。」
薬城が勝ち誇った顔で話をしている後ろの車の中には抗争の原因となった薬城の娘である薬城遥香が笑いながらこちらを見ていた。
それでも蛇谷は薬城を睨みながら、笑い口を開いた。
「一応、俺も自称インテリヤクザを名乗っているが、忠告してやる。頭脳派を名乗っているのなら前線に出るべきじゃなかったな、マヌケ。」
その一言にイラついたのか、薬城は黙って発砲した。乾いた音とともに、蛇谷の左肩が撃ち抜かれた。
「マヌケはあなたです。この状況がわからないのですか?組長が死に組は崩壊寸前、これを見に行かないわけがないじゃあないですか。」
薬城はそう言うと拳銃を蛇谷の頭に向けた。
「さようなら。あの世の組長に伝えてください。この土地とあなたの組員達は私が上手く使ってあげますので安心してくださいと。」
薬城が勝ち誇って拳銃の引き金に指をかけた瞬間、銃声とともに薬城の右手が撃ち抜かれた。
「ぎゃぁぁぁ~~。」
薬城が悲鳴をあげながら踞ると同時にトラックの方から運転手であろう男の死体を引きずって一人の男が近づいてきた。その男こそ、トラックに轢かれた龍儀だった。
「なぜ、トラックに轢かれたはずのお前が生きている。」
薬城が顔をひきつりながら龍儀を見ていた。
「運が良かったから・・・と言いたいところだが、おかげさまで・・全身が痛いわ、肋骨折れてるわ、それが肺に・・・刺さってるわけだから・・息もしづれぇわで最悪だよ。」
龍儀は全身血塗れで喉からゴロゴロと音を出しながら、上着を脱ぐと傷だらけの体と背中に彫られた鬼に巻き付く龍と桜があらわになった。
「けどよ・・・家族を失うよりははるかにマシか・・・覚悟しろ、薬城。」
龍儀は弾切れの拳銃を捨てると、ゆっくりと薬城に近づいた。
「どこにそんな力が-」
薬城が言い切る前に龍儀は彼の顔面に正拳突きをくらわし、薬城の顔を陥没させ、首を折り決着を着けたのだった。
「嘘でしょ、パパ!」
車の中から一部始終を見ていた薬城遥香はその光景が信じられず、慌てて運転手に車を出すように指示を出したがフロントガラスを割り月影が運転手を殴り気絶させた。
「ヒイィィィ!」
運転手を失い、遥香は鯉滝を筆頭に複数の栄龍組組員達に囲まれた。
その様子を見た龍儀はその場で倒れた。蛇谷はすかさず龍儀に駆け寄り大声で彼に語りかけた。
「親父・・・親父・・・龍儀!!」
「蛇か・・・守りきれずに悪かった。」
「喋るな龍儀!」
「医者や!はよう、医者を連れてこんかい!!」
組員達が薬城會の残党を片付けたり、応急手当てしているなか、龍儀は静かに蛇谷に語りかけた。
「蛇・・・これからはお前が栄龍組をついで・・いけ。お前なら問題無いだろう。」
「ふざけるなぁ!俺は認めねぇぞ!お前がこんなところで終わってしまうなんて、俺は認めねぇ!」
「お前・・・組長になりたかっただろ。」
「違うんだ。俺は・・・俺は龍儀、お前を超えたかったんだよ。俺の憧れであるお前を・・・」
「そうかぁ・・・なぁ蛇、俺は栄龍組を守れたか?」
「あぁ、立派な親父だったぜ、龍儀。」
「そいつは・・・・良かっ・・・た。」
「龍儀・・龍儀!!」
こうして、栄龍組組長栄龍儀は蛇谷達組員に看取られながら、ゆっくりと息をひきとった。享年57歳。
その様子を涙を流しながら見ていた女神がいた。
誤字、脱字が多いかもしれませんが頑張って続けます。