黒色の参戦
エンジェルマリンで一夜を過ごした龍儀達がディーネを探していると、応接室からディーネの声がした。
「何度も言っているでしょ!お断りよ!」
ディーネの荒い声が廊下まで聞こえてきた。
「何があったのですか?」
「多分、戦争の参加要請ね。」
「戦争?」
「えぇ、カメリアスガルド公国とネクヴァス公国の間に戦争が勃発したの。通称、百年戦争。」
「まさか、百年も続いているのですか!」
「いえ、戦争が起きたのは1年前よ。」
「一年戦争に改名しろ。」
「でも、何で戦争を?」
「詳しくは知らないけどお互いがお互いの領土を侵犯したのが始まりみたいよ。」
後ろからきたリーフが説明した。隣には不機嫌なラッガーもいた。
「まったく、朝から気分の悪い話だ。何回も戦争に行きたくねぇって言ってんのにしつこい連中だ。俺が代わりに行ければなぁ。」
「行けないんですか?」
「あぁ、セインフィーネはなギルドの決まりで戦争に参加しちゃいけねぇんだよ。カメリアスガルドにもネクヴァスにもセインフィーネの支部があるから下手したらメンバー同士で殺し合うことになる。それを防ぐための決まりだ。セインフィーネが戦争に干渉できるのはその戦争に意味を成さなくなった時か互いに非が認められた時だけ。その時に戦争を終結させることだけがセインフィーネのできる唯一の仕事だ。」
「他のギルドはいいんですか?」
「この決まりはセインフィーネ限定なんだよ。だから、こうしてしつこく勧誘してんだよ。」
「でも、なんでエンジェルマリンに参加要請なんか。」
「それは、アクアライトがカメリアスガルド領で3番目に大きい街だからよ。他の街のギルドはすでに参加しているみたいだし。」
カメリアスガルド公国には25の領土があり、その領土一つに街が一つある。アクアライトはその中でも3番目に大きく資源も豊富なので、国としてはどうしても参加してもらいたいと思っている。ラッガーとリーフは龍儀達にそのことを話した。その間もディーネが戦争への参加を拒否している。
「帰って!何回も言っているでしょ!お断り!」
「困りましたねぇ、それではこの街の税を上げることにしましょう。」
「「な・・・」」
「当たり前です。戦力として国に仕えないのならば、お金で戦争に参加してもらうだけです。言わば、戦争税です。なぁに、戦争が終われば税も取り消してあげます。」
「そ、それだけはどうか・・・」
「残念ですが、彼女が拒む以上、こうするしかないのですよ。」
ディーネの他にこもった男性の声と初老の男性の声がした。龍儀は会話を聞くとライカ達を見た。
「どうする?」
「せ、戦争は怖いですけどディーネさん達を行かせたくないです。」
「あたしはリューギが行くって言うなら行くよ。リューギがあたしを信じてくれるようにあたしもリューギを信じる。」
「あなたの好きにしていいわ。」
「そうか、了解。」
「ちょっと、何する気?」
「まさか!」
リーフとラッガーの心配を他所に了解は応接室の扉を開けた。中にはディーネと隣に座っている初老の男性と向かいに兵士らしき男性が二人といかにも偉そうな小太りの男性がいた。
「りゅ、龍儀!」
「なんだね、君は?」
「話が外まで聞こえてな。その戦争、俺達が参加しよう。」
「な、何言ってるの龍儀!これは私の問題で。」
「一宿一飯の恩だ。それに行きたくないって言ってる奴を無理矢理行かせたところで意味ないだろう?だから、俺達が行く。」
「ほぅ・・・惜しいねぇ。!彼女だけ連れて行こう。悪いがレベルが65以上ないと連れて行く気はない。それに彼女、ハイエルフじゃないか!素晴らしい、戦力としてじゃなくても役に立つ。」
小太りの男性は龍儀達を鑑定した後、ルリカを指しながらニヤニヤと笑った。
「悪いが全員だ。」
そう言いながら龍儀は男性に近づいた。
「待て!そこから先、ウェルストス様に近づくことを禁じる!」
兵士の一人が槍を向け命令した。しかし、龍儀はそのままウェルストスに近づく。
「聞こえんのか!レベル60に満たない貴様が我々に勝てると・・・」
兵士が命令しようとした時、龍儀は槍を自分の腹に刺した。その姿を見て驚愕する一同、龍儀の腹からは血が垂れてきている。
「な!き・・・貴様、何を!ぬ、抜けない!」
兵士はとっさに槍を抜こうとするが槍が全く動かない。龍儀はそのまま進み続けた。
「おい。」
「ひっ!」
「レベルが高い。結構。だけど、お前、人、殺したこと、あるか?」
「え、えぇっと。モンスターなら。」
「違う。人間を殺したことがあるか?殺しに必要なのはなんだ?凶器か?動機か?度胸か?強さか?・・・覚悟と責任だろ?人を殺すってことはそいつの未来、可能性を全て奪うことだ。お前、相手の全てを奪う覚悟、責任を負う覚悟があるか?」
龍儀の気迫に怖れた兵士は槍を離してしまった。龍儀は槍を抜くと腹を抑え、最高位回復魔法で傷を治した。
「嘘、最高位回復魔法!龍儀、使えたの!」
「なるほど、確かにレベルは低いが使えそうですな。」
「で、どうする?俺達を雇うか?」
「仕方ない。いいでしよう!あなた達を雇いましょう。いいですね、ディーネくん。」
「いえ、私も行くわ!昨日きたばっかりの龍儀達に戦争に行ってもらって、私はただ待つなんて嫌よ。龍儀、あなたが行くなら私も行く。これが条件よ。いい?」
「あぁ、問題ない。」
「なら、私は外で待ってますので支度は早めにお願いしますよ。」
そう言ってウェルストス達はギルドを出ていった。
「・・・悪いな、ディーネ。床が汚れた。」
「そんなの今はどうでもいい!私のためにここまでしなくても、私がなんとかするから。」
「いや、お前と同じ気持ちだ。昨日仲良くなった相手を戦争に出して待つなんて性にあわんのでな。」
「う、うぅ~。」
口こもるディーネ、そんな彼女に話を聞いたギルドメンバー達が押しよってきた。
「マスター!ホントに戦争に行くのですか!」
「マスターが行くのならば、私もいきなります!」
「私も!」
「あなた達は駄目!」
「なぜです、マスター!」
「あなた達はここで街を守って欲しいの。もしかしたら、この街も戦争に巻き込まれるかもしれないから。これはギルドマスターからの命令よ!」
「そ、そんなぁ。マスター。」
「私は大丈夫。すぐ戻るから。」
ディーネがメンバーに指示している姿を見ている龍儀に初老の男性が声をかけた。
「なんとお礼を申し上げれば良いのか。私、アクアライトの町長をしております。エドリスと申します。龍儀さん、お話はディーネさんから聞きました。全町民を代表してお礼を・・・」
「いや、そいつは俺達が戻ってきた時に言ってくれ。」
「りゅ、龍儀さん・・・」
「龍儀!ますます気に入った!安心しろ!この街は俺達が守る!だから、必ず戻って来い!いいなぁ!」
「あぁ!約束だ。俺は、いや俺達は絶対戻ってくる。だから、その時に上手い店を紹介してくれ。」
「任せたぁ!」
龍儀はラッガーからエールをもらうとディーネ達のいる方へ向かった。
「準備はいいよ、龍儀。」
「僕もいつでもいけます!」
「行こう、リューギ!」
「あぁ、行くか!」
「「「はい!」」」
龍儀達はウェルストス達が乗った馬車とは別の馬車に乗った。アクアライトを出る時にラッガー達が見送っていたのを見るとディーネ達は手を振って答えた。龍儀とルリカも少し笑いながらアクアライトを後にした。
龍儀達がアクアライトを出る数日前
「・・・以上がヘイサゼオン調査報告になります。」
「わかった。ありがとう、マックス。下がっていいよ。」
「はっ!」
「栄・・・龍儀、か。彼に会ってお礼を言わなければいけないな。」
綺麗な月を見ながらその男は笑っていた。
ちなみに、ヘイサゼオンはカメリアスガルド公国で20番目に大きい領土を持つ街です。




