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第一幕 その5
巫女の姿をした卑弥呼がしずしずと登場。かれらの前を通り過ぎる。真っ暗な中、卑弥呼は上からのスポット照明で浮かび上がる。
トラが巫女に声をかける。
トラ「ひみこ、ひみこちゃんじゃないの?」
卑弥呼、声のする方に無表情で振り返る。
トラ「私よ、トラよ。金瓶村のトラよ。あんたが子供の頃に住んでいた家の隣にいたトラよ。大きくなったわね。思い出さない? いえ、思い出したくない故郷かもしれないわね。でも、ひみこちゃんなんでしょ」
卑弥呼「そうですけど」
トラ「やっぱりひみこちゃんだ。きれいになったわね。おばちゃんを覚えてる? トラよ。よくうちにも遊びにきたじゃない。一緒に盆踊りに行ったわよね。こっちは庄助おじさん。覚えてる? おじさんとはよく最上川に釣りに行ったじゃない」
庄助「ひみこちゃん、しょうちゃんだよ。ひみこちゃん、しょうちゃん、しょうちゃんって呼んでたじゃないか。小学校4年の時、あんな事件があって村を出て、何年になるかね。15年? もう15年にもなるんだね。いままでどこでどうして暮らしていたんだい。おじちゃんたちもずっとひみこちゃんのことを心配していたんだよ。ひみこちゃんは今何をしているんだい?」
卑弥呼「羽黒山来世聖社の巫女をしております。私が十歳の時に亡くなった父と母の霊が納まっている「黄泉二号」様に仕えております」
トラ「そうかい、そうかい。そりゃあご両親も黄泉二号の中でお喜びのことじゃろう。
この子はかわいそうな子なんだよ。この子が小学校四年生の時、真夜中に強盗に入られ、お父さんとお母さんが殺されたんだ。二人はバットで頭を割られていたんだよ。わたしらが夜明けに発見した時には、荒らされた部屋は血まみれで、その中に呆然としたひみこちゃんがへたりこんでいたのよね。強盗犯人は今でも捕まっていないわ。本当にいいお母さんとお父さんだったわよね。一家三人で幸せに暮らしていたのにね。
いや、口が軽いこと。こんなところで思い出させてすまなかったわね。ああそう言えば、明日からお盆じゃない。黄泉二号の中の死者もお盆の3日間はそれぞれの家に帰ることになっていて、この聖社もお休みなんでしょ? お休みの間は何か予定でもあるの? よかったらおばちゃんの家で過ごしたら? この15年の間に一度くらい故郷に帰ったことあるの」
卑弥呼「いえ、ありません。せっかくのお誘いですが、ご遠慮いたします」
トラ「そうよね。あんな凄惨な思い出のあるところに帰りたくないわよね。でも、ひみこちゃんの家は事件の後ですぐに取り壊されたし、道路も広くなって、全然昔の面影ないわよ。積もる話もあることだし、いらっしゃいよ」
卑弥呼「ご厚意ありがとうございます。ですが、お盆もこの聖社に残ります」
トラ「そんな寂しいことを言わないで。残っても、死者の霊はそれぞれの家に帰ることになっていて、来世聖社はもぬけの殻になっているんでしょ。そう言えば、お父さんとお母さんにあの事件の後に会ったことあるの? 会えなかったでしょう。黄泉二号ができたからといって、誰でもが自由にどの死者とも会うことができるわけじゃないのよね。昔で言う位牌を持っている人でなければ、その死者と会うことができないのよね。法律で決まっているのよ。会えるのは、お盆の最後の夜の丑三つ時から夜明けまでなのよ。事件のあとであなたの行方がわからなくなったので、国からいただいた位牌の管理は私たちがずっとしてきたのよ。でも、あなたのご両親を一度も呼び出していないわ。あなたを差し置いてご両親と会うなんてことできるわけないじゃないの。あなたをご両親に会わせたくて、八方手を尽くして探したわよ。でも、今日まで探し出すことができなかったわ。そうよ、これも黄泉二号のご利益だわ。さっき引いたおみくじ当たっていたわ。大吉、待ち人とすぐに会える。大当たりよ。15年間探していたひみこちゃんにこうして会えたんだから。15年ぶりにご両親に会いなさいよ。ご両親もきっと会いたがっているわよ」
卑弥呼「会えるんですか、父と母に」
トラ「会えるわよ。お盆よ。もしこのお盆に会わなかったら、また1年待たなければならないのよ」
卑弥呼「それでは、せっかくですからご厚意に甘えてお邪魔します」
近藤「そうしなさい。それはよかった。いいお盆がやってきますね」
いたこ「わたしが言うのもなんだけど、口寄せよりも今は情報科学の時代よ。ご両親と15年ぶりのご対面ね。親御さんにしっかり甘えなさいよ」
暗転
(つづく)