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戯曲黄泉二号伝説  作者: 美祢林太郎
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第二幕 その1


村上家(庄助とトラの家)にて、8月16日丑三つ時。庄助とトラは庄助の亡き母のホログラムと話をしている。

母「またおまえたちはいたこ遊びをして遊んだね。もういい加減にそんな子供じみた遊びはやめにしてくれんかね。わたしゃあの世で恥ずかしいよ」

トラ「だって面白いんだもの。ばあちゃんだって生きていたら絶対にはまっているって」

母「だけど、あのいたこもいい加減だよね。私が焼け死んだって? あんたたちがお城のような家に住んで億万長者だって。大嘘もいい加減にしてほしいよ。わたしゃ餅を喉に詰まらせて死んだだけじゃない。この家だって築七年のたかが25坪の中古住宅を25年のローンで買っただけじゃないか。よくもあんな嘘を言えるわよね。あんたたちもあんたたちで、うまく調子を合わせているわよね。どこにハーブガーデンがあるのよ。100ヘクタールのパイナップル畑はどこかい」

庄助「かあさん、まあいいじゃないか。いたこも我々を喜ばせようとサービスしてんだからさ。おれたちも面白いしさ。大衆演劇見るよりはずっと楽しいぜ。おれなんか本当に母さんを保険金欲しさに、焼き殺したんじゃないかと思うことあったものね」

母「本当に馬鹿な子だよ」

トラ「だってこうして話してたって、生きている時に顔を合わせているのと変わりないじゃないの。一応、線香と蝋燭をしているけれど、なかなかムードが出ないわよね」

母「この科学の時代に線香と蝋燭かい。私だって生きていたら同じことをしたかもしれないけど。どこの家でもそうしているそうだけど、される方はそういい気分じゃないよ。でも、ある家じゃ仏壇をおいて合成画像ソフトによって昔ながらの白い装束を着させられ、頭には三角の頭巾を付けさせられて手をこうゆう風にして、うらめしや、って言わされているそうだから、我が家はまだましかもしれないね。そんなことをさせられるくらいなら、この世に来たくもなくなるね。いたこ遊びくらい我慢しなくちゃね」

トラ「そうだよ。ところで、あの世で変わったことはないの」

母「あるもんかいね。この世とあの世なんてほとんどどこも違ったところなんてないさ。事件なんてどこにもないね。四コマ漫画のようにとるに足らない事件を面白おかしく毎日生きているのさ。まるでアニメのさざえさんやちびまる子ちゃんのようにね。あっ、ちょっと待って。いま霊界緊急速報が流れているから。珍しいことだよ。なになに、ふむふむ。ぎょえ。こりゃ大変だ。黄泉二号始まって以来の大事件が起こったよ。とんでもないことになったもんだ」

庄助「えっ、いったいどんな事件が起こったんだい。早く教えて、教えて」

母「あろうことか、死んだ人間が生き返ったのさ」

庄助「そんなことがニュースになるのかい。そんなのお盆だから当たり前じゃないか。現にここでも母さんが生き返っているじゃないか」

母「私らは生き返っているわけじゃない。わたしの意識が実体のない三次元映像としてのホログラムを使って、黄泉二号からおまえたちと交信しているだけじゃないか。お盆でも死者は黄泉二号の中にいるんだよ。我々死んだ人間には肉体はないんだよ。それはおまえたちもよく知っているじゃないか。ほら触ることができないだろう。映画の人間を触ることができないのと同じさ。だけど、テレビ電話の人間と話すことはなんぼでもできるだろう。我々死者はただ黄泉二号からテレビ電話をしているようなものさ。もうテレビや映画のような二次元の時代ではなく三次元的映像のホログラムの時代だけどね。

 ところが、とんでもなく強欲な奴がいたんだね。私もどうゆうふうにしたのか、その方法はまったくわからないんだけど、現世の人間の肉体の中に自分の意識を入れて、他人の肉体を借りてこの世に生まれ変わった奴がいるんだとさ。これだけは法律で禁止されていたはずだよ。いや、それをしたくても誰もその方法を発見できなかったはずなんだけど。なんて悪い奴なんだろう。捕まったら、もはやそいつの意識は黄泉二号に帰ることはできないだろうね。奴の意識は抹消されるんだ。それにしても早く捕まえないと。そいつが来世から現世に戻る方法をたくさんの死者に教えてしまったら、来世と現世の秩序が崩壊してしまう。おまえたちもみかけたらすぐに新選組に知らせておくれ。警察でも自衛隊でもいいけど、一番信頼できるのは新選組だからね」

トラ「そりゃ、大事件だ。日本の一大事じゃないの。おかあさん、その悪党の名前は?」

母「そっちのテレビをつけておくれ。ワイドショーでやっているはずだから」

トラ「じゃあ、おかあさん、今年はこれで失礼するね」

母「じゃあ、おまえたちも楽しく過ごしな。また来年のお盆に現世か来世で会おうな。さようなら」

トラ、庄助「さようなら」


トラはテレビのリモコンでワイドショーのチャンネルを合わせる。アナウンサーのホログラムが登場する。

アナ「お盆の静寂をぶち破るような大変な事件が起きました。すでに多くの方々は亡くなられた方にお会いになり、お話を伺っていることと存じますが、こともあろうに死者がよみがえってしまいました。死者がこの世の人間の肉体を拝借して、生き返ってしまったのです。その方法ならびに事件の背景、個人の犯罪なのか、それとも組織的犯罪なのかは今のところまったく不明です。新選組、警察、自衛隊が懸命に捜索をしておりますが、まだ足取りはつかめていない模様です。

奪われた肉体のホログラムをお出しします。

(坂本龍馬のホログラム登場)

 この肉体の持ち主は坂本龍馬といいます。年齢は30歳で、肉体を奪われただけあって、とても間の抜けた顔をしております。ところが、それに乗り移った男は皆さまもお忘れではないでしょう。万人の女性を暴行し、百人の女性を殺してその肉を食べてしまったという世紀の猟奇的事件を。その犯人の岡田以蔵です。15年前、岡田以蔵は死刑に処せられました。かれの記憶から犯罪性の部分だけが消去され、去勢されたようにおとなしくなって黄泉二号に入っていったのです。しかし、どうしたわけか彼は復活したのです。彼の殺人鬼としての記憶が復活したのかどうかは現在調査中です。しかし、脱走したのですから、その可能性は十分にあります。どうか見かけた方は触らずに、すぐにご一報ください。この男一人によって日本の秩序と繁栄は脅かされようとしています。これはテロです」

トラ「本当に間抜けな顔をしているわね。こんな顔じゃ極悪犯人の迫力とリアリティがまったくないわよね。よりによって、こんな男の体を借りなくてもいいでしょうに。口元がだらしなさすぎるわよ。あらら、よだれを垂らしているわよ」

庄助「ああ、汚いな。まあ、それにしてもあの世からこの世に生まれ変わるのは、あってはならないことだからね。その方法がこの男から漏れる前に、早く捕まらないといけないね」

トラがテレビのスイッチを切る。

庄助「それはそうとひみこちゃんはどうしたんだい」

トラ「わたしたちのおかあさんと会ってもしょうがないだろうから、部屋でご両親とお会いした時に話しする内容をまとめているんじゃない。15年ぶりだから緊張しているわよね。恥ずかしいんじゃないかしら。ひみこちゃん。わたしたち終わったわよ。待たせたわね。次はあなたの番よ」

(つづく)

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