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大妖怪スイーツたべたい  作者: 氏原ソウ
第1話「ノー・スイーツ・ノーライフ」
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04.生き残るために!

「……どうだ!? いけるか、リン」

「コンビニスイーツにしては、絶品。味もいいけど、食感がすごい。

 この食感の新しさは、商品開発力の強い大手コンビニチェーンならでは」

「ほぉほぉ〜……で、結果は?」

「……」


 人の通りのない、のどかな田舎町の片隅。

 静かな初夏の陽気の中、あたりには二人の話し声だけが響いて、美しく高い青空の中に溶けていく。

 声の大きなほうは背が高く、白に近いショートウルフカットの金髪が、体を動かすたびふわふわと靡いた。金色の大きな丸縁メガネが顔を覆うが、それでもコロコロと変わる表情はわかりやすい。

「どう? 力、戻りそう?」

「ダメ……」

「ちょっと待て私にも一口ちょうだい」

 そう言って、シキがトレーをぶんどり、その中に並んだ透明な餅を掴み取る。

「私のお金で買ったやつ……!」

「どっちが金出しても変わらんだろうがよ〜。もぐもぐ。

 あ、私これけっこう好き。甘すぎないし」

 もう一人、声に抑揚がなく、体も小さいリンが、奪われた自分の食べ物を取り返そうと掴みかかるが、身長の差は大きく、思い切り上に掲げられたトレーには手が届かない。

 シキが、高く掲げられた手元のトレーを傾け、残っていたふたつの餅を、薄いリップのきらめく口の中へ流し込む。

「やっぱり、コンビニのスイーツじゃダメかー。

 どうすんだよぉ。このへん、ここのコンビニ以外に食べ物売ってる店なんか無いぞー」

 二人の前には、正面のコンビニで買った様々なスイーツが並べられている。

 この町ーーというより集落といった感じだがーー唯一のコンビニで、片っ端からカゴに放り込んで買ってきた商品たち。

「私たちの力、ずいぶん弱まってきてる。そろそろ本当に……まずい」

 リンは、言いながら手元のタブレットで検索をかける。

 バスはもう出ない。

 町からいちばん近い都市部へは、徒歩で行けば丸一日はかかる。

 ふだんの力なら、もっと早く別の場所に移動することも出来るだろうが、力が弱まった今の二人にとって、それはあまりに危険なことのように思えた。


「……それで、どうするの。シキちゃん」

 そう言われたところで、シキにもどうすれば良いかなど、考えるのも面倒臭くなってくる。

 全体的に細いが体の線は柔らかく、一見すると男とも女ともつかない。夏の陽射しの中でもロングスカートに長袖の薄いニットで、あまり肌も出ていない分、体の特徴が掴みづらい。

 シキはぶっきらぼうに、少年のような声で答える。

「どうするったって。ここでダメなら、あっちの人里のほうを見て回るしかないだろ。……だいたい、どうしてこんな田舎に来ちゃったんだっけ? 私たち」

「シキちゃんが、たまには山で過ごしたいって言うから……」

「なワケあるかい。私は毎日しゃれたカフェでごはん食べたいのさ。田舎はつまらない」

 そういってシキはベンチに深く寄りかかったまま、隣に座るリンの頬をつつく。

 リンはシキの隣に並んでいると、もともと小さな体がさらに小さく見える。童顔だが大きな目を包むアイラインはささやかに黒く縁取られ、人形のよう。真っ黒い髪が、六月の終わりの陽射しにも負けない白い肌と触れ合い、この山間部の田舎町には似合わない高貴な雰囲気を纏わせていた。

「いや、間違いない。シキちゃんが来たいって言った。……ほら、日記にも書いてある」

 リンは、先ほどからずっと触っていた、大きなタブレットの画面を突きつける。

 〈リンのツイート 6月26日

 シキちゃんが、今度は自然のあるところに行きたいって言った。

「もう東京は飽きた。狭いし。山って最高だよな」って……(;´-`)

 シキちゃんが東京来たいって言ったんだよね!?o(`ω´*)o〉

「……そんなこと言ったか私」

 シキは自分の言ったことなど覚えているような性格ではないが、リンが言うならそうなんだろうな、と思うことにした。ここで何を言い返しても、リンには勝てない気がする。

 リンの小さな両手に握られている端末を漁れば、私がいつ、どんなことを言ったのか記録した証拠が山ほど出てくるんだろうなー、と思う。

 リンは無口だが、画面の中ではずいぶん饒舌だ。


「まあいいや。とにかく、この暑いなか何時間も歩くよりかは、あっちの集落でなにか美味しいものを見つけるほうが早いだろ。

 こんな場所なんだ。なにか珍しいものが食べられるかも……」

 そう言ってシキは立ち上がる。細かいことは考えない。余計な荷物も持たないし目的地も決めない。身軽なほうが人生は楽しいものだ。


 ーー私たちは人じゃないけど。


 シキは何も持たず、軽やかに歩き出す。動きやすさを考えて選んだ流行りの白いスニーカーが、日差しを反射してきらめく。

 リンは脇に置いていた黒いリュックにタブレットを詰め込むと、早足でシキを追いかける。

 鞄どころか財布すら持たないシキと反対に、リンのリュックの中にはスマートフォンやノートPC、通信用のwi-fiルーターに携帯ゲーム機まで、たくさんの電子機器が詰め込まれていて、かなり重い。

 身長が高いうえに大股で歩くシキについて行くのは、リンにとって大変なことだ。特に、弱った今の体では。

「もう慣れてるけど……少しは私に合わせて、シキちゃん……」

 まったく、どうしてこんなに性格の違う私たちが、ずうっと一緒に旅なんか出来てるんだろう。

 ……とにかく、今はお菓子を探すことのほうが大切だ。


 私たちには美味しいスイーツが必要なのだーーそう、生き残るために!


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