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戯曲黄泉二号伝説  作者: 美祢林太郎
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第三幕 その3


そこに山小屋の戸を蹴破って新選組の近藤が登場する。

近藤「新選組局長近藤勇です。あの世からの逃亡者、岡田以蔵、お前を召し捕りにきた。観念しろ」

坂本「なんなんですか、あなたたちは。ちょうどいいところだったのに。ちょっと待ってくれない。すませた後だったら、好きにしていいから。もう、近藤さんのおもちゃになっちゃう」

近藤「何をばかなことを言っているんだ。神妙にお縄を頂戴しろ」

坂本「少しは気を利かしてくれてもいいでしょ。見りゃわかるでしょ。取り込み中なところぐらいは。無粋なんだから」

近藤「この強姦魔。あの世でできないからといって、この世に戻ってきてやることはないだろう」

坂本「もうこれ一回でいいんだから。一回できれば死刑でもなんでもして頂戴。あの世にいけなくても本望だから」

近藤「本当におまえは始末に負えない好き者だな。いま助けますからね、お嬢さん」

坂本「強姦じゃないって。これは両者同意の上だから。健全なんだから。ねっ、ひみこさん」

卑弥呼「そのとおりです」

近藤「なんだ、その冷めた言葉づかいは」

卑弥呼「これは合意の上のセックスです」

近藤「女性がそんなに真面目腐って口にする言葉ではありません」

坂本「わかっただろ。さあ、行った、行った」

近藤「岡田以蔵、あの世からの脱走の罪により逮捕する。もう逃げることはできないぞ」

卑弥呼「以蔵さん、逃げてください。ここはわたしが」

近藤「何を小癪な」

坂本と卑弥呼、それを追って近藤は雪の降りしきる戸外へ出る。

近藤「土方さん、沖田さん、二人は表に出ました」

近藤と土方、沖田は刀を抜いて二人の前に立ちはだかる。

近藤「観念しなさい。手向かうとご意見無用のこの虎徹の露と消えることになりますよ。お嬢さんあなたは何者ですか。かなりの使い手とみえる。お嬢さん、あなたは岡田とどういう関係にあるのですか」

卑弥呼「わたしですか。近藤さんあなたはわたしを忘れたのですか。八月十二日に羽黒山来世聖社で会ったわたしのことを」

近藤「あなたは聖社の巫女さん」

卑弥呼「あなたたちがわたしたちをずっとつけていたのは知っていました。今夜、この小屋の周りで我々の話を聞いていたことも」

近藤「強がりはやめてください。我々は決して知られていなかったはずです。雪の上に足跡もつけていなかったのですからね」

卑弥呼「あなたの羽織の都鳥の羽がわたしのもとに飛んで来たんですよ。新選組に月山は似合いません。京に帰りなさい」

近藤「都鳥の羽が飛んであなたのもとに。わたしとしたことが、不覚でした。われわれは岡田を追っていたのですが、一緒に行動するあなたが何者であるかをわかりませんでした。あなたが何者なのかを本部に問い合わせても、あなたの過去を知ることはできませんでした。あなたは何者なのですか」

卑弥呼「わたしこそが岡田をあの世から蘇らせた張本人なのです」

坂本「えっ、ひみこさんいま何て言ったのですか」

卑弥呼「ですから、岡田以蔵をあの世から呼び戻したのはわたしだと言っているのです」

坂本「冗談でしょ。あなたがわたしをこの世によみがえらせたなんて」

近藤「いったい何の目的があって」

卑弥呼「近藤さん、あなたもおわかりのようにあの世とこの世を攪乱するためですよ」

近藤「金ですか。何が目的ですか」

卑弥呼「金、そんなものはどうでもいいことくらい近藤さんもわかっているじゃないですか。黄泉二号ができたことによって、日本には巨大なバブルが発生したじゃないですか。もはやお金で動かされる日本人はいませんよ。借金するのはただの人生の悪ふざけですよ。日本人ならばもはや誰もお金に困っていないことは知っているでしょう」

近藤「ならば、なぜ」

卑弥呼「世直しですよ。あの世ができたせいで、日本が弛みきっていることに、近藤さん、あなたも忸怩たるものがあるでしょう。羽黒山で繰り返されている茶番を、近藤さん、あなたも知っているじゃないですか。いたこ、大仏、羽黒山詣で、いい加減にしてくださいよ。こんな破廉恥な国家に誰がしたのですか。わたしはほとほとこんな日本に愛想が尽きたのです。私がこの日本を混乱させるために岡田を利用したのです。世紀の強姦魔、岡田以蔵を蘇らせたのです。岡田、おまえが捕まらない限り、日本は不安のどん底に突き落とされたままです。おまえがこの世に生き続ける限り、日本は社会や経済の基盤を揺るがされ続けるでしょう。おまえが生きていることが、日本の心臓ともいえる黄泉二号の欠陥を露呈していることになるのです。岡田、おまえは生き続けるのです。逃げ続けるのです。さあ、ここは私に任せて。

おまえは所詮わたしの操り人形です。私の命令に従って、おまえは逃げまくるのです。そして出会った女をみんなおかすのです。それがおまえの使命なのです。おまえは生ける亡霊となって人々を不安のどん底に落とすのです。空が明るくなってきました。おまえは一人で逃げおおせることができます。ここはわたしが防ぎます」

坂本「いったいこのジェットコースターのような展開は何なんだ。あなたがぼくを生き返らせた張本人だと言うのですか。それが真相だというのですか。ぼくはあなたの操り人形だったのですか。あなたがぼくを利用したのですか。あの親殺しの話は嘘だったのですか。世直し、そんな話聞いたことがありませんよ。わたしにこの世で生き続けろと。もしかして、オペレーションセンターを探して黄泉二号に入ることも嘘だったのですか。わたしにただ生き続けろ、というのですか。

いえ、操り人形であろうと、あなたに利用されたのだとしてもかまいません。ただ、少し前までのわたしたちの愛が誠であったことを、あなたの口から言ってください。あなたがわたしにここで死ねと言われるならば、喜んで死にましょう。逃げろと命じになるならば、涙を流しながら逃げおおせましょう。しかし、その前に一言、愛していると、二人の愛の語らいに真実はあったと言ってください」

土方「いま、本部に問い合わせたところ、15年前、岡田以蔵が卑弥呼さんの両親を殺した犯人だそうです」

坂本「ええ、ぼくがひみこさんの両親を殺した犯人だって」

卑弥呼「ちまたでは、そういうことになっています。あなたはわたしの親の仇だということに」

坂本「えっ、ひみこさんも知っていたの」

卑弥呼「それがどうしたというのですか」

坂本「もう訳が分からないよ」

近藤「もういいでしょう。岡田以蔵を渡しなさい。岡田は親の仇ですよ」

卑弥呼「そうはいきません。岡田はわたしの最後のジョーカーですからね」

近藤「しかたがありません。二人を捕まえなさい」

新選組は刀を抜き、卑弥呼と坂本は拳法で応戦する。卑弥呼は足を取られてよろめき、そこに近藤の剣で腕が切られ血が滴り落ちる。卑弥呼は近藤に捕まる。

坂本が走る方へ、土方と沖田が追う。

坂本は雪の中で二人ともみ合ううちに崖に転落して見えなくなってしまう。

卑弥呼「以蔵さん、以蔵さん」と谷底に向かって叫ぶ。

近藤「ここからではもはや助かる見込みもないでしょう。すぐに死体を引き上げるように手配してください。ひみこさんと申されましたね。これであなたの陰謀は完全に潰されましたよ」

卑弥呼「はっ、はっ、は。これからですよ、近藤さん。最後のジョーカーは私が引くことにしましょう。この世にもあの世にも住むところがなかった岡田以蔵のためにも、わたしが最後のジョーカーを引くことにしましょう。こうなったら、わたしの手によって、黄泉二号をこの日本からこの地上から永遠に消し去ることにしましょう。当然、日本のこの浮ついた現世も崩壊ですね。あなたの愛した黄泉二号と日本の繁栄は風前の灯火です」

近藤「戯言を。強がりもいい加減にしなさい。美しいあなたが滑稽にうつります。いまのあなたになにができるというのですか。心配しなくとも、岡田をどのようにしてこの世に呼び寄せたか、じっくり調べあげてあげますよ。新選組の拷問は合法ですからね。近藤の拷問はきついですよ」

卑弥呼「雪に滴る真っ赤な血の色はまた格別ですね。わたしの血の色はひときわきれいでしょう。自信があるんですよ。拷問楽しみにしています。これからはあなたとわたしが引きずってきた過去の重みの闘いです。気合を入れて拷問してくださいね。期待を裏切らないように、わたしを喜ばせてください。じゃあ、まいりましょうか」

近藤「ヘリコプター、はしごをおろせ」

(つづく)

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