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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真の英雄は真の幸せを失った代わりに、幸せな人生を得られましたとさ

作者: あっちこっち

「ねぇ、なんで私達はあんな馬鹿な人達の為に戦かわないといけなかったの?」


「さぁね。戦えるだけの力が僕たちにあって、色んな出来事のタイミングが重なったからじゃない?」


「嘘つきだねルーンは。私はただルーンと一緒にいたかっただけなんだけどなぁ……」


「それはまぁ、僕もそうだけどよ」


 魔王城と成れの果て、瓦礫の山とかしたその場所で私とルーンは、長い旅の末に歴代最強と言われていた魔王を打ち倒した。

 

「あの馬鹿勇者が魔王軍の幹部に殺されてから、掌返しで私達を頼ってきたあの醜い国王も、口だけで戦場に出ることさえしようとしない将軍達も、自分達じゃなければ本当は誰だっていい国民達も、私はどうでも良いのに」


「僕も守りたい人なんてあの中には誰もいなかったんだけどね。

守りたかった人達はもうとっくの前に死んだんだから」


「でもルーンはその人達との約束を守ろうと必死だったよね。私はそんなルーンに死んで欲しくなくてここにいるんだから。」


「ごめんね付き合わせちゃって」


 私の横で私と同じようなボロボロの姿でへたり込むルーンは、私の好きな笑顔で私に謝ってくる。いつもルーンはそうやって笑顔のまま、色んなものを背負っていってしまうのに。


「いいよ、もう。ルーンの背負ったものはもう全部片付いて、やっとルーンは自由にかれなんだから。」


「不自由だったつもりなんてないんだけどね。でも確かに今の僕には誰とも約束はないね」


 ルーンはコロコロと笑いながら天を仰いでいる。赤々と輝く月の美しい夜空。ロマンチックと言えなくもないかもしれないそんな夜。


「ルーン、貴方にはこれからずっと私だけを見てほしい。もう他になにも背負いこまないで、ずっと私のことを想っていて欲しいの…」


 ずっと昔、子供の頃から一緒に育ってきたルーンへ、私はずっと打ち明けたかった気持ちを明かした。

 ルーンはなんでも背負い込んでしまう。どんな事でも背負い込んで、無茶をする。だからいつもルーンの心には私じゃない誰かがずっといて、その誰かのためにルーンはいつも必死。


「私はずっと前からルーンだけでよかったの。お金も名誉も地位もいらなかった。私の心はずっとルーンだけを求めてる」


 赤々と輝く月と爛々と輝く星々を使い、既に歴代最強の魔王の死体を贄として構築された召喚魔法陣。それが完成されようとしている空の下。私はルーンを見つめていた。


「そんなに僕は求められてたんだね…。ごめんな気づけなくて。」


「もういいの…。最後までルーンの側にいられたんだから、いいの。ねぇルーン返事聞かせて…?」


「そうだね。うん。君の為に生きるっていうのはすごく魅力的な提案だよ。ルナは俺の一番大切な人だからね」


 私の目を見て答えてくれたルーン。もう我慢なんてできるはずもなかった。

 これまでの想いを全てを伝えたくて、ルーンに受け入れてもらえた嬉しさを知って欲しくて、私はルーンへ口づけする。

 涙が溢れ出て止まらない。嬉しいはずなのに、これまでの全てが報われて幸せな筈なのに。この幸せがあと少しで終わってしまう悲しさが涙となって溢れてしまう。


「…っはぁ、ごめんね。もう一緒にいられる時間はほんのちょっとしかない」


「…うっ…もう、いいの…ルーンと最後までいられるなら。もお、私は満足だから……」


 世界の悲鳴が聞こえる。今から現界しようとする存在そのものを否定するように、世界の全てがそれを拒もうと抗う音がする。

 あと少しで世界は終わるから。邪神が全てを終わらせてしまうから。もうどうしようもない。

 でも、もういい。私はルーンと死ねるから。私自身よりも大切なルーンが、私の事を一番大切だと言ってくれたから。もう私は満足。


ガギィイィイン!!!!


 空が割れてその隙間からこちらの世界を覗く"なにか"

がいる。きっと万全の状態の私達でも勝てる見込みはない。今この世界にいるどんな存在も、あの"なにか"は上回っている。

 

 終焉の時だ




「弾丸装填開始」


「っえ?」


 全てに満足して終わりを受け入れた私の耳にルーンの声が聞こえた。閉じていた目を開きルーンを見れば、ルーンは私を見て笑っている。


「僕の一番大切な人だから。僕は僕のできうる限りで君のこれからの人生を守ってみせるよ、ルナ」


「ま、まって…ルーンっんぅ//」


 私の言葉を遮るようにルーンは私の唇を塞いできた。

いやでも理解される。私はルーンに心の底から想われているんだと。


「ルナ。幸せになってね」


「なんで、いま…そんな事を言うの?」


 長いようで短いキスの後、ルーンは私から離れ、愛用の大弓を構えて弦を引き絞る。番られる筈の矢は番られておらず、代わりに弱々しく輝く光の矢が番られていた。


「弾丸の核を【ルナ】で固定。」


「どうして、ルーンがいなくなるみたいな言い方をするの!!??」


「【ルナ】を中心に弾丸を形成。

形成材料は核である【ルナ】に関係する全記録とする」


 ルーンが言葉を発する度に、か細い矢は少しずつその存在を高めていく。邪神にまで到達しうるのではないかと思えてしまうまでに。だけど、これは…


「お願い…いや。いやだよルーン…やっと私のものになってくれたのに……そんなのないよ……」


 矢の存在が高まるごとに、反比例して存在感が薄れていくルーン。もしその矢で邪神を退けられたんだとしても、きっとルーンはここにはいない。

 それじゃあ何の意味もない、私が生きる理由もなくなるのに。


「ルーンがいないなら私生きていけないよ!!

世界なんてもうルーンは守らなくてもいいの!!もう十分にルーンは守ってきたよ!!

、だから…お願いだから……私との幸せだけを考えてよ、ルーン…」


「ルナと最後の瞬間を共にする。それは幸せだと思う。

…でもね、僕はルナに生きて欲しいんだ。だから僕は世界じゃなくてルナの幸せを守る為に、僕の全てをかけるよ」


「そんなの私の幸せじゃない!!ルーンのいなくなった世界で、ルーンを想って生きるなんて私には耐えられないよ!!!」


「大丈夫」


グホォォァアオァァァァァァガアアァァッ!!!


 邪神の咆哮が世界を震わす。けど私の耳はルーンの声をしっかりと捉えていた。


「ルナの記憶の中に僕の存在はは何一つ残ってはいないだろうからね」


 私の記憶からルーンが消える?ありえない。ずっとルーンの事を考えてきた。私の膨大な量のルーンの記憶が無くなるなんて、そんな事があるわけが無い。


「弾丸装填完了。弾丸名【ルナ】クラス【神弾】

僕のルナと出会ってからの俺の時間と、僕に関わってきた世界全ての記録を、僕とルナそれぞれの記憶を一本の軸にして凝縮させた僕のとっておき」


「いや、いやいやいやぁっ!!!」


 私はルーンの腕を切り飛ばそうと剣を振るった。何回も何回も。だけど私の剣がルーンに届く事はなかった。ルーンの体はもう、この世界にはないんだ。


「酷い……酷いよルーン……!後を追うことも…悲しむことも…覚えていることも…この気持ちすら取り上げるなんて、…………ひどすぎるよ……」


 涙が溢れる。嗚咽が出る。悲しみが、心の悲鳴がこぼれ出る。


「…ルナ」


 それでもルーンはあの笑顔で私に告げる。


「愛してるよ。幸せになってね」


 そう言い残してルーンは引き絞った弦から指を離した。


ツァッアァーーーン!!!


 世界を見下す邪神目掛けて飛翔する黄金の矢は、まるで一筋の流星。輝かしい全てを宿して、どこかへ飛んでいってしまう。そんな流星。






〜真の英雄〜


むかし、むかし、世界は悪しき魔王に苦しめられていました。町は焼け、人は死に、大地は血で汚れ、勇者は魔王に敗れ去り、闇が世界を飲み込もうとしていたのです。

しかしとある村に生を受けた"ルナ"という少女は、そんな世界を救う為にらただ一人で立ち上がりました。

時に友と出会い、時に友を失いながら、あらゆる苦難の果てにルナは魔王をたった一人で討ち果たしたのです。

国も人も多いに喜びました。真の英雄ルナ万歳、ルナ万歳と。三日三晩その歓声が止む事はありませんでした。


ルナもまた泣きながら笑っていました。国王や国民と共に、掴み取った幸せに感極まるようにして笑っていました。

ルナは生涯結婚する事はありませんでしたが、その後、生まれ故郷の荒地を復興させ大都市を作り、そこで幸せな一生を遂げましたとさ。


おしまい   



著者 ルーン・ストラトス



恋愛物を書きたくなったので書いてみました。

【聖剣の大賢者】という連載の息抜きに書いてみたのですが、割と満足いくお話になったと思います。

キーワードにハッピーエンドとバッドエンドが両方ありますが、お読みになった方に判断してもらえればと思います。

それではたまに短編を投稿すると思いますので、その時にでも

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