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セツナノキセキ~女嫌いのオレがなぜ女装してロボットに乗らねばならんのだ!?~  作者: 音無ミュウト
第五章

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託された【力】

 機体の操縦桿に触れ、機体を起動させる。


NOS認証完了、機体エンジンが段々と温まっていき、先ほどまで自動整備装置で行われていた整備を中断。


 中断完了まで一分は掛かるので、その間にヒマワリが言っていた、動画データを見つけた。



「何ですか、それ」


「先生が絶対に見ろって言っていた、映像ファイルだ」



 動画の再生時間は五分も無い。まずは彼女の命令をこなす事にしようと、動画再生を開始。メインモニタ全体に映像が表示された。



『……あれ、これで撮れてるのかしら?』



 どうやらビデオカメラか何かで撮影された映像のようだ。


 少しだけ画素数の低い動画データは、メインモニタ全体へ映すにはドット荒れが酷く感じられたが、それでも映像に映る人物を認識する事は出来た。


動画に映る女性は、赤を基本色としたゴシックロリータで身を包み、ウェーブの効いた金髪をなびかせながら、外観に似合わぬ畳の上に、綺麗な正座で座り込んでいた。



『……はいっ。この映像を、軌跡とマリナが見ている事を願います。他の人が見ていたら、軌跡とマリナに見せてあげて下さいね』



 女性は、動画を撮影しているカメラに向けて、語り掛ける。ニッコリと微笑む穏やかな表情は、まるで聖母のように、軌跡の心を引き寄せた。



『軌跡、私が分かるかしら。分かったとしても、恨んでいるでしょうね。


 ――私は、貴方のお母さん。式波アリスです』



「……母さん」



 映像に映る女性――式波アリスは、そこまでを語ると、何を言っていいのか分からないのか、首を傾げたり頬に手を当てたりしていたが、しばしの時を経て、再び言葉をカメラへ投げかけた。



『ええと。今から私は、この世界を滅ぼす為に、クシュラを従えます。


 貴方がこの映像を見ている世界は、私によって滅んでしまった後の世界か……私の企みが失敗し、滅ばなかった世界か。それはわからない』



 ――でも私は、今から貴方を捨てる事になる、と。彼女はカメラに向けて言い放った。



『私は、私の愛した中村ヒジリを殺したこの世界が、本当に大っ嫌い。本当に恨めしい。……だから、この世界を滅ぼすことに決めました。


 その世界に、貴方を連れて行きたかったけど、それは許されない事なの』


「なんで、なんで許されないのさ。俺を連れて行ってくれればよかったじゃないか。


 俺は、母さんと一緒に居たかった。どんな世界でも、俺は母さんと居られれば、それで――!」



 思いを叫ぶ軌跡の言葉がまるで聞こえているように、モニタ越しの彼女は答えた。



『この世界が滅びなくても良いと、僅かに思っている自分がいるの。


 ――貴方が、そしてマリナが、幸せに生きる世界。私の企みが失敗した時、貴方達が幸せに生きる事が出来るのならば、って考えちゃう。


 だから、貴方は連れて行かない事にしたの』



 ダメな母親、ダメな復讐者。


 彼女は自身をそう自虐した。


 だがそれでも――彼女は、笑顔でカメラに向けて言い放つのだ。



『でも私は、貴方を一人の息子として、愛してる。


 貴方が大好きで、貴方の大きくなった姿が見たい、何時まで経っても「お母さん」って、そう呼んで欲しい。


 ……だから、もし私が生きて帰れたら、貴方を迎えに行く。その時は、この映像は無駄になる。


 でも生きて帰れなかったら……何時かこの映像を見て、私の事を、思い出して』



 彼女は胸に手を当てて、まるで誇る様に、祈る様に願うのだ。



『大好きな軌跡。貴方は私の宝物。


 どうかこの機体と、どんな世界だとしても、生きて欲しい。


 この機体が、貴方の大切だと思う人達を、守る為に必要な力として役立つように、願ってる。


 ――今まで本当に、ありがとう』



瞳に浮かべた涙を、頬に流しながら、最後にニッコリと笑みを浮かべた彼女の姿。そこで、映像は途切れた。


映像を全て再生し終わった時、機体システムは既に起動を完全に終わらせていた。


 自動でシステムチェックが終了、動かせる状態となった事が分かる。


軌跡は、いつの間にか流れていた涙を止める事無く、ただ嘆きの声を上げていた。



 ――母さんは、俺の事を捨てた。その事実は、決して変わらない。


 ――だけど、俺の事を見捨てたわけじゃなかった。


――俺の事を絶えず愛してくれていた。


 ――だからこそ、こうしてビデオに残して、俺に言葉を投げかけてくれたのだ。



「軌跡君」



 美奈子の声だ。しかし涙は止まらない。軌跡は「すまない」と一言謝りつつ、拭っても拭っても溢れ出る涙を堪える術を、知らずにいる。



「泣きながらで、大丈夫です。――お母さんの想い、軌跡君は託されたんです」


「母さんの、想い……俺が、託された……?」


「お母さんは、この刹那を、軌跡君の【力】として、遺したんです。


 真里菜ちゃんを救うための力。これから軌跡君が、変わって行く為に、必要な力として」


「……ああ」


「だから軌跡君は、この力を使って、真里菜ちゃんを助け出す!


 邪魔する敵はぶん殴れば良いんですっ!


 単純明快、それ以上に必要な事なんて、今はありませんっ」



 そう――その通りだ。



自然と涙は止まった。軌跡は前へと向き直し、自動整備装置によって固定された機体の物理ロックを乱雑に解き放つと、一瞬だけ下方を見据えた。



ヒマワリの頬にも、僅かに涙の痕がある。



涙の訳は、後で聞こう。今は――



「行くぞ、美奈子――俺に、力を貸してくれ」


「任せてくださいっ」



 機体を前進させ、傍に有った二本の近接戦闘用のユニットを強引に掴む。


 サイドアーマーにマウントさせると、AD共通規格なのかすんなり格納できた事に少しだけ安堵し――息を吐く。



「行くよ、母さん」



――俺は、貴女の子供を、守りにいきます。貴女の遺した、もう一人の子供を。



下半身に、力を籠める感覚と共に、機体は空高く舞い上がって、空中で姿勢制御を行った。


羽ばたかんとする刹那。ただ前を向く軌跡。それを支える美奈子。



三つの力は今――伊勢真里菜という、一人の少女を助け出す為だけに、力強く飛び立った。



「真里菜――ッ!!」



 軌跡の叫びを、海色の景色へ轟かせながら。

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