はい、ヌギヌギしましょうね~
「では軌跡ちゃん、AD兵器開発史に残る、実際に製造が成された純国産の機体を羅列せよ」
「GIX-001【元祖】、GIX-005【飛竜】、GIX-006【義仙】、GIX-P1【乙女】、GIX-P4【蕾】、GIX-P5【神姫】、GIX-P6【織姫】です」
「なぜGIX-013【クライシス】とGIX-021【グレムリン】を除外したか、理由を説明せよ」
「013と021は日本連合省及び高田重工と米軍による共同開発で、FH-026、及びFH-M3Rとして米型番も存在するので、純国産とは言い難い為です」
「完璧だ。では次にトリプルゼロ型とP型の違いを簡潔に説明せよ」
「トリプルゼロ型は高田重工が【軍用兵器】として開発した為、陸戦兵器としての側面しかありません。対してP型は対クシュラを想定した設計が成されている為、外部ユニット【プラスデータ】を搭載して空中戦を可能とする仕様が追加されました」
「次。神姫から標準装備となった【電磁誘導装置】について説明せよ」
「電磁誘導装置はAD兵器の両肩部に大型装置が、各部関節に小型装置が搭載され、そこから磁場を形成します。
それまでは外部出力に任せた浮遊及び姿勢制御しか出来なかったAD兵器は、磁場の調整により機体制御、果ては機体の浮遊を常に行えるようになりました。強力な磁場で機体を常に引っ張り上げる事も、磁場を起点とした、重力を無視した姿勢を取る事なども容易です」
「一つ加えると、基本的に形成した磁場は機体を自立、及び空中での滑空を補助する程度の低出力だ。だがそれを調整する事により無理な姿勢制御も行える、というだけだな」
「質問です。蕾は全重量七十六トンもありますが、これでは搭載されているスラスター・ブースターのみで空中を滑空する事など出来ないのではありませんか?」
「そこで高出力ツインブースターのプラスデータが必要となるのだ。あれは軍用と対クシュラ、共用での開発だからな」
「なるほど、陸戦兵器としての側面を強く持たせる事も重要だった、という事ですね」
「当時、中京資本と思われる過激派テロ組織がGIX-006をどこからか流してきてな。それに対抗する手段として、米軍のFH-026と連携が取れる様にされていたのだ」
「では織姫に搭載されているRVエンジンについてです。あれの大本はクシュラの体内器官を模した物とお聞きしましたが、その辺りをご教授頂ければ」
「RV――リレクティブ・ヴォワチュールとは、クシュラが飛行を行う際に使う特殊な動力の事で、このエネルギーはクシュラの体内でのみ形成される。クシュラを捕捉する際はRVの散布粒子が確認されるので、この粒子を計測するRVセンサーを用いた捕捉方法が一般的だな。
高田重工がクシュラの遺体を解剖・解析し、体内構造を模したエンジンユニットを試作した結果、同様の動力を発揮させる事が出来た。RVは兵器的な側面を持たぬが、少量の水素から変換する事が可能なので、低コストで運用ができる。織姫が十年以上現役稼働しているのはこの辺りが理由だな」
(この人たちは何語を話しているのだろう)
当然日本語である。
ポロリとペンを落としながら、美奈子はヒマワリと軌跡が口にしていた問題と解答を頭の中で木霊させていたが、尚も理解などできなかった。
それは真里菜も同じだったのか、彼女は座学の授業が始まると五秒で机の上にうつ伏せ、寝息を立てていた。
「完璧じゃないか、軌跡ちゃん。これではもう座学の授業など必要ないな」
「座学の授業が多ければ多い程、お三方と一緒に居る時間が増えますからね」
必死に勉強しました、と答えた軌跡は席に座り、参考書を開いた。
参考書は新しく買い与えられた物の筈であるが、既に細部に至るまでがボロボロだ。転入する前に、どれだけ読み込まれたかが分かる。
「軌跡さんは、私たちと一緒に居るの、嫌なんですか?」
美奈子が訊ねる。彼女は視線を寄越す事も無く「嫌だ」と即答した。
「少なくともお前の様なバカと同じ空間に居る理由は無い」
「さっ、さっきからバカバカ言い過ぎじゃないですか!? 私だって頑張ってますっ!」
「その通りだ軌跡ちゃん。あまり瀬川を舐めるなよ」
ニッと笑みを浮かべたヒマワリが、一つの衣服を、軌跡の机へ投げ込んだ。聖アルト女学院の対クシュラ専攻に所属する生徒へ与えられる、AD兵器用パイロットスーツだ。
「起きろ真里菜、予定を早める。実習だぞ」
「ふにゃ……実習……? あー、よかったぁ、ふぁ。座学ってタイクツなんだもん……っと、よしっ!」
一度欠伸を漏らした後、ブンブンと首を振って眠気を覚ます様にした真里菜が、制服をおもむろに、脱ぎ捨てていく。
「な――!」
珍しく、狼狽える様に席を立ち、教室の後方へと後ずさる軌跡。美奈子はきょとんと首を傾げながらも、真里菜と同じく制服を脱いで、下着姿へと。
「どうしたんですか軌跡さん。これから実習だから、早く着替えないと」
「ば――俺、俺は……!」
「あはっ、軌跡ちゃん顔真っ赤だよ? 実は女の子の裸に弱いタイプ?」
くすくすと笑いながら、下着姿のまま軌跡へと近付いていく真里菜の姿を見て、軌跡は目をギュゥッと閉じて、正反対に口を大きく開いた。
「い、いいから早くパイロットスーツを着てくれ! 俺もすぐに着るから!」
「変な軌跡さん」
「ねー」
真里菜と美奈子は、それぞれ自身のロッカーにしまい込んでいたパイロットスーツを取り出した。
パイロットスーツは、美奈子が青、真里菜が黒を基本色とした物で、身体に密着する薄手の物だ。二人の身体全体がスーツに包まれると、自動的にスーツは肌に吸い付き、身体のラインを見せつけた。
「美奈子ちゃんってば、またオッパイおっきくなった?」
「そ、そうかなぁ……? これでも太らないように気を付けてるんだけど……」
「いいなぁ。アタシ全然おっきくなんないから」
「これからだよ! 女の子の身体は神秘に満ちてるんだから! ですよね、軌跡さん!」
「雑談をせずに、さっさと出ていけ……!」
ヒマワリに渡されたパイロットスーツを抱き締めながら、二人に出ていけと手でジェスチャーをしている軌跡の姿が――二人とも、面白くなかったのだろう。
「そんな事を言う軌跡ちゃんにはー」
「オシオキ、ですよ!」
「や、やめ――うひゃあ!?」
真里菜が軌跡の腕を羽交い絞めにして、美奈子が上着だけを無理矢理脱がしていく。
そこにはブラなど無い。谷間も無ければ山も無い、貧相な胸板があるだけだった。
僅かな沈黙。美奈子と真里菜は、互いに目を合わせて、互いの胸を確認した。
美奈子の胸は大きく育った豊満な物。真里菜の胸は大きくは無いが綺麗な丸みの整った形を有している。
それに比べて――
「あー……ごめんね、軌跡ちゃん」
「ご、ごめんなさい、軌跡さん」
「同情は良いから、さっさと離れて出ていけ二人とも――っ!!」
軌跡の絶叫だけが、聖アルト女学院の校舎中に蔓延った。