澄み酒
天文七年 十一月
日守城 熊丸の部屋
朝寒さで目が覚めた。外からパタパタと音が鳴っている、ふすまをあけると雨がふっていてより冷たい風が部屋に入ってきた。
この時代の冬は寒くてたまらないな、今は雨も降っているからより一層寒い。手袋、マフラー、靴下、こたつ、暖房などなど現代の文明の利器など存在せず温まるには、わさわさ囲炉裏で火を起こすしかなかった。じゃあ無いなら作ればいいじゃんと思うが、この時代の技術では難しいと思う。早く南蛮船がこないかなぁ?そうすれば毛皮のコートが手に入るかも。などと考えていると朝食の時間がやってきた。
朝食を食べ終えて朝の稽古を始める。傅役の一久はいないが稽古をしっかりやっておかないとあいつが帰ってきて上達していなかったらみっちり稽古をやらせられる、それはいやだからしっかりと稽古はしないとな。まだ素振りを行うには早いと頭では分かっているが、何回も、何回も同じことを繰り返していると流石に飽きがくる。だが、生き残るめにはそれが必要なことだと分かっている。
朝の稽古が終わり先月から親父の酒を盗み、澄み酒の製造に取り掛かっていた、最初は灰の量がわらないから少しずつ灰を入れていき経過を観察していた。灰と酒の調達には手こずったが何とかあと一歩のところまで製造出来た。あとは、誰かに味をしてもらわないと完成とはいえない。親父達はいま、北勢の制圧にかかりっきりだから頼めないしどうしようかな。流石に十二月になれば北勢の制圧も終わるだろうその時に飲んで貰うとするか。そうだ、和尚がいるじゃあないか、和尚に飲ませてよう。そうだ、昼飯まで時間あるし塩を作っている所を見に行こう。
阪井家領内製塩所
磯の香りと独特な香りがしてくる。日焼けした屈強な男達が、海水を汲み上げて塩田に撒いている、乾いた砂を木のタライみたいなのに入れて海水と一緒に煮詰めていた。
『これが製塩所かぁ、かなりの重労働だなこれ
は』まあいきなり小僧が塩の作り方に口を出しても受け入れられないだろう、今度は親父といる時にでもこよう。そろそろ昼飯の時間だな帰らないと。
昼飯を食べて澄み酒を持って寺に行く。『和尚は酒を呑みますか?』『いきなりですね熊丸どの、まあ少しは嗜みますよ』『ではちょうど良かった。ではこれを試しに呑んでくれますか?』『ん?これは澄み酒ですか?これはどうしたのですか熊丸殿』『日頃の御礼にと思い父上が隠してある物を少しだけ頂戴してきただけです』『いけませんね熊丸殿、ですが持ってきてしまったのでしょうがないですね、では頂きます。むっ、これほど強いお酒なのに香りがいい』『どうですか和尚?』『とても美味しいです熊丸どの』『それはよかったです(やった、成功だ後は彼を親父に飲ませれば)』『ではそろそろ熊丸殿、始めますよ』「分かりました和尚」
この澄み酒はただの澄み酒では無いですね、もしかして熊丸殿が作った?まさか、たしかに熊丸殿は優秀ですがまだ子供です、一応阪井殿に手紙を出しておきますか。
長島城
『2人とも蓬華から文が来た、どうやら熊丸が出所の不明な澄み酒を持ってきたそうだ、蓬華が思うには、熊丸が作ったのではとの事だ』『それは凄いですねそれが本当なら一大事ですな』『そうだ、一大事になるだから一久、日守城に一旦戻って本当の事を聞き出してくれ』「御意」
熊丸、何処から澄み酒の作り方を学んだのだ?
この事が漏れれば大変な事になる。忍びを雇い常に護衛をさせるか。はぁやれやれ、だが澄み酒が作れるならどこにでも持っていき売る事が出来るな。もうすぐで北勢全域の制圧が終わる、領内の米の生産を増やさないとな。やる事が山積みだ。
ありがとうございました。