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伸ばされる手、抱きしめる体

 こうして、クシュラ討伐任務として現れた連合軍所属の織姫三機は、金匱との戦闘に明け暮れている。


 蓮司が駆る織姫の二番機に向け、乱菊が背中を合わせると、接触回線が開き、会話が成された。



『お久しぶりです、笹部さん』


『おう、スミレちゃん。これどういう事だ。なんで中京の機体が』


『アリスの遺産が狙われています。少しでも戦力が欲しくて、第一作戦部隊に嘘をついちゃいました。ホントにごめんなさい』


『じゃあ、あのクシュラの大群は』


『はい、遺産が操っています』



 会話をそこそこに、乱菊が残る金匱の討伐に当たる。その姿を見据えながら、蓮司は「なるほど」と小さく呟いた。


 以前ヒマワリと話した案件が、今まさに訪れている、という事だ。



――ならば、アイツの願いを叶えてやる他無いじゃないか、コンチクショウめ!



『おい隊長、俺たちはまず金匱の迎撃に当たるぞ! 奴らの好きにさせたら、クシュラの制御は中京に奪われる!』


『とか言って副隊長ー。ホントは可愛い男の子に向けてカッコつけたいだけでしょー?』


『 (ちょっとあるけど)そんなわけあるか! で、どうなんだ隊長殿!』


『……そうですね。クシュラを討伐しようにも、金匱がこちらを狙ってくるのならば、迎撃をしなければならない事は確かです』



 では、と。



 思考を整理した智香が、強い口調で叫ぶ。



『各機、まずは金匱の迎撃に当たってください! その後、クシュラ討伐に入ります!』



 待ってました、と蓮司が声を上げ、自身の機体が持つ遠距離狙撃兵装の引き金を引き、金匱の頭部と腕部をレーザーで焼き落とす。


 その姿に続き、三番機のサキが駆る織姫が、レーザーサーベル二式を用いてコックピット以外の部位を切り落とした。



**



まるで攻撃の意思を見せぬクシュラの大群。その隙間を縫う様に駆けた刹那が、真里菜のしがみ付くクシュラへと接近しようとした時、襲い掛かるは紺色の機体。



『させん』


『真里菜を、渡すわけにはいかない!』



 掌のビームマニピュレーターを展開させながら襲い掛かってくる敵機――エネルの攻撃を、美奈子がバックアップしながら避け、思い切り蹴り付けた。



「邪魔っ!」


「なんだよぉ――ッ!!」



 軌跡は、脳内のイメージをフル活動させる。


 出撃前、乱雑に掴んだ一対の日本刀――【師走八式】と言う名称の武装を抜き放ち、それを一振りずつ、振り切った。


斬撃を紙一重の所で回避したエネルは、機体を刹那へと重ね合わせ、二機は顔面と顔面をぶつけ合う。



『真里菜は、ボクの……ボクとバルドの世界を守る為に必要なんだ! 邪魔はさせない!』


「知るかそんな事! いいから――そこをどけェッ!」



 二機が、脚部スラスターを吹かし、その機体同士をぶつけ合いながら、真里菜を背負うクシュラへ近づいていく。


 他のクシュラは、その行動を咎める事は無い。 真里菜を背負うクシュラの前で、刹那とエネル、二つの機体が叫ぶ。



「真里菜! 俺だ、軌跡だ! 助けに来た。君を助けに来たんだ!」


『真里菜! ボクには君が必要なんだ! ボクを救ってくれ! お願いだっ!』



 二人の叫び声が、スピーカーを通じて――確かに、真里菜へと届く。


 真里菜はクシュラの甲殻を掴みながら息を呑んで、後ろめたそうな表情で、俯いた。



「……ゴメン、ソウキ君」



 ――君を助ける事は、出来ない。



真里菜はそう言いながら、刹那に向けて手を伸ばす。刹那の左腕も同様に伸ばされるが……その腹部を、エネルが強く蹴り付けた。



『ソウキ、お前は優しすぎる。真里菜は力づくでも!』



 バルドの声が響き渡ると同時に、真里菜へと手を伸ばしたエネルの腕部。


 だが周りに点在したクシュラ全体が、一斉にエネルへ襲い掛かった。


 クシュラの一体が、エネルへと体当たりを仕掛けた後、全体一斉に牙を、爪を、エネルへと向けて突撃していく。



『クッ――化け物共、退け!』



 そのクシュラを対処しようとしたエネル。今――刹那と真里菜には、隙が出来た。



「軌跡ちゃんッ!」



 行くよ、と。真里菜は叫び。



「来い、真里菜っ!」



 刹那のコックピットハッチを開けた軌跡がハッチに立ち、彼女の声へ応えた。


真里菜は、軌跡と視線が合うと、そのままクシュラを掴む手を――離し、空を舞った。


海風に煽られながら、空を舞う真里菜の体。真っ直ぐでは無い。だが足掻きながら、彼女は軌跡へと手を伸ばす。


コックピットハッチに足を着きながら、真里菜を追うように動く刹那の上で、落ちないようにバランスを取る軌跡。


 彼も、真里菜に向けて、手を伸ばす。


あと少し、後もう少しで、その手が掴める。


後数センチ、後一センチ――



今、二人の手と手が、触れ合った。



軌跡と真里菜は互いの手を掴み、軌跡が彼女の体を、思い切り引き寄せ、抱きしめる。



「良かった――君を救い出せた」


「すっごく、ドキドキした――良かった。本当に……」



胸に感じる、彼女の温もり。軌跡はホッと息をつきながら、コックピットの中に入り込み、ハッチを閉じた。


 真里菜は、そのまぶたから涙を流しながらも、笑顔で喜んでいる。



「軌跡君っ」


「助かったぞ、美奈子っ」



軌跡は、彼女の体を抱えたまま、操縦桿に触れ、再び神経接続を開始。


 今まで美奈子の外的操縦により覚束ない動きをしていた刹那が、しっかりと動くようになる。


 そんな動きを見据えながら、今最後のクシュラを撃墜したエネルが、刹那へと突撃してくる。



『真里菜を返せッ! 返せよッ! ボクとバルドが幸せになる為には、真里菜が必要なんだッ!!』



 ソウキの、奇声とも言える絶叫が、スピーカー越しに聞こえる。だが、軌跡は彼に向けて、無慈悲な言葉を言い放つ。



「真里菜の意思で、お前たちを選ばなかったのなら――返すわけには、いかない」



 師走八式を抜き放ち、エネルと斬り合いに発展する。


 エネルは掌のビームジェネレーターを用いて師走八式の攻撃を躱し、あわよくば攻撃をしかけようとしてくる。


 しかし飛来する新たなクシュラ群。クシュラ達は軌跡達を守るように立ち塞がった。



「これ……真里菜ちゃんが?」


「ああ、この機体と」


「アタシが……操ってる、のかな……?」



 軌跡の手と真里菜の手が合わさると、機体メインモニタの隅に【Cshla System】と表記がされる。


今まさに、この機体を通し、真里菜がクシュラを操っているのだ。



 **



クシュラの大群を潜り抜ける乱菊と、その後ろを追いかけるミズホの駆る織姫は、敵艦【夢來】の甲板に機体の足を乗せ、各部重火器を構えた。



『英語は分かるな。こちら防衛省情報局第四班六課だ。今すぐ攻撃を停止し、こちらの誘導に従え。さもなくば撃沈させる』


『素直に応じた方が身のためだよ~?』



 英語で語り掛けた彼女たちの言葉も虚しく、夢來の艦砲が全て、二機に向けられる。二人は舌打ちをしながら、その引き金を引いた。


 スミレの乱菊はレーザーサーベルを艦橋に突き刺し、ミズホの織姫が肩部のミサイルユニットを展開。


 その弾頭を半分ずつ、残る二隻の艦艇に向けて放ち、それが着弾。


 火花を散らし、轟沈していく艦艇を見据えながら、二機が空に浮かび、その散っていく様を目に焼き付けていた。



『バカ野郎が』


『スミレ、エネルはどうする?』



 ミズホがメインカメラをエネルと、その機体と戦うクシュラへと向ける。だが彼女は『大丈夫だ』と言い切った。



『あの二人が――【ヒジリを継ぐ者】と【アリスの遺産】が揃ったのならば、刹那は無敵になる。……誰にも負けはしないさ』

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