06.狐のタタリなんだ、って……
「……ごめんなさい、お客さんにこんなこと」
それからしばらくして、ようやく落ち着いた若菜と一緒にシキは座っていた。
リンはなかなか戻って来なかった。先ほど歩いてきた感じ、大通りのスーパーまではそこまで遠くもない。
……もしかして、本当に面倒だから逃げただけか?
とにかく。
「まあ、仕方ないよ。人はみんな、いつかこうなる。人間は生きてるんだから」
シキは思う。
死について、人間の生命について。
……自分は死ぬことがない。それなりに長い時間を生きてきた。だから普通の人間の価値観など、本当の意味で理解できていないのだと、自分でもわかっている。
「でも、前まであんなに元気だったのに。こんな急になんて……」
先ほどまで、自分たちをもてなそうとしてくれた時の元気は、もうこの子にはなかった。さすがにシキも、先ほどは悪ふざけが過ぎたと反省する。
見た感じ、十歳くらいだろうか。シキからすれば十歳も五十歳も大して変わらないので、見た目で歳を判断するのは苦手だが、若菜はずいぶん幼い。
「……私。おじいちゃんとずっと二人で暮らしてるんです。両親も居なくて。だから、これからどうすればいいか、わからなくて」
「……そっか」
シキはもう一度、若菜を胸に抱き寄せてやる。
たった一人の家族だ。それが死にかければ、こうなるのも当然だろう。
そのまま、またしばらく何もしない時間が続いた。二人とも、身じろぎひとつしなかった。
今のシキには何も出来ないし、たとえ力が戻ったとしても何もしないだろう。人間たちの事情に、そこまで入れ込むほどの理由もない。
「……やっぱり、タタリなのかな」
「なんだって?」
だから若菜が、タタリ、などと呟いたことにシキは驚いた。
「なにがタタリだって?」
シキがすぐに聞き返したので、若菜は驚いてそのまま黙ってしまう。
「あー、ごめん。急に。
……ねぇ、若菜ちゃん。何か気になる話でもあるの? その……この町のことで」
若菜の頭を撫でながら、シキは問いかける。
若菜は少し躊躇ったが、少しのあいだシキの目を見つめ、それからようやく口を開いた。
この町で、ささやかな噂になっているという話のこと。
「町の人たちが、急に元気が無くなって、寝たきりになっちゃうんだって。うちのおじいちゃんの他にも、何人かが……
町のことに詳しい人に聞いてみたら、昔から、何十年かに一回づつ、そういうことが起きるみたいで、それが、狐のタタリなんだ、って……」
シキは、若菜の話をそのまま黙って聞いていた。
不思議な力を持つ、化け狐ーー思い当たる節が無いわけでもなかった。
若菜の言うことが本当なら、それまで元気だった老人が、急に起き上がることも出来ないほど衰弱する、というのもあり得る話かもしれない。
もちろん、ただの推論に違いないのだが……
シキが何かを考えようとしたところで、玄関の戸が勢いよく開かれる音がした。
「……話はだいたい分かった。
シキちゃん……私たち、おじいちゃんをなんとか出来るかも」