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戯曲黄泉二号伝説  作者: 美祢林太郎
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第四幕 その2


坂本「インコ教団、最高幹部村上庄助とトラ出てきなさい」

庄助とトラは忍者の装束を着て登場。ひざまずく。

卑弥呼「村上のおじさまとおばさま」

庄助「卑弥呼様、お怒りを、もっとお怒りを。その怒りのエネルギーによって黄泉二号を破壊してください」

坂本「これがかれらの正体なのです。おまえたち、自分の教団を守るためとはいえ、年端もいかない子に不憫なことをしたものよのう」

卑弥呼「それはどういうことです」

坂本「ひみこさん、気をしっかり持って、おれがこれから言うことを聞いてください。あなたが思っているご両親はあなたの育ての親であって、生みの親ではありません。それに、あなたは育ての父親も殺していません。あなたが金属バットで殴っても、父上は死んでいなかったのです。殴り殺したのはそこにいる庄助とその一味です」

卑弥呼「なんですと」

坂本「あなたはインコ教団十三代目の巫女として、さる高貴なおかたから生まれてきました。ですが、事情があって、生まれてすぐに養育係に引き取られました。その養育係こそがあなたが実の親と信じ、育ててくれたご両親です。

インコ教団の巫女として生まれたあなたには、教団の使命が刻印されていました。それが黄泉二号の破壊だったのです。科学技術によって誕生したスーパー量子コンピュータの黄泉二号に、幻想としての神はどこにも入り込む余地はなかったのです。神不在でも、あの世ができてしまったのです。かれらにとって、あの世は神の存在するパラダイスであり、なににもまして神聖なところでなければならなかったのです。そうであるべきあの世が黄泉二号に蹂躙されたのです。その屈辱はわからなくもありません。顔にしょんべんをかけられたようなものです。精神にウンチを投げつけられたようなものです。

インコ教団の最高幹部である村上庄助とトラは黄泉二号を破壊するための作戦を綿密に練りました。ひみこさんには生まれ持った巨大な潜在能力がありました。国家と対決するためには、それを利用し、その能力を最大限まで引き出さなければならなかったのです。そのための方法としてかれらが選んだのが、あなたをおかし黄泉二号に入った父親殺し、というストーリーだったのです。あなたの父親に対する激しい憎悪のエネルギーこそがひみこさんのスペックを最大限に引き上げるものだと考えたのです。それは間違っていませんでした。こうして、インコ教団の熱心な信者であるあなたの育ての親に指令が下ったのです。楽しい誕生パーティを終えた夜に父親が娘を強姦し、止めに入った母が死に、娘が父を殴り殺す、という凄惨なストーリーが作りあげられたのです。あなたを強姦した獣のような父親は、世界から消えることもなく黄泉二号のあの世でのうのうと生き永らえているのです。あなたは恨みを晴らすために、父親を消し去ることに、黄泉二号を破壊することに、一生を捧げることになったのです。

ひみこさん、あなたはあの日庄助とトラに羽黒山来世聖社で偶然に会ったわけではありません。かれらは、あなたがあの家を出た十歳から今日にいたるまで、ずっとあなたの影として付き従ってきたのです。かれらはあなたを15年間監視し、時に援助もしてきました。そして憎悪が増幅するように、さまざまなかたちで洗脳してきたのです。

かれらの予定が狂ったのは、あの夜あなたがわたしと出会って、あなたがかれらの家を飛び出したことでした。かれらはこの三か月間、あなたの足取りをつかむことができませんでした。われわれの月山での三か月は彼らには知られていなかったのです。かれらは焦ったはずです。事は終局に向かっていたのですから。あなたはオペレーションセンターの場所のおおかたの検討をつけていましたね。あなたはそのオペレーションセンターを発見し、教団の信者たちと一緒に破壊する予定でした。その時、全信者から崇め奉られることになっていたのです。真の殉教者として。

しかし、オペレーションセンターを発見することはできなかった。ですが、狂ったあなたが黄泉二号に入り込むことによって、結果としてインコ教団の大願は今夜成就するはずでした。かれらはそれを見守りにきたのです。暗闇の中にらんらんと輝いている二千の目を、あなたはわかりますか」

トラ「卑弥呼様、あなたはインコ教団13代目の巫女さまです」

坂本「ひみこさん、先ほども言ったように、あなたの記憶には間違いがあった。10歳のあなたが金属バットで父親の頭を殴っても、父親は死なない。たんこぶができる程度です。あれは血糊を使った父親の演技だったのです。それに母親も死んでいなかった。かれらを金属バットで殴り殺したのは庄助だったのです。教団の命令でかわいい娘をおかさざるを得なかった父親は、喜んで殴られて死んでいきました。あなたを見つめる母親の目には涙が流れていたと聞きました。その後、強盗の仕業に見せかけるために窓ガラスが割られ、タンスの中身が引き出され、土足で部屋が荒らされました。実際にそれを行動に移したのは、ここにいる信者たちの誰かだった。そうだな、庄助、トラ、おまえたち」

庄助「その通りです。すべては忌まわしい黄泉二号を破壊するためだったのです」

卑弥呼「わたしの、わたしの十五年は、父への憎しみの十五年はあなたたちが描いた筋書きだったのですか。わたしはただ踊らされていただけだった、というのですか」

トラ「すべてはインコ教団のためです。ひいては世界の平和のためです。人類の過去と未来のためです」

卑弥呼、坂本からデーモンを奪おうとする。坂本それを阻止する。

卑弥呼「わたしを狂わせてください。デーモンを、デーモンをわたしの手に」

坂本「インコ教団、おまえたちもひどいことをしたものよのう。こんな可愛い娘の一生を狂わせたんだからな。

 おっとどっこい。ここからが本筋よ。耳をかっぽじいて、みんなよく聞け。庄助、トラ、インコ教団、そして近藤、土方、沖田、おまえもだよ。それだけじゃない、日本国民全員、いや世界中の人間が騙されていることを知らないんだからな」

(次回はいよいよ最終話。つづく)


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