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戯曲黄泉二号伝説  作者: 美祢林太郎
11/16

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第三幕 その1


場所:月山の山中


坂本「まだ見つかりませんね」

卑弥呼「何を言っているんですか。まだたったの一週間ですよ。先は長いですよ」

坂本「もう疲れましたよ。チョコレートパフェが食べたいな」

卑弥呼「まだそんなことを言っているんですか。あの世に帰りたくないのですか」

坂本「もう、いいかな。こんなに大変ならあの世に帰らなくても」

卑弥呼「本気ですか。それなら、一人で下山してください。そこらじゅうに熊が腹を空かせて待っていますよ」

坂本「前言を取り消します。あの世に帰りたいです。帰らせてください」

卑弥呼「だったら歩くのです」

坂本「はい」


坂本「あった、あった。やっとありましたね。一か月経ってようやくこの鉄条網が見つかりましたね。おそらくこの中のどこかにオペレーションセンターがあるんですね。監視カメラもあって、厳重ですからね。これは近いですよ」

卑弥呼「近づかないでください。監視カメラに写ってしまうかもしれません。それに地雷だってあるかもしれないのですから」

坂本「地雷ですか。戦争じゃないんですから」

卑弥呼「国家の最重要機密を馬鹿にするんじゃない。機密を守るためならば、国家は人の命なんかどうとも思っていない。国家は八千万人の日本人の命を任されているんだ。なめるな」

坂本「ひみこさん、なんか戦争モードの言葉遣いになっていますね」

卑弥呼「えっ、そうですか。そうですね。自衛隊にいた頃の癖が出てしまうんです。とにかく赤外線カメラに気をつけながら、夜にこの鉄条網の周辺を調査してみましょう」

坂本「ひみこさんの肩に鳥の羽が」

坂本は卑弥呼の肩の鳥の羽毛を指に摘まむ。

坂本「この羽毛は何の鳥のものでしょう。ヒヨドリでもなさそうだし」

卑弥呼「ちょっと見せてください。これはカモメの羽毛ですね。それも、えっ。これはユリカモメの羽毛です。ユリカモメは古来より都鳥とも呼ばれていますが、こんな山の中に生息しているはずがないのですが。なぜここに・・・」

坂本「風に吹かれて飛んで来たんじゃないですか? それとも月山にもカモメがいたりして」

卑弥呼「そんなはずはありません。どうして・・・」


客席の一番後方から登場

坂本「もう二か月も経ちましたよ。ぜんぜんセンターの建物が見つかりませんね。もしかすると月山ではなくて、違うところにあるんじゃありませんか。湯殿山とか、はたまた東京の霞が関にあったりして」

卑弥呼「たしかにおかしいですね。地図のほとんどを塗りつぶしました。わたしたちは月山の全域を漏れなく調べたはずです。すると、あの厳重な鉄条網と監視カメラはいったい何だったのでしょう」

坂本「センターも地下にあるんじゃないですか」

卑弥呼「たしかにそうかもしれません。だとすると、そこには人が出入りするための入り口があるはずです。ともかく本格的な雪になる十一月まではあきらめずに調べましょう」

坂本「ああ、風呂に入りたいな。熱いお風呂につかりたいな。沢の水はもう冷たすぎますよ。でも、ひみこさんのお体は美しいですね。」

卑弥呼「ははは、盗み見たのですか。どうどうと見ればいいのに」

坂本「見たいのはやまやまなのですが、恥ずかしいじゃありませんか」

卑弥呼「なにを恥ずかしいことがありましょう。今度は互いに体を洗い合いますか。どうしたんですか、顔を赤らめて。以蔵さんは本当にうぶなんですね。希代の強姦魔が笑われますよ」

坂本「ほんと、ひみこさんの前では世紀の強姦魔もかたなしです」

卑弥呼「あの世に帰る前に、一度はおそっておかないと、岡田以蔵の歴史に汚点が付くのではないですか」

坂本「ああ、岡田以蔵に戻りたい。この体の坂本さんが邪魔しているんじゃないですかね。軟弱な坂本さんと中和されて、本来の岡田が登場できないのでは。坂本さんが恨めしい」

卑弥呼「坂本さんのせいにしないでください。以蔵さん」

坂本「そうですね。そうなんですが、ひみこさんの前では初恋の女性を相手にしているようで。初恋の女性がいたかどうかも思い出せないのに、おかしいですね」

卑弥呼「初恋ですか。そんな言葉がどこかにありましたね。忘れていました・・・。あっ、以蔵さん。雪です。雪がちらついてきました。初雪ですね」

(つづく)

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