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お姉さんたち、戦いに出向きます。

「最近クシュラの動きが沈静化してないか」



 尋ねたのは、対クシュラを専門とする、連合軍日本横須賀支部・第一作戦部隊の副隊長を務める、笹部蓮司だ。


 彼は無精ヒゲに手をやりながら、目の前の量子PCに視線を向け、周りの返答を待った。



「日本に来る、と言葉が足りませんよ、副隊長」



 彼から少しだけ離れた机に座る、一人の女性。女性は連合軍の制服をさらりと着こなし、静かなタッチでキーボードに触れている。キータッチによって加えられる情報が、クラウド経由で笹部の量子PCにも常時更新され続ける。動きには迷いが無い。



「テキサス本部、イタリア支部、フランス支部、ベトナム支部でのクシュラ発生件数は通常通りです。日本は例外的に沈静化しているに過ぎませんよ」


「へいへい。東隊長の仰る通りで」



 女性――第一作戦部隊の隊長である東智香は、キーボードから指を離した後、笹部の隣に座る霧島サキに向けて指示を出す。



「サキ先輩。クシュラ発生率減少について、考え得る原因のリストアップをお願いします」


「ええー。アタシだけ?」


「副隊長はいらないって言っても提出しますから、お願いしないだけです」


「分かってるじゃないの東ちゃん」


「……戦闘中は良いですけど、執務中は隊長って付けてくれませんか? 私だって、執務中は『笹部先輩』じゃなくて『副隊長』って呼んでるのに」



 気恥ずかしそうにお願いをする智香を、蓮司が笑う。



「普通逆だろ。執務中は誰が聞いてるわけじゃないが、戦闘は音声記録されてるんだぜ」


「だって戦闘中は実質、副隊長の隊ですから。執務なら、私が隊長なのは明らかですし」


「俺は執務がどうしても苦手でね。あんまりそっちで責任背負い込みたくねぇのよ」



 元々、笹部はとある隊長の元で第一作戦部隊の副隊長として働いており、元隊長が退役した後、本来ならば隊長としての職務に就く筈だったが、それを拒否。


 後に彼の推薦の元、当時第一作戦部隊で一番若手であった東智香が籍に就いたと言う事情があった。



「何で私を選んでくれなかったんですか副隊長ー。あの時も私、この隊のナンバースリーだったのに」



 サキが、茶化すようにそう尋ねると、蓮司が溜息をつきながら答える。



「真面目に答えると、お前に任せると隊が崩壊すると考えたからだ」


「真面目に答えたのに答えは真面目っぽくない!?」


「あー……でもわかります。サキ先輩って突っ込むのが凄い上手いですもん」



 逆に言うと、自分が率いる事に慣れていないという事だ。それには智香も同意すると、再びタイピングに戻っていく。



「で、副隊長からそういう話題を振ったって事は、何かしら理由を考えてあるんですよね?」



サキが蓮司に問うのは、クシュラ発生率の減少についてだ。「まーな」と同意し、デスクに置いてあったタバコを手に取って二人に見せ、同意を得た上で火をつけた。



「――あいつ等が、この近辺だけでも巣を叩いてるんだろうな」



 **



 くしゅんっ、と。中村スミレがクシャミをした。可愛らしいクシャミと共に口を手で覆い、周りに唾が飛ばないように配慮しながら、隊長室を出て、格納庫へと向かう。



「風邪? そろそろ涼しくなるからねー」



 同じく隊長室から出た、スミレの部下である鳴海ミズホがそう尋ねると、口元をティッシュで拭ったスミレが鼻を鳴らしながら首を横に振った。



「いや、ちょっとムズムズしただけ。お姉ちゃんから、報告は?」


「予定通り、軌跡ちゃんは今日からお勉強みたいだよ」


「じゃあそっちはお姉ちゃんに任せて――アタシたちは今からの作戦に集中するよ」


「オーライッ」



 格納庫へと辿り付くと、そこには自動整備装置に格納されて整備が行われている、二機のAD兵器があった。



金色の光を放ち、無骨な重火器が目を引く、鳴海ミズホ専用の試験装備型・GIX-P6AT【織姫】


 薄い桃色の機体色と洗礼された四肢、変形機構を備えた中村スミレ専用のAD兵器・GIX-X10P【乱菊】


 それぞれの専用機に乗り込むと、管制室から通信が入り、それを二人が受ける。



『お二人とも。今回も面倒なお仕事を引き受けて頂き、ありがとうございます』



 管制室で作戦指揮を行う、霜山睦二佐の声が聞こえる。


 透き通るように綺麗な声が聞こえ、二人はシートに腰かけながら機体の最終チェックを行いつつ、口を開く。



「目標の位置と規模は?」


『お二人なら問題無く殲滅できるレベルの巣です。確認されている個体数は四十五体。巣ごと破壊して頂いて結構ですので、艦隊攻撃の後、残党をお二人で処理願います。


 座標位置は、横須賀基地より千キロ程離れた、元ギガフロート建設計画跡です』


『ギガフロ……何だっけそれ』


「オーストラリア連合と日本連合省が合同で建設を行うはずだった人口島の名称。連合軍が長時間作戦を行う際に利用する事を目的として開発される予定だった。けど中京連合省の横槍が入った事と、元々クシュラの巣が近くにあった事から開発が困難になって、長らく建設計画は凍結されていたが、一年前正式に開発中止となった」


『中国が何で横槍入れたの?』


「中国と中京共栄国は、もはや別国だぞ。――まぁ、あんまり軍事設備を拡大されると、いざ連合軍が解体された後の軍事力が、日本と差が出るからって言うのが主だったものだろうな。表向きには軍備増強における重要度の低さ指摘ではあったけど」


『それはともかく』



 声が、スミレとミズホの勉強会を遮った。



『今でこそ、この規模で済んでおりますが、今後次第ではもっと巣の規模は拡大しかねません。よって優先順位を繰り上げし、ギガフロート建設計画跡にある巣の破壊に踏み切ったのです』


「了解」


『了解でーす』


『では、作戦開始時間二分前です。――ご武運を』



 スミレとミズホは、残りの二分で出来うる限り、機体のシステムチェックに入る。


 少しでも操縦に迷いが生じれば、それだけで死に至る危険性を孕んでいる任務だ。



『こっちはオッケー。スミレは?』


「アタシも行ける――作戦開始、十秒前」



 カウントダウンが開始される。管制室の女性士官から放たれる声に耳を預けながら、エンジンを温め機体の操縦桿を強く握り閉めると、カウントダウンがゼロとなった。



『鳴海ミズホ、織姫。ソッコーで片付けるよ!』


「中村スミレ、乱菊。出撃する!」



 二機のAD兵器が出撃していく光景。その後に、ADを超える速度で放たれる、無数のミサイル群。


 それが眼前のギガフロート建設計画跡に着弾した事を確認した後、二機は背部スラスターを稼働させて、突撃した。

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